【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】マンションは今後も売れるのか

最近、セミナーでZ世代について話すことになり、この世代について考えることが増えました。今後、メインの消費者層になると言われているZ世代ですが、この世代がどうして誕生し今後どうなるのかを考えていきたいと思います。結論から先に書くと、今後はマンションは売れなくなると思います。

1990年代半ば頃から2010年頃までに生まれた世代をZ世代と呼びます。つまり現在、12歳から20代半ばぐらいまでの世代ということになります。1960年代半ばから1970年代後半までに生まれたX世代、1980年代から90年代半ば頃までに生まれたY世代に続く世代がZ世代になるのですが、日本ではX世代は団塊ジュニア世代と被りますし、Y世代はミレニアル世代と呼ばれたりもします。

このZ世代が20代半ばに達したことで、今後はこの世代が消費の中心になると言われています。ただこの世代が注目され始めたアメリカでは、全人口に占めるZ世代の割合が32%に達するのに対し、日本では15%程度なのでアメリカほどのインパクトはないという意見もあります。しかし超高齢化社会を迎える日本において、購買意欲が低い高齢者に代わってZ世代が購買の主役になるのは間違いないと思います。

私自身はX世代に該当し、団塊ジュニアとも言われる世代です。私の世代とZ世代には考え方や意識が大きく異なるため、簡単には理解できない部分が多々あります。しかし育ってきた社会環境が異なるので意識が違うのは当たり前で、そのため消費行動も大きく変化しています。その消費行動や意識の変化は、これまでの宣伝広告や商品開発にも大きな影響を与えると思われます。

 

 

Z世代の特徴

①スマホ・SNS世代
日本でiPhoneが発売開始になったのは2008年で、これが日本のスマホ元年になります。またツイッターの日本語版も2008年から始まっています。2000年に生まれた子供なら、8歳の時にスマホとツイッターが始まったので、スマホやSNSを当たり前のように使いこなしています。X世代やY世代にとってネット接続はパソコンで行うものであり、スマホはその次でした。しかしZ世代にとってスマホが最も身近なものであり、パソコンは親が仕事で使ったり学校の教材だったりします。

常にスマホを持ち歩くためテレビの視聴時間が短く、ネットから情報を得ることの方が圧倒的に多くなっています。またスマホが基準になるので、スマホに最適化されていないwebサイトは嫌われます。ネットから情報を得ることが多いと書くと、部屋に閉じこもるタイプを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、学生などは学校内での情報交換も多く、それがSNSで拡散されるケースが多くあります。

②コスパを重視する
無駄なものにお金を使わず、本当に必要なものにお金を使いたいと考えています。またモノより経験や体験を重視するため、ブランド物への憧れなどは希薄です。誰かが持っているから自分も欲しいということも少なく、自分にとってどれだけ役に立つかが重要になります。X世代はブランドやメーカーで商品やサービスを選ぶことが多いですが、Z世代は口コミを重視しています。そのためネットの評判に左右される傾向が多くあります。

③コスパよりタムパ
コスパ重視なのは上記の通りですが、コスパ以上にタイムパフォーマンスを重視します。例えば2時間で1回感動できる映画より、1時間に1回泣けるドラマ、15分に1回笑えるYouTube、5分で楽しめるTikTokを好みます。若者のテレビ離れが言われていますが、タムパ重視の傾向と無縁ではないと思われます。テレビは「ながら見」が多いですが、スマホで見る動画は目を離さず見続けることが多いので、動画のテンポが早いことが多くあります。そのためテレビはダラダラしていてテンポが悪いと思われることが多いようです。

買い物にも無駄に時間をかけたくないので、パーソナライゼーションを当たり前に感じています。パーソナライゼーションは、購入履歴などから「あなたへのおすすめ」として表示されるもので、X世代では自分の情報を収集されることを嫌悪する人が多く見られます。しかしZ世代は自分の情報を集められることに抵抗が少ない一方で、パーソナライズされた商品やサービスが自分に適しているかをkにしています。

④購入より共有する
最もわかりやすい事例は音楽でしょう。CDを購入する時代は過去のものになり、サブスクリプションが当たり前になっています。またYouTubeで聴くことも多く、私のように何百枚もCDを持っていることを不思議に思われてしまいます。所有するより共有するは、情報から始まりました。70年代の初期のオタクは、オタク度を測るのに本を何冊所有しているかが目安になっていました。

これは情報のほとんどが本や雑誌に集中しており、それをどれだけ保有しているかが重要だったのです。しかしインターネットが普及してから情報の多くがネット上にあるので、書物を大量に持っているだけでは情報を持っていることにならなくなりました。ネットに存在しない情報が載っている書籍が重要になり、それ以外は共有された情報を必要な時に見つけるスキルが重宝されるようになりました。

⑤環境問題に敏感
環境問題に敏感だというと意識が高い人達のように思われるかもしれませんが、そういう意味ではありません。環境問題は身近な問題であり、幼い頃から直面してきた問題なのです。また2000年生まれを例に出すと、5歳の2005年に京都議定書が推進されており、環境問題が叫ばれる環境で育っていきました。そして11歳の2011年に東日本大震災を経験し、原発のトラブルや輪番停電を経験しました。環境問題は常に身近に存在したわけです。

付け加えると、この世代は世界的な疫病に常に晒されてきた世代でもあります。2004年のSARSの流行に始まり、2007年、2010年、2014年の鳥インフルエンザの流行があり、2020年には新型コロナウイルスの大流行がありました。常に環境が自分に影響を与え続けることを感じながら育った世代と言えます。

一国一城の主を目指さない

X世代より上の世代、日本で言うと団塊の世代などはマイホームを夢見ました。買った方が得とかそういったことではなく、マイホームを持つことが重要だったのです。いつまでも借家暮らしをしている人は社会が一人前とは認めなかったので、住宅の購入は必然でした。結婚して子供を持ち、マイカーとマイホームを持っていることが立派な大人の証だったのです。ですから損得など関係なく、住宅の購入を真剣に考えていました。

住宅を借りるより買った方が得という営業手法は、おそらく80年代からあったと思いますが、90年代には最も一般的な営業手法になります。家賃を払うということは、他人の資産にお金を払うことであり、同じお金を自分の資産に払った方が良いと説得するのです。それでも簡単に売れない時代になると、営業の現場では「客が賢くなった」と言われていましたが、以前のようなマイホームを持ってこそ一人前という考え方が希薄になったからだと思います。

すでに「買った方が得か借りた方が得か」の議論はあちこちで起こっていて、買った方が得というのは怪しいと思っている人は多くいます。そもそも買った方が得とも借りた方が得とも言えるレトリックが使われているので、説明する人の立場によってどっちが得とも説明できます。今でもYouTubeなどで「買った方が絶対に得」とか「買ったら必ず損をする」と断定して話している人が多くいますが、説明する人の立場が違うだけに過ぎません。

それに加えて、購入までのプロセスに時間がかかります。何度も見に行き、契約やローンの審査や手続きを踏まなくてはなりません。もちろん賃貸でも手間はかかりますが、購入する方が遥かに手間がかかります。さらに購入してしまうと、何かの事情で引っ越しをしなくてはならなくなると、賃貸に出したり売却したりする手間がかかります。これは賃貸にはない手間です。つまり購入はコスパが怪しいだけでなくタムパが悪いと言えます。

先に挙げたように共有に抵抗がないということは、賃貸にも抵抗がないと言えます。個人で所有する必要があると考えるのはスマホぐらいで、かつてはそれぞれの部屋にテレビがあったという時代に目を丸くする世代です。マイホームを持って一人前という社会的な権威がなくなり、買う方がコスパが良いかも怪しく、タムパも悪いのに加えて共有に抵抗がない人達が果たして住宅を購入するでしょうか。

購入の動機付けが難しいように思います。

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