【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】難航する欠陥マンションの建て替え (その2)

建替えのための引っ越しや賃貸マンションの手配、駐車場の手配などの実務的な打ち合わせが弁護士と続きます。また銀行ローンの問題がありました。銀行は現在のマンションを抵当権をつけて融資しているので、勝手に取り壊すことはできません。1つ1つの議題が難航するのですが、これらの問題の多くは弁護士から出てくることはなく、常にデベロッパー側から言い出して議論が始まるという流れが定着していたようです。

この頃にはデベロッパー側は、弁護士がマンションに関して詳しくないことを把握していて、弁護士のせいで自分達に火の粉がかからないようにすることに注力していたようです。そんな中、デベロッパー側が新たな問題に気づきます。

話し合いから1年以上が経ち、すでにマンションは築10年近くになっています。ほとんどの住民が新築時に購入しているので、約10年間住み続けています。当然ながらマンションの市場価値は購入時より下がっているのですが、ここで新たに立て直して住民が無償で受け取るとなると、贈与に当たる可能性があるのです。

例えば購入時のマンション価格はは3000万円だったとします。そして10年経って、中古マンションとして2000万円の価値になったとします。しかし建替えて新築になったことで3000万円の価値になったら、1000万円儲かったことになります。この1000万円が贈与と見なされないかとデベロッパー側が気づいたのです。そして弁護士にこの話をするのですが、とんでもない会話になったようです。

デベ「贈与税と見なされた場合、過度な負担になると思うが、どのようにお考えか」
弁「贈与税が発生するか否かは、そちらから国税に確認すれば良い」
デベ「本気ですか?確認したら贈与税を払えって言うに決まっているじゃないですか」
弁「住民は被害者であり負担を掛けられない。贈与税が発生するならば、その費用もデベロッパーが負担するべき」

当たり前ですが、デベロッパーが贈与税相当額の費用を住民に払えば、それにも贈与税が掛かります。住民が支払う贈与税が増えるだけで、何の解決にもなりません。まさかバレないようにこっそり払えという訳ではないでしょうが、これにはデベロッパー側も困惑します。マンションの知識に乏しいだけでなく、一般常識もない弁護士になのかと焦ったようですが、遅々として進まない建て替えに苛立つ住民からのプレッシャーに耐えかねて、言動がおかしくなっているのだろうと考えました。

デベロッパー側から、この問題の解決策として、別途要求されている迷惑料をなしとし、資産価値が高まった分を迷惑料とすることを提案しました。しかし迷惑料を払わないとなると、住民が納得しないと弁護士は抵抗します。弁護士は迷惑料は迷惑料として支払い、資産価値が増えた分も迷惑料で良いではないかと言います。しかしそれでは迷惑料が法外な金額になってしまい、贈与とみなされる可能性があります。

迷惑を掛けているのはデベロッパー側だから、そちらでなんとか上手い方法を考えろと言う弁護士にデベロッパーは苛立ち、この弁護士とは建設的な話は難しいと考えるようになります。少なくとも現場レベルでは、弁護士は冷静さを欠いて威圧的な態度を崩さず、解決策をほとんど提示できず、どのように進めるかもデベロッパー頼みで「で、次はどうします?」と打ち合わせの度に言うような状態だったようです。そこで意図的に提案を遅らせ、話し合いを長引かせるようにすることで住民の苛立ちを誘い、住民が弁護士を解任するように仕向けることも検討されたようです。

しかしデベロッパーの経営陣は、話を拗らせてメディアに漏れるのを嫌がり、なるべく早期に解決するために弁護士と協力することにします。つまりこの時点で、ほぼ弁護士は自分で考えることがなくなり高圧的にものを言うだけで、住民のためにデベロッパーの担当者が知恵を絞って解決するという状態になりました。当然ながら現場のモチベーションは著しく下がったようですが、そこはサラリーマンなのでなんとか乗り切ることになります。先の贈与の問題は、迷惑料を減額することをデベロッパーの担当者が住民に説明し、罵詈雑言を浴びながらも、なんとか解決しています。

 

 

こうして、デベロッパー側が打ち合わせの段取りを行い、議事を提出し、どうするべきか説明するという流れになり、弁護士との打ち合わせはデベロッパー側が弁護士に教えるという一方通行になります。弁護士はその内容を自分が主導して決めたように検討委員会に話し、自分の手柄にしていきます。デベロッパーの担当者は「言ってみれば『はい、アーンして』と言ってご飯を食べさせおむつを替えて、お風呂に入れてるのに、早くしろとか飯が不味いとか文句ばかり言われている。そしてあの弁護士は、手柄は全部自分のもので、こっちは役立たずみたいに言ってる。もう、やってられません」と愚痴っていました。

この後、実際に建替えが始まってからもあれこれあったようですが、そこは今回の話とは違うので割愛します。全て無事に完了して建替えが完了した後に、この弁護士はマンション建替えの権威のように自身のwebサイトに書いていました。管理組合との取り決めで具体的な物件名は出していませんが、あまりに露骨な内容なので関係者全員が苦笑いしたようです。

最終的に管理組合の思い通りになったものの、元々が無理筋の要求だったので、このような案件を引き受けるのは仕事がなくて困っている弁護士だったのだと思われます。何度も交渉は破綻しかけており、デベロッパーが極端に弱気だったので上手くいったに過ぎなかったので、管理組合は幸運だったと思います。管理組合で弁護士を雇うケースが増えてきていますが、弁護士の話をよく聞いたうえで自分たちに相応しいかをよく吟味しましょう。今は法テラスなどのサイトもあるので、弁護士選びも容易になってきました。仕事がないので専門知識もない案件に飛びつく弁護士に当たらないように、弁護士選びは慎重に行いましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


アーカイブ