【マラソンと日本酒をこよなく愛する弁護士のマンション管理コラム】管理費滞納者の氏名公表は許されるか?<第2回>

マンション内における名誉毀損に関するコラム全第3回の第2回です。

裁判例

滞納者の氏名や、滞納の事実及び滞納期間等の公表は、名誉毀損にあたるのでしょうか。
この点、裁判例によると、公表に至るまでの経緯、その文言、内容、公表の状況、動機、目的、公表する際に採られた手続が、考慮されています。滞納が、長期間にわたる区分所有者に関するものについては、不法行為の成立を否定する傾向があります。

例えば、6ヶ月以上の滞納者が、実名を公表されたとして不法行為に基づく損害賠償請求をした事案では、「長期間にわたって管理費等の支払を怠っているものであり、」「管理費等の自発的な支払を事実上促す措置として、長期滞納者の部屋番号と名称を館内に掲示することが違法とまではいうことはできず、原告が被告Y2社の社名等を掲示したことは、」不法行為を構成するものではないとして、同請求が棄却されています(東京地方裁判所平成26年7月16日判決)(ウエストロージャパン)。

また、滞納期間が、9年から23年に及ぶ複数の区分所有者の所有する別荘の区番、氏名及び滞納期間を一覧表にして、別荘地の道路沿いに立て看板の設置により公表した事案につき、「本件立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、本件立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払長期間怠る原告B山らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、」「不法行為にはならない」と判断されています(東京地方裁判所平成11年12月24日判決)(判時1712・159頁)。

もっとも、同裁判例によると、管理組合の理事として行った公表は、管理組合としてのみならず、理事個人としての不法行為にもなり得ると判断されていますので、一定のリスクは残ります。したがって、下記のとおり、公表の必要性に関しては、慎重に判断するべきでしょう。

 

 

滞納者氏名などの公表の必要性

上記の裁判例では、滞納者の氏名公表による名誉毀損が成立しないと判断されていますが、公表による督促の効果については、別途吟味する必要があります。例えば、不払いの理由が、失業・病気等による経済的困窮である場合や、所有者が行方不明である等の場合には、公表による督促の効果は、あまりないと思われるからです。
管理組合としては、滞納者の氏名公表の必要性を吟味したうえ、それでも公表が必要という結論に至ったのであれば、裁判例で触れられているような事情を加味し、不法行為の成立のリスクをコントロールする必要があります。

One thought to “【マラソンと日本酒をこよなく愛する弁護士のマンション管理コラム】管理費滞納者の氏名公表は許されるか?<第2回>”

  1.  滞納者のパターンには各種あり、極端に言えば、その件ごとに対応が異なります。
     全く払う気のない連中には、管理委託契約書による管理会社の督促、管理規約による管理組合の対応の順になります。 この段階で瑕疵が生じると、逆に管理組合が訴えられ、こじれる元になります。 個人的には号室表示や個人名掲示は愚の骨頂で、払う気のある方でも、払わなくなり恐れが高いので、文書、郵便等による記録の残る督促記録ほど強力なものはありません。
     払う気のある人には、納入期限を明示し、その時まで待ちましょう。 税金と同じです。
     その後は、心を鬼にして、徹底的に督促し、区分所有権を売却してでも、未納分を回収しましょう。

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