【マンション管理組合の教科書】形骸化するマンションのペットクラブ

授業のポイント

  • 2000年ごろからペット可の新築マンションが増加
  • ペットにまつわるトラブルも急増
  • ペットクラブは単なる「居住者と理事会との緩衝機関」

授業を担当する、東郷です。ペットクラブについて、学生さんから質問がありもうしたので回答します。

1.日本のマンションには<ペットクラブ>が一般的にありますか?
ペット飼育が可能なマンションが増加した西暦2000年以降で、かつ総戸数100戸以上の中規模、大規模マンションで設立されている傾向にあります。

2.ペットクラブは普通どんな活動をしていますか?
多くのマンションのペットクラブルールの中に、ペットクラブの目的として「ペット飼育者間の交流、情報交換その他コミュニティ形成」と記されています。しかし、実際にペットクラブという団体の内部でメンバー間の交流や情報交換、コミュニティ形成を行っているマンションはほとんどなく、新築して間もないころは多少あっても、年月とともに活動が減っていき、形骸化しています。
一方で、ペットクラブの活動が残っているマンションのほとんどは、上位機関である理事会からの指示に基づき、ペット飼育のマナーが悪いメンバーへの注意や注意文の掲示など「ペット飼育者間でルールやマナーを守らせるため」の活動を行っています。

3.ペットクラブ活動をする時よくある問題はどんなことがありますか?
そもそもペットクラブとしての活動を行っていないこと。つまり、組織の形骸化が最大の問題です。これは、上記2の回答の通り、ペットクラブの本来の目的である、ポジティブな活動が行われず、ネガティブな活動、つまり、ルールやマナー違反メンバーへの注意喚起が主な活動となっており、主体的に活動したいメンバーが少ないことが考えられます。

4.ペットクラブの活動でマンションの住民たちがお互い活発に交流するようになったりしますか?
ほとんどありません。

 


 

日本のマンションでは、2000年に入ってからペット飼育可能なマンションが増加し、マンション内でのペット飼育者の増加に比例して居住者間のトラブルが増加しました。そのため、近隣住戸からのペットの鳴き声に過敏に反応する居住者が多く、トラブル(苦情)になりやすい面があります。

苦情の主な内容は、「鳴き声」「臭い」「汚れ(廊下や階段、エレベーター内、敷地での糞尿やベランダでのブラッシングの毛)」「ルールで決められた大きさや数を上回るペットを飼っている」といった内容で、苦情を言う方のほとんどが、動物が嫌いな居住者です。ちなみに「犬に噛まれた・猫に引っかかれた」といった直接的な事故はほとんどありません。そもそも、マンション暮らしに求める点の一部に「木造住宅に比べて壁がコンクリートで遮音性に優れ、静かに暮らすことができる」「住民同士のつきあい(交流)がなく、心理的に楽である」があり、その点に価値観の重きを置いている住人から苦情が出る理由もわからないことはありません。

ペットクラブが存在しないマンションでは、ペット飼育に起因する苦情は、管理会社を経由して、管理組合の理事会へ届きます。理事会はペット飼育者に対して是正を促しますが、どうしても改善しない場合、管理組合の集会を開き、居住者に引っ越しを命ずることの決議を取ることになります。

しかしながら、マンションを含む不動産の所有者に対する権利は法律で強力に認められており、管理組合の決議があっても、ペット飼育者から訴訟されると負けることが多々あります。そのため、「ペット(飼育者)のために複数の居住者が継続的に迷惑を受けており、マンションから引っ越しをしてもらうか、強制的に売却してもらう以外に問題を解決する方法がない」と裁判所が判断した場合に限り、退去が命じられることになります。

そもそも、理事会メンバーはマンションの所有者が毎年持ち回りで就任するルールであり、多くのマンションではその任期が1年、長くても2年であり、自分の任期のうちに面倒な問題に関わりたくない、と考えがちです。また、ペットは飼育者にとっては家族同然であり、簡単に引っ越してもらうことも、もちろん殺処分させることもできません。

このような背景から、「ペット飼育可能なマンション」の増加とともに増えるトラブルを低減するため、国土交通省が「ペット飼育に関するルールを作るべき」と見解を出し、分譲開発会社が「ペット飼育に関する細則」というルールを新築時から盛り込むようになりました。そのことに伴い、ペット飼育に起因するトラブルを解決するよう理事会へ持ち込まれる前に、ペット飼育者で組織を作ってもらい、ペットに起因する居住者からの苦情への一次対応をこの組織に行わせることを実質的な目的として、新築時からペットクラブを設定するマンションが増えてきました。

ペットクラブ設立の大義名分である「ペット飼育者間の交流、情報交換その他コミュニティ形成」というのは極めて表面的で、実際は「クラブメンバー同士でルールやマナーを守らせる」「居住者から苦情が来たらペットクラブ間で解決させる」ような「居住者と理事会との緩衝機関」としての役割が求められているのです。

そもそもペットには犬、猫、爬虫類、両生類、昆虫類、鳥類、魚など種類は様々で、種類が異なるペットの飼育者同士を一つの組織のなかで交流させることは困難ですし、基本的に種類の異なる相手のペットに関心を持つことはありません。
あるマンションでは、形骸化したペットクラブを廃止するかわりに、ペット飼育者のルールやマナーを強化し、違反者に対する理事会の権限も強化するルール改定を行った事例があります。しかし、このマンションのように、一度作ったルールを廃止する事例は極めて少なく、問題が起きた際の緩衝機関としてのペットクラブが存続するマンションがほとんどなのが実情です。

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