【図面を取り戻せ!~大規模修繕後の戦い】20.部屋探し(2019年1月31日)

K青年からこの連絡を受けた1月31日、妻と僕は長崎にいた。僕の4月からの転勤が本決まりになり、急きょ住まい探しに出向いていたのだ。あらかじめ目星をつけていた部屋があったのだが、タッチの差で別の借主が決まってしまい、焦燥感を募らせながら、不動産屋のカウンターに座っていた時のことだった。ちなみに、平地が少ない長崎では、家賃の相場は、地方とは思えないほど高く、めぼしい物件の数も少ない。

妻がもともと目をつけていたのは、港を見下ろす高台に建つマンションだった。築年数はややかさむが、分譲用のマンションということで、設備はそう悪くはない。広さも家賃も許容範囲内の物件だったのだが、見学の予約を入れて長崎についたその日の朝に、借り手が決まってしまったというのだ。

「最悪やん。こんなことってあり得る? 代わりになるような部屋を、ちゃんと探してくださいねっ。」
不機嫌そうな妻の様子に、不動産屋の店員たちは、一様に押し黙ってパソコンでの検索を続けている。K青年の電話を受けたのは、ちょうどそんな時だった。

「今更そんなことを言われても困ります。理事会への出席要請をお断りになったのは、T技研のほうなんですよ。」
妻はいつもにもまして尖った声で応える。しかしK青年に文句を言ったところでらちはあかない。
「分かりました。私の方から直接Wさんにコンタクトしてみます。」
何度か電話を掛け直し、やっとW氏につながったようだ。思うような部屋が見つからないことに加え、この理事会出席要請の件で、妻のいらだちには、拍車がかかっている。
「次回の理事会ですが、出席を要請しておられるとうかがいました。ご用件を教えていただけますかっ?」
単刀直入に切り出した妻の質問に、W氏はしゃあしゃあと答えたらしい。

「『図面を提出して欲しい』というのが、本当に理事会の総意であるか、確かめたいんですぅ。K山理事長のお考えが確認できれば、すぐに失礼しますぅ。」

「では、せっかく理事会にお越しになっても、こちらの質問にはお答えいただけないということでしょうか。」
「交渉については、以前に申し上げた通り、弁護士を通じて行いたいと思いますぅ。」
どこまで調子のいい男なんだ。
「こちらの質問に答えていただけないなら、出ていただく意味がありません。」
電話を切ったものの、C技研からの申し出を、さすがに妻の一存で断ってしまうわけにはいかない。I子さん、Y子さん、それに一応K山理事長にもメールで連絡を入れて、相談する。
そうこうしているうちに、不動産屋の担当者は、候補となる部屋を幾つか探し出してきた。その日の午後は、これらの物件めぐりに時間を費やした。

その夜のこと。
新地の中華街で簡単な食事を済ませ、僕らは早々にホテルに引き上げた。
不動産屋の担当者が提案してくれた物件の検討と並行して、妻はメールでの相談を進めている。
これまでのやりとりを関知していないK山理事長は、
「向こうが出ると言っているなら、出席してもらうべきではないですか。住民の皆さんにも、その前提で、次回理事会への参加を呼びかけているのだから。」
との返事をよこしてきたらしい。対して妻たち三人の意見は、

「こちらの質問に答えてもらえないなら、来てもらう意味はないですね。」

と一致している。K山理事長が、「タイルの保証」について相手側とどのような話をしているのかがはっきりしない状態で、理事会の「内部分裂」を相手にさらけ出してしまうことへの警戒感も大きかったようだ。
例によって意見を取り入れてもらえなかった理事長は、
「前回の理事会で、『聞き取り調査のためにC技研の担当者を呼び出す』と決めたはず。」
と、反論してきたそうだ。
「なんなら臨時理事会を開いて、話し合いましょうか?」
妻は返信したそうなのだが、
「理事会の招集権は基本的には理事長にあります。請求されても開くつもりはありません。」
と、むくれ切っていたそうだ。

翌日の午前中、妻はW氏に、理事会出席要請「お断り」の連絡を入れる。
4月からの住まいについては、

「港の界隈に住みたかったのにぃ…。」

妻は文句たらたらだが、無いものは仕方ない。なんとか我慢できそうな部屋を確保して、僕らは長崎を後にした。

(photo by photoAC)

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