【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その92】管理組合も業者も合意形成にお金がかかる(その2)  管理委託契約 後編

管理会社と締結する管理委託契約に関わる提案を続けます。(前編はこちら

4.基幹事務の契約とその他の管理事務を別契約にする
マンション管理適正化法が対象とするのは、マンション管理業者が3.で述べた三つの基幹事務を行う契約です。ところが世の中のほとんどのマンション管理業者は、管理員業務、清掃業務、設備管理業務、警備業務など(これらはその他の管理事務といいます。)を基幹事務と一体的に受託しています。一つの管理委託契約書に基幹事務とその他の管理事務すべての業務が盛り込まれています。そのため、管理員の勤務時間の変更や、清掃の頻度の変更の場合であっても、マンション管理適正化法に照らして消費者に不利な内容変更と解され、重要事項説明会の開催まで義務付けられるのです。

私は、管理会社との契約を基幹事務とその他の管理事務に分離して契約することを提案いたします。そもそも基幹事務の内容(業務の手順など)を変更するなどめったにないことです。あるとすれば価格の改定でしょうか。それも、業容を順調に拡大している管理会社であれば、会社のシステム維持にかかる経費増は受託件数が増加するのでスケールと相殺されるでしょう。仕事が増えれば利益率が上がるのが基幹事務です。

一方、その他の管理事務はどうでしょう。管理員、清掃員、設備管理員、警備員などは全て人件費のカタマリです。労働者の賃金が上昇すれば、契約金額を変更せざるを得ないのです。やむなく値上げを回避するためには管理の仕様を少し低減(作業の頻度を落としたり、人数を削減したり・・・)するなどの契約変更を検討しなくてはなりません。

その他の管理事務が基幹事務と別の契約となっていれば、上記の契約変更はマンション管理適正化法の適用外ですから、重要事項説明会など必要ありません。更に、管理規約の総会決議事項を、「マンション管理適正化法に基づくマンション管理業者との管理委託契約の締結」とし、その他の管理事務の契約内容の変更は理事会の決定に委ねることも可能です。管理費予算の範囲ならばその他の管理事務の仕様を変更したり、業務の一部を取り止めたりといったことが理事会で機動的に判断可能となるでしょう。

大規模修繕工事の期間、エントランスホールの定期清掃を取り止める、更新予定の受水槽の清掃を今年度は行わない等の判断は、厳密に考えれば契約条件の変更です。重要事項説明会の開催や総会での承認を法令上求められることの不合理は、上記のごとく管理規約を改訂し、理事会で判断すべき事項と改めるべきと思います。

5.物価スライドで委託料金を変更する
その他の管理事務では、人的対応の要素が大きいため物価変動の影響を受けやすいとお話ししました。価格の改定を業者が申し出る度に、他の業者から相見積もりを取り、「従来の金額でやります。」という安値の業者に飛びついて、失敗する例もあります。別の会社に変更すれば清掃員も管理員も今までの手慣れた担当者が全て新人に入れ替わるのです。人的な要素の大きな業務で価格と品質を同時に満足することは難しいのです。

思えば委託した業務の内容が適正で、不満もないのに、「世の中の物価が変動したとしても価格は新たな契約変更の合意がなされるまでは据え置きとする」という消費者の押し付けともいえる現状の契約関係が問題なのです。労働者を抱えてマンションに差し向ける仕事は継続して委託するからこそ品質が向上する面があります。業者も長期間の契約が期待できるからこそ業務品質の向上のため、欠員者に備えた予備要員の確保や現有社員の教育を安定的に継続するのです。よって、その他の管理事務は毎年自動更新契約にして(基幹事務と別契約であれば可能です。)業務委託料を最低賃金単価や消費者物価指数などに応じて毎年スライドするよう改めればいいと思います。

 

 

国や地方公共団体が、民間の資金を活用して公共事業の設計、建設、運営、維持管理などを長期間にわたり一括して民間事業者に発注するPFI(Private Finance Initiativeの略)事業においては、10年、20年といった長期間にわたる業務委託を一括して契約し、その間の物価変動リスクは発注者である公共が負担するといったことが広く採用されています。

例えば、運営・維持管理の期間を15年と定め、その間の運営や維持管理コストに加え、経常修繕や大規模修繕コストまでを契約に含め、契約終了までに大規模修繕を終えて、リニューアルを終えた状態で施設を公共に引き渡すといったことも契約によって可能なのです。これは言い換えれば究極の合意形成コストの削減です。「修繕が必要になったので予算をください。」ではなく、事業期間の修繕費が極小化するように民間事業者が工夫して日常の管理を行い、必要な修繕はタイムリーに、時には予防的に早め早めに自己責任で行います。長期間の施設の修繕に関する費用の総額を事業開始時にあらかじめ取り決めておくから、そういった工夫がライフサイクルコストの縮減に寄与し、民間事業者の収益に直結するのです。

全てを民間事業者に任されているからと言って手抜きはできません。モニタリングといって、公共は民間の運営や維持管理の状況を検査し、基準に満たないことがあれば是正を求めます。要求された基準に満たなければ、業務委託費(PFI事業ではサービス購入費とよびます。)を減額する取り決めも契約に規定しているのです。

デフレから脱却し、物価が上昇する時代を迎えつつあります。管理組合、管理会社双方の合意形成にかかるコストと手間を軽減し、Win-Winの関係構築のための知恵を出し合うことが今こそ必要と思います。

One thought to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その92】管理組合も業者も合意形成にお金がかかる(その2)  管理委託契約 後編”

  1.  その通りで、基幹事務は管理会社が完全な責任を負う形にすれば、少しはマシですが、基幹事務そのものを管理会社が理解しているかが疑問です。
     たとえば、前事業年度末までに提出しないといけない、予算素案さえ提出されていません。
     会計に詳しくないと、予算の重要性は理解できません。
     管理費等の調定間違いや、督促の実施をしていない管理会社を信用しろという方が無理です。

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