【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その68】事後保全、予防保全、予知保全を賢く使い分けよう(その2)

※事後保全、予防保全、予知保全を賢く使い分けよう(その1)はこちらから

2.予防保全

予防保全とは、全面交換するには大変高額なコストがかかる、重要設備(生活に必須でかつバックアップが無い設備)が突然故障することが無いよう、設備の寿命を可能な限り延長する為の保守管理手法です。故障や不具合が発生する前に早め早めに定期的に損耗した部品の交換や分解整備を行うことで、多額の費用が掛かる全面交換を先延ばしするとともに、突発事故による二次的な支出を防ぐのです。

多くのマンションでこの予防保全をおこなっているのがフルメンテナンス契約で保守をするエレベーターです。特にエレベーターが1台しかないマンションでは故障によってホテル住まいを余儀なくされる高齢世帯や身障者世帯もあるかもしれません。

前回のコラムで触れた給水システムはこの予防保全の対象とすべきでしょうか。十分な修繕積立金を確保できており、断水はおろか給水制限すらあってはならないと判断するのであれば、予防保全でよいでしょう。しかし管理会社がいつも提案する全面交換である必要は無く、分解整備でいいのです。全面交換を極力先延ばしにするのが予防保全ですから。

いかに分解整備しても、老朽設備は新設の設備よりは故障のリスクが一般的には高まります。しかし1系列に4台設置のポンプのうち1台はもともと予備のポンプですから、ポンプが1台故障しても断水には至りません。

予備の1台が壊れたタイミングで、更に2台目が壊れたらどうでしょう。マンション全体の使用水量の増加に応じて1台から2台、2台から3台のポンプが順次応援しながら運転します。最大の水量を使用する時間帯では3台のポンプが動いていますが、この時予備ポンプが故障し、3台のうち1台がさらに壊れても実は断水には至りません。2台のポンプがフル稼働しているので、蛇口から出る水の勢いが十分でないといった不都合はありますが、断水にはならないのです。

では、制御基板が破損して自動運転ができない状況となればどうでしょう。前回取り上げたマンションは、4棟の団地です。2棟ずつ専用の給水ユニットがあるため同じユニットが2系列分あるのです。故障した制御基板に正常なユニットの制御基板を差し替えて、2棟ずつ時間制限で給水することが可能です。(前回のコラムの事例では予備の基盤を調達することが可能でしたから、予備品があればこれを取り換え、短時間で復旧できます。)

管理会社のセンスからすれば非常識ともいえる提案でしょう。でも、これらのまさかの事態における対応をあらかじめアナウンスし、組合員の皆さんが、給水設備の更新費用を先送りする経済メリットと引き換えに、受忍することになるリスク(一定の可能性で発生する不便)との比較衡量で判断する問題だとお分かりいただけると思います。乱暴な議論のようですが、とはいえ、震災などで長期の停電が続く中で完全断水を強いられるのとは次元が異なるリスクを検討しているのだとご理解ください。

 

3.予知保全

日常の保守管理の中で、設備の運転状況を観察し、設備ごとに観察すべき項目(電流値、電圧値、吐出圧力、温度、運転音、振動、臭い、色、運転回数・頻度、運転時間等)を記録し、その変化や異常をもとに、臨機応変に必要な整備、修理、更新を行う手法です。

予防保全で部品の交換や分解整備を定期的に行えば、故障は減少するのですが、交換や分解整備の頻度とその範囲に定説がありません。大概は製造メーカーや業界団体の提案をうのみにするか、現場の経験や勘に頼らざるを得ない面があるのです。その結果、必ずしもライフサイクルコストの縮減にはなっていないとの指摘があります。また、頻繁に機器に人の手を入れることは、整備作業ミスや復元すべき機器の設定内容やスイッチ類の復元位置を誤ることにより、人為的な事故を引き起こす可能性があると指摘されています。

そこで新たに、注目を浴びているのが「予知保全」という管理手法です。別名「状態監視保全」といわれる方法です。日頃から機械設備の正常な運転状態を計測・記録して、その変化や異常を直ちに把握することで、故障の発生を察知し、必要なタイミングで修繕・更新を行うのです。

工場のプラントならいざ知らず、マンションではこのような高度な保守管理は望めないとおもわれますか?実はすでに皆さんのマンションでも実施済みかもしれません。そう、エレベーターの遠隔監視システムです。エレベーターの運行状況は保守管理会社に遠隔でリアルタイムで伝えられ、保守要員が現地に行くことなくエレベーターの異常を察知することを可能にしています。

もう一つ、給水設備ユニットの保守管理が対象となりえます。管理員が常勤のマンションでは,給水ポンプの電流値、吐出圧、ポンプの異音、振動,メカニカルシールからの漏水などを定期的に観察・記録するのです。管理会社がこの点に留意してポンプの点検記録を整備し、異常があれば会社に報告するよう義務付ければ、立派に予知保全に取り組むことが出来ると思います。

未だ、予知保全をセールスポイントにするマンション管理会社が、出てこないのは残念です。

One thought to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その68】事後保全、予防保全、予知保全を賢く使い分けよう(その2)”

  1. いつも大変に勉強になります。

    そういえば、当方実家(戸建)で使用していた電気温水器は実に27年使用をしていました。昨年末についに夜間電力により朝満量となっているはずの湯量がすぐにリモコン上の表示が「湯量少」かつ、蛇口から流れる「湯」が人肌程度でちっとも熱くならない。さすがに機材経年寿命かと思い機材交換(交換の検討は1年程前より行っていました)をしたものの、「給湯管破損」が発覚。(漏水状態により、電気温水器湯量がすぐに少なくなっていた)通常15年ともいわれる電気温水器寿命ですが、はるかに長持ちをしていました。ある頃より機器業者も「部品も既にないので、いじらないほうが良いでしょう」と言っていたとのこと。菅様の本日のコメントに妙に納得をした次第です。
    <<頻繁に機器に人の手を入れることは、整備作業ミスや復元すべき機器の設定内容やスイッチ類の復元位置を誤ることにより、人為的な事故を引き起こす可能性があると指摘されています。

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