【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その51】マンション理事長解任「可能」との最高裁判断に思うこと(その1)

 

元大手管理会社取締役_ブログ

2017年12月18日の日本経済新聞朝刊の社会面で、『マンション理事長解任「可能」』~理事会の判断だけで~との記事が目に止まりました。

マンションの管理会社を変えようとした理事長に他の理事が反発し、理事会で理事長を解任したところ、理事長が管理組合を訴えて上告審(最高裁)まで争っていたのです。
この日、最高裁は、管理規約について、「(理事長の)選任は原則理事会に委ねられており、理事会の過半数による解任も理事に委ねられている」との解釈を示しました。「解任は無効」とした二審判決を破棄し、理事会の手続きに問題がなかったかをさらに検討すべきだとして、審理を福岡高裁に差し戻したそうです。

 

訴えを起こした「元理事長」は管理規約に理事の互選で理事長を選任するとの規定はあっても、解任の要件は定めていなため、理事会での解任は無効だと訴えていたのでした。
私には一審、二審までもが、管理規約に定めがない点を重視し、「在任中の理事長の意に反して理事会が地位を失わせるのは許されない」として「元理事長」の主張を認めたこと自体に驚きました。高等裁判所の判決が最高裁で覆ることは極めてまれで、そもそも最高裁は、憲法違反若しくは法律の定めがないような高度な判断要素が無い限り、門前払いとなるのが当たり前です。管理組合は多大な時間と労力を注ぎ込んで、粘り強く最高裁まで戦い、よくぞ正当な判断を勝ち取ったものと敬服いたします。

裁判で争えば、真実が明らかになり、正義が必ず勝つなどと安易に期待してはいけないということですね。私たちの市民目線では、当たり前の事柄が、法律家(裁判官や弁護士)にとっての常識に照らすと、十分争いの余地がある事柄として、真逆の結論となってしまい、市民目線では到底承服できない判断が下されることがあると心得ましょう。

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法律家と管理組合の認識の相違を強く感じた事例を次に紹介します。
滞納者に対して訴えを提起することを決する総会を開催した理事長が、総会の議事録にその内容を記載し、区分所有者に配布したことで、滞納者から訴えられるということがありました。封筒に入れて配布した議事録を、区分所有者の子供が目にし、学校で滞納者の子供に対して「お前の家は管理費を滞納している」と言い立てた結果、滞納者の子供が不登校となったというのです。

訴訟の結果、裁判長は滞納者の主張を認め、管理組合は損害賠償責金を滞納管理費と相殺して支払うこととなりました。

 

理事長は訴えを提起する総会で、被告となるべき区分所有者名を総会議案書に当然明記していました。訴える相手の名前を伏せての総会決議は有効ではありません。区分所有法57条第3項で総会の決議を要すると定めています。裁判所自ら、管理組合の訴状を受け付けるにあたっては、被告の名前を明記した総会議事録の提出を求めるでしょう。
理事長は封をした形で議案書もその後の議事録も区分所有者宛てに配布したのです。掲示板に区分所有者名まで張り出すようなことは問題になると考え「管理費滞納者に対する訴訟提起の件」と議題及び開催要領だけを掲示する配慮をしました。

管理組合は一審の地裁の判決を受け入れることとしました。(素直に支払ってくれればと、留保していた管理費の遅延損害金に相当する損害賠償であったためこれと相殺することにしたのです。)

本件も最高裁まで争っていたら、どうなっていたでしょう。

理事長の選任手順が管理規約に明記されているにもかかわらず、解任の手順が明記されていないことを重く見て、地裁の裁判官も高裁の裁判官も、「選任と同じ手順で解任まで決定するには無理がある」と(法律家の)ロジックで判断したのでしょうね。

(その2へつづく)

 

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