【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】超高級タワマンの欠陥

2021年6月14日付けのフライデーデジタルに、武蔵小金井のタワーマンションが欠陥だらけだという記事が掲載されました。この内容について解説して欲しいという声がありましたので、今回はこのことについて書いてみたいと思います。果たしてどれくらい酷いことになっているのでしょうか。

フライデーデジタルの記事を以下にまとめてみたいと思います。

  1. 物件はプラウドタワー武蔵小金井クロス
  2. 検査を行ったのは日本建築検査研究所の岩山健一氏
  3. 調査報告書には主に3つの欠陥が記されている(①二重床の支持脚に遮音性のゴムが使われていない箇所があった②メーターボックス内の石膏ボードを留めるタッカーの間隔が基準を満たしていなかった③トイレ内の手洗い付近の壁に耐水石膏ボードが使われていなかった)
  4. 3月27日に野村不動産と清水建設が説明会を開催し「設計図通りに変更する」と約束した
  5. 欠陥が見つかった後も、野村不動産は販売を続けている

 

プラウドタワー武蔵小金井クロスの概要
武蔵小金井駅の再開発事業で建設されたタワーマンションです。事業名は「武蔵小金井駅南口第2地区第一種市街地再開発事業」で、武蔵小金井シティクロスというタウンを形成しています。

規模:ウエスト(地上26階地下2階)
イースト(地上24階地下2階)
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
総戸数:716戸(イースト343戸 ウエスト373戸)
設計:(株)佐藤総合企画
施工:清水建設(株)
売主:野村不動産(株)
竣工:2020年5月

ソコラ武蔵小金井クロスという50店舗が入る商業施設が併設されていて、こちらもすでにオープンしています。設計・施工は一流ですし、売主も野村不動産というメジャーセブンの一角を占める大手によるものです。

記事では、主に3つの欠陥が指摘されています。これらは設計図と異なっていたということなので、瑕疵に値することは間違いありません。

設計図は竣工図書という形で管理組合に渡されます。これは購入者が契約したマンションの設計を記したものなので、竣工図書と実物が食い違うことはあってはならないのです。あってはならなのですが、細かな点で食い違うことはよくあり、たびたび問題になっています。

それでは、欠陥について、ひとつづつ詳しく見ていきましょう。

二重床のゴム
記事を引用すると「二重床の支持脚(階を持ち上げるための脚)に遮音性のゴムが使われていない箇所が発見されました」ということです。ゴムを付けずに金属の足のままだったということは考えにくいので、おそらく設計とは異なるゴムが使われていたのだと思います。その遮音性が設計より劣っていたのでしょう。このゴムは遮音性の要になる部材なので、設計と違うものが使われていたのは問題です。

石膏ボードのタッカーの間隔
タッカーとは石膏ボードを留めるホッチキスのようなものです。石膏ボードはビスかタッカーで留めるのですが、その間隔はさまざまな仕様で決められています。あまりに間隔が広いとボードを強固に固定できませんので、最低限の仕様が決められているのです。しかも部位などによって間隔は変わってくるので、施工管理の際には注意が必要になるポイントです。

耐水石膏ボードの未使用
石膏ボードの表面は紙ですが、耐水石膏ボードは耐水紙が使われています。普通の石膏ボードの紙が黄色味がかっているのに対し、耐水ボードは緑がかっています。水回りの壁に耐水石膏ボードが使われることがあり、特に湯気が充満しやすい洗面所などに用いられています。トイレも手洗いなど壁に水がかかりやすい場所に使うことがありますが、デベロッパーの仕様によってはトイレには使わないこともあるようです。今回は設計図にはトイレにも使うことになっていて、実際には使われていなかったようです。

数字で示されない記事
竣工図の通りでないならば、売主は責任をもって手直しをしなくてはいけません。また施工会社は竣工図と違うものを引き渡したのですから、対応するのは当然のことです。しかしそれとは別に、これらの不具合がどれほどのものかは数字が出ていないので、どれほど悪質だったのかが報道からはわかりません。これらの調査は特定の住戸で行われたと思われますが、例えば二重床の脚のゴムにしてもその住戸の全てのゴムがダメだったのか、たまたま一個がダメだったのかがわかりません。

 

画像はイメージです

ボードのタッカーにしても300mmのところを600mmで打っていたのと、300mmのところを305mmで打っていたので大きく違います。前者なら仕様を間違えているか手抜きになりますが、後者なら職人のミスと考えられます。竣工図の通りになっていないのが問題なのは間違いないですが、ちょっとしたミスが発見されたのか悪質な不正行為が見つかったのかが、この記事からではわかりません。記事の論調からは悪質な行為のような気がしてきますが、数字が全く書かれていないので単なるポカなのかもしれません。

この件で私が最も気になるのは、なぜ物件名が記載された記事が報じられたのかです。この報道では多くの人がダメージを受けました。売主の野村不動産は自社の検査体制に疑問がつくことになりますし、清水建設はスーパーゼネコンとしての施工能力を疑われることになります。そして購入した住民も、自身の財産が欠陥品だと報じられたのです。

2020年の5月に竣工したのですから、まだ1年ちょっとのマンションです。売りに出している人は少ないでしょうが賃貸の募集を行っている部屋はあるようです。こうした人達にとって、今回の報道はダメージになります。メディアに報じられたことで、マンション内で所有者同士がトラブルになった例もあり、メディアに出すには慎重にならなければなりません。

メディアに報じられたことで野村不動産や清水建設が、より前向きに動く可能性はあります。しかし住民が受ける損失も大きいのです。ですから、この手のニュースは物件名が出ないのが一般的です。先日の西松建設のタワーマンションの欠陥問題についても、西松建設は物件名を明らかにすることを拒否しています。フライデーも誰の断りもなしに物件名を掲載することはしないでしょう。誰かが許可したのだと思います。

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