【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】億ションと億ションになったマンションの違い

販売価格が1億円を超えるマンションを億ションと呼んだりします。一等地に豪華な設備や仕様を施し、超高級の名に相応しいマンションです。一等地の多くに億ションがありますが、単に価格が1億円超えというだけで、中身はさまざまなものがあります。

ある営業マンは、来場者からユニットバスの乾燥機でシルクを乾燥させると縮まないかと質問されて、答えに困りました。シルク製品など持っていないので、洗ったり乾かしたりした経験がないからです。

今の住まいではどうしているのかと尋ねると、現在の賃貸マンションにはシルクが平干しできるランドリースペースが設置されていて、いつもシルクのパジャマはそこで乾かしているのだそうです。そこにいた販売部隊の社員はシルクのパジャマをどうすれば良いか誰も分からず、ただ困惑するだけだったそうです。誰もシルクのパジャマなど持っておらず、シルクに関する質問など想定していなかったのです。

 

 

私がいたデベロッパーは、良くも悪くも大衆的な集団でした。お金持ちの家の出身もいましたが、親が大手企業の偉い人だったりという程度で、古くからのお金持ちの家系という人はいませんでした。高収入の家庭出身であっても、いわゆる上流階級の人というのは皆無でしたので、多くの人が購入する一般的なマンションの企画には向いていました。

しかし世の中にはお金持ちの家系出身の人もいて、生まれながらお屋敷にしか住んだことがないという人もいます。

例えば億ションを販売していた時に、「こんな狭い家でどうやって生活をするのか?」と真剣に質問した方がいました。120㎡のマンションでしたが、その方の家のリビングより狭かったのです。リビングより狭い空間に、寝室やトイレやお風呂がひしめく空間で、どうやって生活すれば良いのか検討もつかないのは当然でしょう。

広く豪華な家にしか住んだことがない人が、いかに快適に過ごすかを考えた億ションと、土地の価格や建築費から考えて1億円以上の価格にしなくてはならないので、とりあえず豪華な仕様にしてみたというマンションでは、根本的な思想が違うのです。

単に広いだけで1億円というマンションや、無駄に豪華な仕様を貼り付けただけのマンションなど、億ションと言ってもさまざまです。

これは海外のリゾート地などでも、よく言われます。働くことなく不労所得で生活し、時間とお金を持て余した富裕層が、いかに暇を潰すかを考え抜いた高級リゾート施設が海外にはあります。一方で、企業が利益を上げるために考え抜いたリゾート施設は、国内にも海外にも沢山あります。この両者は、余暇を過ごす際に決定的な違いを感じると言われています。マンションも同様で、企画する人の差が大きく出てしまうのです。

一等地の難しい土地を割高で購入してしまい、建設費用も割高になって結果的に億ションになってしまうマンションがあります。こういったマンションは後付けでマンションのウリをつけて、さも最初からそういうコンセプトだったように言いながら販売をすることになります。そして先に書いたように、来場者の素朴な疑問に戸惑いながら販売することになってしまいます。

最上階の販売価格は1億円を超えているとはいえ、単に下の階の5000万円の部屋を2つか3つくっけて1億円とか1億5000万円になっている部屋もあり、そういった部屋の販売は多くの場合に苦戦します。

これらの部屋は単に価格が高い広い部屋と見なされ、億ションを見慣れている来場者からは敬遠されがちです。そういう部屋を売り切らなくてはならない営業マンは、当然ながら苦労することになります。

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