【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その105】管理組合と管理会社との契約方式の検討(その2)

Ⅱ.課題を解決する方策

1.基幹事務とその他の管理事務の契約を分離

基幹事務とその他の管理事務を分離してそれぞれ別の契約とする事を提案します。契約先は同一の管理会社とすることが、原則ですが、その他の管理事務の業務内容は管理組合の要望を反映し、その一部を管理組合が別業者と直接契約することも選択できることとします。

こうすることで、その他の管理事務の仕様変更や委託項目の変更は重要事項説明の対象から外れます。更にはその他の管理事務の変更が管理費の予算の範囲内で行われることを前提に、総会によらず理事会の独自の判断で可能となるのです。

2.長期(5年以上)契約が可能な仕組み

基幹事務の契約と、その他の管理事務の契約いずれも5年以上の長期契約といたします。基幹事務の大部分はシステムによる業務処理であり、管理戸数を伸ばしている有力な管理会社では、毎年スケールメリットを享受できる環境にあります。長期契約としても特段価格改定の必要性は少ないと思われます。

一方その他の管理事務は、外注又は管理会社の職員により実施する業務です。費用の大部分は人件費であり、スケールメリットや合理化の余地は限られます。そのためその他の管理事務に関しては、消費者物価指数や最低賃金の指数等に連動して委託料を自動的に毎年改定することとしてはどうでしょうか。

長期契約の前提として、物価の変動に連動した委託料を自動的に補正するのですから、契約金額が不満との理由で契約期間半ばでの管理会社からの契約解除はあり得ません。それでも万一の場合に備えて、管理会社からの中途解約の申し出に対しては一定の違約金の支払いを取り決めておく、又はデポジットとして一定金額の支払いを留保してこれを没収するなどの対策を講じておけば良いでしょう。一方管理組合の側からは、従来通り相応の期間をおいて前もって予告することで、任意に契約解除を可能とします。

今後頻繁に行われることが見込まれる管理会社との価格改定交渉には、多くの時間と労力を要します。これは数多くの管理上の課題を抱える管理組合、効率的な経営を志向する管理会社双方にとって望ましいことではありません。合意形成に費やす時間と労力は目に見えないコストとして両者にのしかかります。これら合意形成コストの低減も重要な管理コストの見直しであると考えます。

3.厳格な誠実義務と経常修繕工事等に応じた報酬の設定

管理委託契約書に管理会社とその従業員の誠実義務を厳格に規定し、これに反してリベートや利益供与が明らかとなった場合は、契約を解除するとともに違約金を支払うことを取り決めておきます。

経常修繕工事、災害復旧工事及び保険事故復旧工事等に際して、管理会社には当然にその対応を期待するところですが、「基幹事務を受託しているのだから、管理委託料の範囲でどこまでも対応するべき」と期待するのは無理があると思います。ましてや従来は言わずもがなで受け取ることが商慣行となっている業者からのリベートを禁止されてはモチベーションが保てないと思われます。

大規模修繕工事の調整業務(コンサルティング、設計監理業務等)に関しては、標準管理委託契約書にも当マンションの管理委託契約書にも契約外と明示されています。それならばその他の修繕工事に関しても毎月の委託料の範囲とせず、その代わり管理会社の労を評価し、管理組合が発注する工事の発注額に応じ一定の割合でコーディネート料を支払うこととしてはどうでしょうか。

手数料を支払うことで、真摯に複数の業者を比較検討していただけると思います。管理会社に価格交渉をお任せして減額できた金額に対しては更に一定割合を追加コーディネート料として支払えば、粘り強い交渉をしていただけるものと期待できます。

 

 

Ⅲ.まとめ

管理会社が委任契約に基づき、善良なる管理者の注意を払って管理組合の利益のために業務を行うことを約しながら、一方では自社の利益と売り上げを確保するために時には管理組合を欺いたり、重要な事実を告げなかったりといった不適切な行為を行う商慣行を改めなくてはなりません。そうでなければ、いつまでたっても管理会社と管理組合は真の信頼関係が築けないと思うのです。

管理会社の職員が、管理組合に対する信義と売り上げ利益の確保を目指す会社への忠誠の板挟みとなる現状を打開し、真にお客様の目線で仕事ができるような環境を整えなくてはと思います。

また、長期デフレの間、定額の売り上げが確保され、毎年利益が向上する我が世の春を謳歌してきた管理会社は、新たな経済環境に揺れています。値上げ交渉が常態化する時代に突入したことを管理会社は自覚しています。そのために管理組合と管理会社の双方が今後の契約交渉に無用な労力とコストを掛けることは避けなくてはなりません。

上記提案は、みなさんの管理組合において十分な議論を重ね、細部を煮詰める必要があります。また、管理会社にいきなりこれらの条件を提示しても、今まで見た事も無い契約形態に戸惑うことでしょう。管理会社管理組合相互のメリットをもたらす契約形態であるとの理解が得られなくては実現しません。
新たな経済環境の中で、管理組合と管理会社が時代にふさわしい管理委託契約の形態を構築することは大変有意義なことと思います。

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