【図面を取り戻せ!~大規模修繕後の戦い】9.策略

ところで、この11月の理事会の席で、I子さんと妻は、ある策略を実行に移していたらしい。

ヤツらの調査によると、大規模修繕の工事に取り掛かる前の説明会の席で、一人の住民から、次のような質問があったということだ。

「マンションの建設当初に何か不備があって、それが大規模修繕に響いてくる…なんてことはありませんか?」

建設当初の施工不良を大規模修繕で、僕らの積み立てた費用で直すことになるのは困る、との趣旨だったらしい。
「施工不良はありません!」
これがB建築設計の当時の担当者I氏の答えだったそうだ。

見積もりのための簡単な建物検査の直後だったため、担当者のこの発言は、信用のおけるものとみなされた。そして僕らのマンションは大規模修繕工事に突入したわけだが、「I氏のこの発言により、管理組合側は、施工不良について詳しく調査する機会を奪われた」とヤツらは考えたようなのだ。

大規模修繕工事の後になってわかったことではあるが、僕たちのマンションのタイルの修繕率は13%にものぼる高さだった。
「築10~15年で5%以上の修繕率であれば、建設当初の施工不良が疑われる」との裁判資料から考えると、マンションに施工当初の不良があった可能性は、限りなく高い。
ちなみに、B建築設計が事前の検査後に出した見積もりでは、タイルの修繕は5%。この数字自体、決して低いものではないし、この結果に基づいて修繕の前に詳しい調査を行っていれば、マンションの建築会社に、タイルの修理の費用を求めることも可能だったのかもしれない。
しかしI氏の「施工不良はない」との発言のせいで、僕たちのマンションは大規模修繕に突入することになってしまった。

とはいえ、当時の説明会の詳しい資料は残っていない。B建築設計側が、いまさらI氏の発言を認めるとは思えない…。
そう考えたヤツらは、エサとして、次のような質問を投げることにしたらしい。
「事前の説明会で、担当者から『施工不良はない』との発言がありました。最終的なタイルの修繕率の高さを考えると、お宅の会社の検査って、すっごくいいかげんなんじゃないですか?」

喧嘩をふっかけるかのようなこの質問に、M本氏は、憤然として答えたそうだ。
「私たちの仕事は、大規模修繕が滞りなく行うためのもので、施工不良を調査するためのものではありません。仮にタイルの浮きの多さが非常に高い数値であったとしても、施工不良を知らせる義務はなかったのですから、I氏の発言に問題があったとは思えません!」  

いかにも「言い負かされた〜」との悔しそうな表情を浮かべつつ、I子さんも妻も、内心は小躍りせんばかりの気分だったらしい。なんとなれば、M本氏の回答は、「I氏の発言があったこと」を前提としたものだったからだ。

「あんなに簡単に引っかかるとは思ってへんかった。」
妻たちはほくそ笑みつつ振り返る。
とりあえずこの一件については、かなり満足しているようだ。
「事前に想定問答をあれこれ考えて、練習していた甲斐がありました。」

妻たちのこの、ザルのように荒っぽい計略に引っかかってしまうとは、M本氏は、いったいどれだけ馬鹿真面目な人間なんだと、逆に感心しなくもないが、ともかくこの回答は記録に残され、そして、後の補償話に、有効に使われることになる。

(photo by photoAC)

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