【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その67】事後保全、予防保全、予知保全を賢く使い分けよう(その1)

1.事後保全

事後保全とは、機器や設備を特段の手入れをすることなく、壊れるまで使い続け、壊れたらはじめて修繕若しくは取り換える管理方針です。
無計画で行き当たりばったりの維持管理は、計画的な維持管理に比べ建物の生涯にわたる維持管理コスト(ライフサイクルコスト)を増大させると教科書的には解説されることが多いようです。

確かに壊れるまで使い続けると、壊れた際には修繕が完了するまでの間、不都合が生じます。これが原因で工場の生産ラインが止まるなどすれば甚大な被害に波及する場合もあるでしょう。だからこそ次に解説する予防保全こそ重要というわけです。

__とはいえすべての設備にこの考えを適用すべきか、はなはだ疑問です。

壊れてもいないものを、すべて壊れる前に整備もしくは取り換えるとは無駄ではないかということです。(ライフサイクルコストが増加する)

あなたのご家庭で、蛍光灯やリモコンの電池を切れる前に定期的に取り換えておられますか?

そんなことはしませんよね。これが高級ホテルの客室ならどうでしょう。客室の電球切れやテレビのリモコンの電池切れは信用問題であり、絶対に避けねばなりません。

要は、最後まで使い切るという事後保全の場合のメリットが金銭価値に置き換えていかほどなのか。故障して復旧するまでの期間がどの程度で、その間の不都合がマンション住民の受忍限度を超えるのか。この比較衡量の問題なのだと思います。

予算も潤沢で超高級マンションの管理組合と、大幅に不足する修繕積立金の値上げ改定の合意がなかなか得られない管理組合では、おのずとその価値観も異なります。みんながこの程度は我慢できると考え、お金を節約するなら仕方ないとの合意ができていれば、以下の事例は事後保全としても問題ないでしょう。

①廊下の照明は管球が切れるまで使い、管球が切れた都度取り換える。
②自動火災報知機の感知器は故障するまで使用し、6カ月毎の定期点検に不合格となった場合や突然の故障で鳴動した場合に交換する。
③庭の流水路の循環ポンプは故障するまで運転し、故障した場合は取り換える。取り換え工事の間、水は循環させない。夏場に水が腐敗する恐れがある場合はポンプを取り換えるまでの間、水抜きをする。

大切なのは管理組合の合意があらかじめ形成されているかどうかなのです。

自走式の駐車場の入り口にリモコンゲートがついているマンションで、管理会社から、ゲートが既に廃版となり壊れても修繕ができないからと、ゲートの更新提案を受けた管理組合があります。管理組合はこの交換提案を見合わせました。仮にゲートが完全に壊れたら、復旧するまでバーを外して開放すればいいと判断したのです。

復旧するまでの数週間は、部外者の違法駐車のリスクがあるかもしれないけれど、その場合は住民の相互監視と管理員さんの協力で乗り切ろうと覚悟をしたのでした。結果、今期の修繕予算約300万円の支出が抑制されたのです。
これが時間貸しのコインパークであれば、結論は異なったでしょう。ゲートの故障は即甚大なクレームとなります。何より復旧までの間の売り上げを全て失うという死活問題だからです。

(その2へつづく)

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