【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その115】建物診断を無料で行う親切な業者?

築10年越えの複数棟の団地型大規模マンションで、タイルが浮いている部分が見つかりました。素人が目視でもはっきり確認できるタイル面の膨らみが数か所発生しています。

大規模修繕工事を数年後に計画している管理組合は、大規模修繕工事を前倒しすべきかどうか、落下防止のための措置を直ちに講じるべきかといった問題に直面しました。現状を専門家に見てもらい、どうすべきかの判断材料としたいものの、調査診断のための予算措置も無い為、臨時総会を開いて予算を確保しなくてはなりません。

こんな中で、組合員が知り合いの業者に相談したところ、無料で建物診断をしてくれることがわかり、理事会は早速依頼したそうです。

その診断結果を見せていただきましたが、大変精緻なものでした。
外壁の全ての面を赤外線診断し、可能な範囲で打診も行っています。屋上の防水や笠木の劣化についても取りまとめてあり、細部にわたり調査報告がなされています。調査診断専門コンサルタントに依頼すれば、相当な費用を請求されるであろうと思いました。

報告を受けた結果、理事会は、浮きが認められる部分のみ危険防止のためタイルを取り除き、来る大規模修繕工事で修繕を行うこととしたそうです。

 

 

業者はなぜ無料で建物診断をしてくれたのでしょうか。

親切で優良な業者だからでしょうか。それだけだとは断言できません。大規模修繕工事の受注営業の一環で、管理組合に取り入るため、無料で建物診断を行いたいと思っている建設業者はあまたいるのです。

一方理事会の受け止め方は、概ね以下の通りです。

  • 無料診断なら大して大掛かりな診断はしないだろう。
  • 診断の結果、補修が必要な部分の措置は、行き掛かり上お願いせざるを得ないだろう。
  • 大規模修繕工事まで発注する約束をするわけではないのだから、とりあえずやってもら
    おう。
  • 組合員の善意の紹介をむげにはできない。
  • 総会を開催して調査診断の予算を確保し、専門業者を選定して依頼するのは面倒だ。

実際には、業者は力の入った建物診断を行いました。理事会報告させてほしいと、ボリュームのある精緻な診断報告を提出しました。理事会では、解りやすい説明資料も提示して、素人の役員の皆さんに好印象を植え付けたことでしょう。

業者としては、理事会とのコネクションを築き上げることが、営業上重要であることは言うまでもありませんが、ここまでの精緻な診断報告を作成し、理事会の要請に基づく説明会まで行った既成事実こそが、同業者間で大きな意味を持つのです。

理事会の皆さんは知らない間に、建設業界の不文律に取り込まれてしまっているかもしれません。

今回無償で建物診断した業者と同じように、同業者は、それぞれに同様の営業活動をしているのです。そして、いざ見積もり合わせや入札となった場合に、いつも顔を合わせる同業者(営業マン)は、お互いの顔を見合わせながら、各社の営業の経過を情報交換します。

その内容に歴然とした差があった場合、優位性を主張する業者に優位性を主張できない業者は、協力してしまうことがままあるのです。

今回、優位性を主張できなかった建設会社の営業マンは、こう考えるでしょう。

「A社(B氏)が組合の○○さんとの関係で理事会から正式な依頼を受け、無料で広範な建物診断を行い、営業先行している。理事会でもプレゼンをしていて評価も高い。理事会はA社(B氏)に仕事を任せたいと思っているようだ。強引に当社が受注を画策したとしても、これを巻き返すには相当の価格差をつけてダンピングでもしないと受注はおぼつかない。しかしながらそれでは利益は多く望めない。仮に受注できても、スムーズな仕事ができない可能性もある…。」

「今回自分がA社(B氏)に協力して貸しを作っておけば、A社(B氏)は思い通りの金額で受注できるだろう。そうすれば、今後私が営業先行した案件ではA社(B氏)に協力してもらえるだろう。」

この程度の譲り合いを談合と言えるかは微妙です。

A社(B氏)が他社に「○○万円以上の見積もり金額で見積もりを提示して欲しい。」と、自社の受注を画策すれば談合です。でも他社が気を利かせて、「うちは今工事が手一杯なので、間違っても受注しない金額を提示させていただきます。事実上辞退しますのでよろしく。今後、別案件で頑張らせていただく場合は宜しくお願いします。」と言って、阿吽の受注調整が可能となるのが建設業者の世界なのです。

大規模修繕工事の発注は、管理組合にとって十数年に一度の最大事業です。安易な妥協で思わぬ事態に巻き込まれませんようご注意ください。

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