【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】大規模修繕工事、失敗するコンサルタントの値下げ交渉(その2)

理事会が大規模修繕工事「負のスパイラル」に陥った経緯、大規模修繕工事、失敗するコンサルタントの値下げ交渉(その1)はこちら

 


 

私のところにメールで連絡があったのは11月の初め頃で、A氏の交渉結果が9000万円弱と出た頃です。内容を聞いて、私なりに問題を列記してみました。

1.金額の交渉だけに終始している
修繕委員会のコンサルタントへのオファーは、とにかく金額を下げることでした。しかし大規模修繕工事の本来の目的は、安く済ませることではなく建物を長持ちさせるためです。借金をしなくてはならないかもしれないという現実の前に、修繕委員会は本来の目的を見落としているように思いました。今回の問題の9割は、この点にあると思います。

2.コンサルタントの選び方
安くすることばかりに気を取られた修繕委員会は、2000万円は安くできるという力強い言葉でA氏を選任しました。しかしこのA氏の経歴を見ると、コンサルタントとして独立してから期間が短く、最近まで管理会社に勤務していました。つまりA氏がアピールする100棟以上の大規模修繕工事の経験は、ほぼ管理会社の頃に行ったものだとわかります。

後で詳しく書きますが、交渉力は立場がものを言います。コンサルタントを選ぶ際に、経歴や本人の考え方をよく吟味せずに、安くできるという1点において選んだのは、あまりに大きなリスクを抱えることになったと思います。

3.スケジュールがない打ち合わせ
修繕委員会がコンサルタントと最初に行うべき打ち合わせは、スケジュールのすり合わせです。今回は2022年3月頃から大規模修繕工事を始めたいと修繕委員会は考えていました。そのことをコンサルタントに伝えて、いつまでに何をするべきかスケジュールを作るべきでした。しかし具体的なスケジュールを作ることなく始まったので、ズルズルと時間を浪費することになっています。

そもそも2022年3月に開始する必然性はあったのでしょうか?遅らせても良かったのか、なんらかの事情で動かせないスケジュールだったのか、私にメールをくれた修繕委員の方は理解していません。こういった曖昧なスケジュールは、混乱と遅延の原因になります。

4.特定の業者に固執しすぎた
当初、修繕委員会は見積を出してきた施工会社に値下げを求めるためにコンサルタントを雇いました。この業者に拘る必要は全くなく、値下げ交渉が難航すると分かると、他の業者にも見積を依頼しています。それなら最初から、他の会社にも依頼すればよかったのです。複数の会社に依頼して相見積を取得し、その中からベストな会社を選ぶ方が良かったと思います。

そもそも12年に1度大規模修繕工事をしなくてはならないという決まりはありません。12年という数字は国土交通省の「長期修繕計画ガイドライン」に書かれていらからですが、2000年までは10年と記載されていました。最新の改訂では12年から15年になっています。

これはマンションを販売するデベロッパーが、大規模修繕工事のスパンをいたずらに長くして、月々の修繕積立金を不当に安くして販売するのを抑制する狙いがあります。そのため絶対に12年で行う必要はなく、マンションの劣化の仕方次第で15年や17年で行なっているケースもあります。築10年になったから、大規模修繕工事の準備を始めなくてはと考える理事会や管理会社が多くいますが、劣化していなければ焦る必要はないのです。重要なのは必要な時期に必要な工事を行うことなのです。ですからこのマンションも、本当に慌てて大規模修繕工事を行うべきだったのか疑問が残ります。

A氏の経歴を見ると、大規模修繕工事の経歴の大半は管理会社に在籍した頃のものだったと思われます。関西ではそれなりの大手管理会社のようなので、会社の影響力は極めて大きかったでしょう。A氏はその影響力をフルに活用して、価格交渉を行っていたと思います。

1億円の工事を8000万円にするとA氏は修繕委員会に豪語したそうですが、管理会社在籍時なら可能だったのでしょう。また、そういう仕事のやり方をしてきたのだと思います。なぜ管理会社なら可能なのかというと、定期的に仕事を発注するからです。ここから先10年間、毎年1億円の工事を発注してくれる相手なら、業者は多少の無理をしても安くしてくれます。業者にとって仕事がないというのは最大の恐怖で、安定的に仕事があるというのは、大きな魅力だからです。

しかし今やA氏は、単なるコンサルタントに過ぎません。管理会社時代と同じように交渉しても、業者は再び仕事をくれるかわからない人を相手に無理して安くしようとはしません。A氏やこのマンション管理組合が、毎年多額の工事を発注するなら、施工会社は大幅な値引きをしても受注したいと考えたでしょう。しかし次にいつ発注してくれるかわからない相手に、施工会社も無理な値引きはしないのです。A氏が修繕委員会に提出した報告書を読む限り、A氏は単なる値引きの依頼に終始していたとしか思えず、管理会社にいた頃は上手くできたと考えながら、何度も安くしろと言い続けたのでしょう。単なる値引き交渉は、ほとんど効果がないのです。

 

 

修繕委員会にもA氏にも、2つの重要な視点が抜けていたと思います。その2つとは「いつ大規模修繕工事を行うべきか」「その工事は本当に必要なのか」です。この2つを抜きにして、いきなり価格交渉に入ったため迷走してしまったのだと思います。

いつ大規模修繕工事を行うべきか
先に12年ごとに大規模修繕工事を行う必要はないと書きました。ではいつ行えば良いのかという問題が発生します。これは一律に何年で大規模修繕を行えば、良いというものではありません。マンションごとに異なるので、調査をしなくてはなりません。目安としては10年を過ぎたあたりで建物調査を行い、何年後に大規模修繕を行うか決めます。もししばらく大規模修繕工事が必要ないと判断されれば、3年後に再び調査を行うようにしてもよく、適切な時期はいつなのか調査を行うことになります。

その工事は本当に必要なのか
長期修繕計画に書かれている項目全てを行うと、無駄に費用がかかります。調査をして、本当に必要な工事はどれなのかを判断する必要があります。まだ痛んでいない部分を工事する必要はありません。大規模修繕工事の際には外部に足場を掛けるので、足場がないとできない工事は全て行います。しかし共用廊下の長尺シートや屋上防水などは足場がなくてもできるので、絶対に大規模修繕時にやらなければならないということはありません。大規模修繕時どの工事を行うか決めることは、極めて重要なのです。

最も大事なのは、本当に必要な工事はどれかを見極めることです。長期修繕計画に書いてあるからと言って、全ての工事を行う必要はないのです。では大規模修繕工事をどのように準備すれば良かったのでしょうか。これについては長くなるので、次回説明したいと思います。私が主に行っている大規模修繕工事のやり方を紹介することで、参考になればと思います

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