【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その99】マンション集会に無断欠席した組合員は賛成票を投じたと扱うことが出来る?

集会の出席率が悪く定足数に満たない事態を防ぐため、「無断欠席した組合員は全ての議案に対して賛成の意思表示をしたものとみなす。」という規約を設定し運用することは認められますか?と問われました。

集会を欠席する区分所有者が、書面(議決権行使書)によって議決権を行使することや、代理人(委任状の受任者)によって議決権を行使することは認められています。しかしながら上記の運用を区分所有法は容認していません。集会の議決権行使に関する規定は、区分所有法に照らして適法な範囲にかぎって、規約で特段の定めをすることを認めているのです。

委任状の本文に『代理人の氏名欄が空欄の場合及び代理人が規約に定める代理人資格(たとえば、「区分所有者に限る」との定めがあるのに賃借人に委任した場合)を持たない場合、本委任状は集会の議長に委任したものとしてお取り扱いください。』といった文章を印刷しておけば、これは本人の意思表示とみなして、有効な委任状として取り扱うことが可能です。

特別決議によるべき議案に関しては、区分所有者総数及び組合員総数のいずれも四分の三の多数(建て替え決議に会っては五分の四の多数)で決することが必要です。特別決議においては集会の議決要件の緩和は原則望めません。(特別決議の中で、共用部分の変更に関してのみ、規約で組合員数の定数を過半数まで減じることが認められています。)

 

一方、集会の普通決議の要件に関しては、規約で別段の定めをすることを区分所有法は許容しています。

法律が普通決議の議決要件を「区分所有者の総数及び議決権の総数のそれぞれ過半数」としている中、規約で別段の定めが出来るとする規定を活用して、国土交通省の標準管理規約ですら、「総会の成立要件は議決権の過半数の出席とし、議決要件を出席者の議決権の過半数」としているのです。

今日、国内のほとんどのマンションの規約が、標準管理規約にある緩和された普通決議の手順を採用しています。よってこれを公序良俗違反で無効という人はいないと思います。

しかしながら区分所有法は、どこまで普通議決の議決要件を緩和可能か、ということまでは踏み込んでいません。 近年増加する外国人所有者に対して総会出席要請が困難、投資目的の区分所有者の管理組合への関心が薄い、といったケースもあるでしょうから、規約において集会の普通決議の要件をいかに有効に緩和できるか、大変興味深い議論です。

私は、「緩和できることには異論はない。ではどこまで緩和できるのか。」という議論に踏み込んで見解を述べた事例を知りません。マンション問題に取り組む法律家の皆さんが本件の議論を避けておられるのではないかと思うほどです。

究極の緩和は「集会の普通決議は複数の組合員が出席し、出席組合員の過半数で決す。」となります。 区分所有法に照らして明確に無効ではありません。でもこれでは公序良俗違反との批判は明らかで、別の意味で無効だと思います。集会の決議が後日の別の集会で容易に覆ったり、意に添わないことを集会に上程したとして、理事会運営に納得しない組合員が集会を直接請求して容易に理事を解任したり、何かと管理組合運営が混乱する弊害も出てきそうです。組合員から上記のごとく条文を変更した管理規約の無効を訴える訴訟を提起されるリスクも高まりそうです。

私は、「普通決議を決する集会の成立要件を議決権の三分の一に緩和」し、「議決要件を出席議決権の四分の三を超える賛成」に強化することを提案します。四分の三であれば総議決権数の25%を超える賛成が必要ですので、標準管理規約の普通決議の最低必要議決権数(議決権の過半数が出席し出席した議決権の過半数で決す)と変わらない議決権数による賛成です。これなら公序良俗違反の議論は退けられるでしょう。

議決権の過半数の組合員の出席を望むことが危うい管理組合でも、上程する議案を大部分の出席組合員が賛同することは比較的容易と思います。

(photo by photoAC)

One thought to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その99】マンション集会に無断欠席した組合員は賛成票を投じたと扱うことが出来る?”

  1.  マンション関係の法令には、整合性がありません。
     言い方を変えると、後追いで緩和が続いています。
     一方、国の法制は、個人情報保護法の管理組合適用など、法令適用が困難なものが増えています。
     高齢化や、外国人区分所有者の増加で、組合運営や総会運営が困難なことは理解しますが、無断欠席を賛成票にカウントするのは、余りにも乱暴です。
     議決権行使書さえも、悪用が目立ちますし、議長への委任状も悪用が目立ちます。
     もっと、組合運営を明確化し、広報に努め、区分所有者や住民の意見を尊重する方向へ行かないといけません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


アーカイブ