【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その85】区分所有法が定める「管理者」って何でしょう?

区分所有法が定める「管理者」って何でしょう?

簡単に言えば管理組合の最高責任者です。法律と管理規約で定められている管理者としての権利を持ち、義務を負うのです。

それでは管理者はどうやって決まるのでしょうか。

  1. 管理規約に、「理事長は区分所有法に定める管理者とする」との規定があれば理事長が管理者です。
  2. 管理規約の中で、「○○を管理者とする」といった定めがあれば、○○が管理者です。
  3. 管理規約に管理者に関する定めがない場合には集会の普通決議で管理者を選任することが出来ます。管理規約が定める普通決議の要件によりますが、管理規約が設定されていない場合は、組合員の総数と議決権の総数(集会に欠席の組合員数も議決権も含めて数えます)のそれぞれ過半数で普通決議は決します。

次に、管理者を集会で選ぶ場合は誰をどのように決めればいいのでしょうか。
管理規約に管理者に関する特段の規定が無い場合は次の通りです。

  1. 個人(組合員である必要はありません)または法人(株式会社、NPO法人等で、こちらも組合員である必要はありません)を選任することが出来ます。
  2. 管理者は必ずしも一人である必要はありません。複数の管理者を選任することも可能です。
  3. 管理者に就任するには本人の同意が必要です。本人が管理者を辞任したいときは、管理組合が不利益を被る様なタイミングでない限り、いつでも本人の意思で辞めることが出来ます。

最後に管理者の行うべき仕事の内容です。
民法及び区分所有法に定める管理者の権利と義務は以下の通りです。(民法がここで登場するのは、民法の委任に関する規定が管理者に適用されると区分所有法に明記してあるためです。)

  1. 敷地と共用部分を保全し管理をします。マンションとしての機能を維持することに努め、壊れた場合は修理をして機能を回復させます。
  2. 少なくとも年一回、議題を示して集会(いわゆる総会)を招集し、事務に関する報告をします。
  3. 集会で決議されたことを実行します。
  4. 業務を行うにあたっては、一般の人が払う以上の注意を払い、「善良なる管理者の注意義務」を果たさなくてはいけません。(つまり、責任ある立場の人が払うであろう一層の注意力をもって職務を行わなければならない、ということです。)
  5. 管理組合が第三者に対し訴訟を提起するときは原告となります。
  6. 管理組合が第三者から訴えを提起されたときは被告となります。被告となった時はすぐに組合員に報告しなければなりません。
  7. 管理規約や(規約の定めにより集会の議事録等を含む場合があります)を保管し、組合員や利害関係者の要求に応じこれを開示します。
  8. 組合員が行うべきことを代理して行います。例えば損害保険契約を締結し、損害保険金の請求を行います。
  9. 組合員から求められれば職務の実施内容を報告します。
  10. 管理者を辞めるときは管理者として行った職務の顛末を組合員に報告します。管理者は管理組合から報酬をもらうことも可能です。報酬の有無は、管理組合と管理者の取り決めによります。

法律が規定しているわけではないですが、管理規約や集会決議に特別の取り決めがない限り、管理者の最大の役目は管理組合の資金(管理費、修繕積立金など)を管理者自身の名義の口座を開設して保管・管理することだと私は思います。悪意を持った者が管理者になれば、管理組合の資金を全額引き出して持ち逃げすることが容易に可能となってしまいますから責任重大です。

『管理会社に管理業務を委託しているから安心』とあなたが思っておられるとすれば、大変な勘違いです。管理会社はマンション管理適正化法の定めで、管理費や修繕積立金の保管口座の名義人になることはでません。管理費等の収納口座の名義人になることは可能ですが、組合員から収納した一か月分の管理費と修繕積立金は必要な支払いを行った後一カ月
以内に、理事長=管理者名義の保管口座に移し替えないといけないのです。

多額の資金残高となる保管口座の名義人となることは、管理者だけに許される重大な職務なのです。マンションによっては危険分散のため、理事長が保管口座の印鑑を保管し、会計担当理事が保管口座の通帳を保管するなどの対応をされているケースもありますが、ひとたび管理者が悪意を持てば何の意味もありません。

理事長=管理者が通帳を紛失したと銀行に届け出れば、銀行は窓口を訪ねた理事長の本人確認が出来さえすれば、簡単に通帳を再発行してくれるからです。

あなたのマンションの管理規約に「理事長が区分所有法に定める管理者とする」との規定がある場合、理事長のみが管理者ですので、理事長に選ばれたとたんに、これほどの責任を「理事長=管理者」のみが負うことになるのです。「ジャンケンで負けていやいや決まった理事長なのに・・・」とぼやいてみてもどうにもなりません。管理者の責任は重大なのです。

「【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その85】区分所有法が定める「管理者」って何でしょう?」への3件のフィードバック

  1.  何人の理事長が「管理者」を理解して理事長になっているでしょうか?
     輪番制理事長なら、「知らなかった」は、実質上通ります。
     立候補制理事長なら「知らなかった」では通りません。 管理規約を理解した上で立候補したのですから。
     マンション管理士等の専門的知識者の第三者管理なら、「知らなかった」は絶対に通りません。
     諸法令(管理規約も含む)に書いてあるなら、専門的知識者は理解していなければなりません。
     専門的知識者の知識や責任を、輪番制理事長や監事が負うのは、「無茶」だと思いませんか?

  2. 素人の役員が専門家にしか理解できない重責をいつの間にか負わされている。一方、悪意をもって管理者に就任する組合員の暴走はだれにも止められない。
    国も、マンション管理業界も、消費者団体もマスコミも追いかけていない分譲マンション管理の大きな問題がここにあります。
    国(国土交通省)ほマンション管理業者を指導監督していれば、自らのの責任を果たしたことになるわけで、マンション管理業者の不正や業務不全を取り締まることに専念するだけです。理事長(国民)の不正防止は、刑法で処罰するのが日本の法体系だから管轄外という訳です。ここまで広くマンションの共有財産管理のための管理組合が存在し、その資金管理総額もたぶん数兆円クラスと思います。(全国600万戸のマンションで一戸平均50万の積立金残高だとすると3兆円です)
    理事長=管理者には公務員のような厳格な職務規範を法整備すべきと思うのです。理事長にリベートを贈った者には贈賄罪、受け取った理事長には収賄罪で処罰するくらいの改革があるべきと思います。
    https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/000034062.pdf
    管理者の責任問題はこれからシリーズで追いかけてまいります。引き続きご意見を頂きたいと思います。

  3.  法の抜け穴は、人が作ったものだから、必ずあります。
     法は、最低限のことを定めたものであり、近隣マンションも、適法を理由に建設されてしまいました。 建設中に同地域で様々な不具合があるマンション型官舎は解体されましたが、解体工事業者は、適法に必死でした。 適法ならば何をしても良いと思うのは、専門的知識者の悪い癖です。
     悪意を持った理事長候補には、所信表明をさせ、管理規約順守を表明させるだけで、抑止効果はあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


アーカイブ