【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】マンション建て替え促進になるのか

2021年7月14日、読売新聞が独自取材の記事として、老朽マンションの増加に歯止めをかけるため、マンション建て替えに関して新たな促進政策を打ち出すと報じました。関係する省令・告示を年内に改正するとしていますので、今回はこの報道の内容と施策が与える影響について考えてみたいと思います。

報道の内容を要約すると、下記となります。

  • マンション建て替えの際に、階数を増やせる条件を緩和する。
  • 階数を増やせるのは、1981年以前の旧耐震基準で建設されたマンション。
  • 「外壁の劣化」「防火体制の不足」「配管設備の劣化」「バリアフリー未対応」の4要件を新たに加え、いずれか一つに該当すれば容積率を緩和する特例を受けられるようにする。

この4項目に該当するマンションは改善が急務なのですが、改善するくらいなら建てなおそうという発想なのでしょう。放置されると大事故に繋がるので、建て替えができないでそのままになるのを回避しようとしているのだと思います。

老朽化するマンションが急激に増えている現状では、建て替えの需要が急速に高まっています。しかし建て替えは困難なのが実情で、ほとんどのマンションが建て替えができません。
しかし、ほとんどのマンションでは建て替えたくても、何千万円も捻出できる住民が少ないので反対にあって頓挫しています。建て替えには多額の資金が必要で、高齢になった住民の多くは収入が年金しかないのでお金を用意することができません。建て替えの問題には常に資金の問題がついてまわり、実現が困難なのです。

この報道の通りに実施されれば、資金不足のために建て替えを断念していたマンションの中には建て替えが実施できるものが出てくるでしょう。ただ廃墟になっていくのを待つしかなかったマンションが、建て替えによってキレイなマンションに変わり、新たな住民も増えるのです。一見、良いことずくめのように思えます。

しかしながら、考えられる問題も存在します。

 

 

①マンションで広がる格差
これまで大半のマンションが建て替えができなかったのに対し、建て替えができるマンションが増えることになります。建て替えが実現するマンションは資産価値が高く、建て替えができないまま朽ちていくマンションは負動産とか腐動産と呼ばれるような資産価値が0どころかマイナスになる物件になっていきます。

現在でも主要な駅の近くにある物件は、築年数に関わらず高額で取引されています。しかしここに建て替えができるかできないかで、資産価値が大きく変わっていく可能性があります。現在マンションに住んでいる人の多くは、簡単に買い替えなどができません。今住んでいるマンションの価値が大きく変わる可能性を秘めています。

②意図的な修繕の遅延
どのような審査基準になるかはわかりませんが、「外壁の劣化」「防火体制の不足」「配管設備の劣化」「バリアフリー未対応」の4項目に関して、早い段階から熱心に改修しない方針をとるマンションが出てくる可能性が考えられます。改修をして容積率の緩和を受けられなくなると損をするという状況ができてしまうのが、最も危惧されることです。

一級建築士が検査をすると書かれていますが、どのような内容でどういった報告を行い、どのような基準で審査されるのか現時点では全くわかりません。一級建築士を抱きこんで、容積率の緩和を受けようとする人が出てくることも考えられます。もちろん国もそこら辺は考えているとは思いますが、時々驚くほどザルの法案が提出されることもあるので注目する必要があります。

 

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