【マンション管理組合の教科書】マンション修繕工事の見積は「TNN」だ

授業のポイント

  • 管理会社は「取りすぎ(T)、乗せすぎ(N)、何もしなさすぎ(N)」
  • 修繕工事費の割高は、5年分、10年分のトータルで見たら、大きな違いになる
  • 工事費削減の対策、「予算化点検」という仕組み

 

 

押忍、授業を受け持つ、空手型(カラテ・ケイ)です。

マンションの理事会に参加していると、管理会社が「○○が壊れました」「そろそろ□□が劣化してたので」と言いながら、修繕工事の見積もりを持ってきます。

たまたま理事会役員の順番が回ってきて、建物や設備の修繕や補修などの見積書が出てきたら、

  • 管理会社が必要だと言っているし
  • 見積書の見方や比較の仕方がわからないし
  • 相見積もりが欲しいけれど「急いで補修して欲しい」と言っているし
  • フロント担当者はマジメだし

で、

  • 見積もり比較はしていないけれど仕方がない
  • 管理会社の見積もりはそれほど高くないのではないか
  • 多少はマージンが乗っていても仕方がない

と、管理会社が用意した工事見積もりをそのまま「上段受け」をとっていませんか?そもそもマンションの区分所有者にとって修繕工事は日常の生活とは離れた世界での案件ですから、そのまま管理会社のオススメに従いたくなる気持ちはわかります。

しかも、自分のマンションには1,000万円、1億円の修繕積立金があるから、10万円、100万円単位の工事見積で多少高くても財政的にはビクともしないし、管理組合のお財布事情は管理会社が一番わかっているから、まさか変なことはしないだろう…と、管理会社へ依存しがちです。

でも、よく考えてみてください。
修繕工事費が常に通常より割高であったら、一つひとつの工事案件では大きな支出増に見えなくても、5年分、10年分のトータルで見たら、大きな違いになってしまいます。

仮にすべての修繕工事費に相場の2倍を支払っていたら、皆さんが毎月支払っている修繕積立金も2倍にする必要がある、ということです。管理会社は修繕工事見積もりで「取りすぎ(T)、乗せすぎ(N)、何もしなさすぎ(N)」なのです。

特に、大規模な管理会社は施工業者との力関係で、また独立系と言われる「他の管理会社から安値受注でリプレイスをする管理会社」は修繕工事で儲けないと事業が成り立たないことから、それぞれにTNNを最大限に発揮して、修繕工事費が割高になる傾向が強くなります。

管理会社の多くは、お客様(管理組合)のお財布を「自分たちの利益になるかどうか」で判断し、「管理組合の財政を守らねば」という思想はほとんどありません。

建物は年数とともに少しずつ劣化してゆきますので、いつか誰かに修繕工事をお願いしなければなりません。その発注先が管理会社であっても良いのです。
でも、管理会社が素人集団である管理組合を騙して、「不要・不急な工事提案」「割高な修繕見積」を提案していたら、上段蹴りを決めたくなりますよね。

現実的には、この「不要・不急な工事提案」「割高な修繕見積」を迫る管理会社が非常に多いです。
また、施工業者からリベートをもらう(その分、施工業者から提示される見積が高くなる)ことも、この業界では横行しています。

どんなに優れた専門知識や経験も、自己の利益のためだけに使っては、管理組合のためにならないどころか、毒にしかなりません。

それでは、管理組合(理事会)が、修繕工事の検討を始めるタイミングはどこでしょうか?

一つは、緊急時。例えば震災で建物が破損した、とか、突然にポンプが止まって水が出なくなった、など。
この場合は「修繕しなければならない事実」がはっきりしていて、しかも待ったなしですから、急いで検討し実施する必要があります。

もう一つは「管理会社から『そろそろ修繕工事の時期です』と提案があったとき。
この提案の拠り所は管理会社から提示される『自主点検の結果報告』と『長期修繕計画』です。

管理会社の多くが、管理組合からもらっている委託費の中で、定期的に建物の点検を行っています。これは法的なものでなく、自主点検です。
その自主点検の報告書は、当然管理会社が作ります。この報告を元に、修繕工事の提案が理事会になされます。

私が問題視するのは、管理会社の技術者が行う点検の『技術』よりも、『点検結果の管理組合への伝え方』です。

例えば、屋上を点検したら、比較的軽い劣化が数箇所あった場合で、部分補修をしたり経過観察をすれば十分なケースでも、管理会社が「不要・不急の工事」を提案したいと思えば、写真のとり方や文章の書きっぷりによって「そろそろ全体をリニューアルする時期です。大規模修繕工事を検討しませんか?」とまとめることができるのです。

実際に、管理組合から「管理会社から大規模修繕工事の提案がでてきたのだけど、このタイミングで検討するべきですか?」と持ち込まれる相談のほとんどが、実際に現地を見てみると「全然急がなくてOK」だったり「一部を部分補修すれば大規模修繕工事はまだまだ先延ばしできる」という回答になります。

また、管理会社が自社で作成している「長期修繕計画」を根拠に提案してくる修繕工事や、工事のための予算確保も、眉唾ものです。
そもそも長期修繕計画とは、下にあるとおり「計画通りの時期に、計画通りの金額で実施するためのプランではない」のです。

それにもかかわらず、管理会社は、通常総会を控えたタイミングで、任期終了が迫っている理事会に対し「長期修繕計画に『来年は◯◯工事』と予定されていますから、予算案に計上しておきましょう」と提案し、理事会もこれを受け入れて、総会の予算案にサラッと盛り込みます。

そして、新しい理事会役員は管理会社から『前期からの引継ぎで、長期修繕計画に予定されている◯◯工事を検討しましょう。予算が取れています』と提案されると、まぁそんなものか、と受け入れてしまう。
こうやって管理会社からの修繕工事提案がすんなり採用されてしまいます。

これらのように、結局のところ『不要・不急・割高な』修繕工事は、管理会社がきっかけとなって持ち込まれるのです。

管理会社のすべてに対し不信感を持つことはあってはなりませんが、修繕工事に関しては「毎月支払っている修繕積立金を有効に使い、賢く残したい・値上げしたくない」のでしたら、『お金を持っている素人集団の管理組合』と『お金を稼ぎたいプロ集団の管理会社』とでは利害が合わないことを理解し、情報格差を放置することはリスクなのだ、と考え直し、対策を打ちましょう。

その対策の一つとして、「予算化点検」という仕組みがあります。

予算化点検とは、管理会社から持ち込まれる建物点検報告や長期修繕計画を根拠とした『不要・不急・割高』な修繕工事提案に対して冷静な判断ができるように、管理組合の側に100%立つマンション管理士事務所等が総会の前に点検を行い、予算案もチェックを入れる仕組みです。

修繕工事を請け負って売上を上げるか、施工業者を紹介する見返りとして業者から受け取るリベート(バックマージン)を目的とする管理会社は、とにかく「実際の劣化度合いよりも、自分たちで作った長期修繕計画通りに」修繕工事を提案したがります。

プロの第三者の目を入れれば、お金を支払う管理組合の目線で「本当にいま、修繕する必要があるか」を検討し、無駄・性急な工事を控える仕組みが提案されます。それが「予算化点検」です。修繕積立金の無駄遣いを防ぎ、将来の資金を貯め、修繕積立金の過度な値上げを防ぐことができ、管理会社に対する牽制機能を働かせる効果もあります。

もし、マンション内に、建物や修繕に明るい区分所有者(建築士や施工管理技士等の技術を持った方)がいて、ボランティアで理事会を支えてくれるようでしたら、わざわざ第三者にお金を払うのはもったいないです。

自分たちの修繕積立金の使い方について、管理会社へ過度に依存しすぎず、自分たちで守れる「型」を作りましょう。そぉおおおおおい!!!!

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