定期的な修繕の必要性
建物は、新築後の年数が経過するとともに、物理的にも、社会的にも、経済的にも低下(劣化)していきます。
劣化した性能を新築時の水準まで引き上げることを「修繕」といいます。新築時の水準以上に現在の業界水準まで、さらに引き上げることを「改良」と言います。そして、「修繕」と「改良」を併せたものを「改修」と定義づけしています。
このように、「改良」も含めた「修繕」を定期的に実施することで、建物の耐用年数を伸ばしていこうとする考え方が「計画修繕」と言われています。
時代の流れとともに建物の性能水準は、初期水準のままでは社会的劣化が進行してくことになります。時代にマッチした、安全・安心・快適な居住環境を確保するには、いかにして「改良」を組み込んでマンションの性能向上を図るかが重要です。
国土交通省は、長期修繕計画等に関し、令和3年9月に今までのガイドラインの改訂を行いました。
- 現行では新築マンションの場合は30年以上とし、既存マンションの場合は25年以上としていたものを、既存マンションの長期修繕計画期間も新築マンションと同様に大規模修繕工事2回を含む30年以上とした。
- 大規模修繕周期の目安として、工事事例を踏まえ一定の幅を持たせた。※現行の参考例:外壁の塗装塗替え:12年→12~15年など
今まで、マンション管理業界では「大規模修繕工事は12年周期で実施するもの」という慣習がありました。その元になっていたのが、上記のガイドラインによって作成された長期修繕計画だったのです。そのガイドラインが、今後12~15年周期と幅を持たせた考え方になりました。
ガイドラインの変更は、時代の変遷とともに修繕業界もレベルアップしたことが一つの要因として考えられます。
メーカーの技術開発力が向上しました。防水材やシーリング材などの性能が良くなり、耐久性が高く、期待耐用年数が格段に長くなっていると言われています。また、施工業者の施工技術も、設計事務所などとの協同研鑽により高い技術革新となっています。
これらのことから、業界内では「大規模修繕工事は12年周期ではなく、15年周期でも十分いけるのではないか」という意見も多く出始めていたのです。
国交省は、そういった業界の声も広いながら、ガイドラインの改訂となったのかもしれません。
修繕周期が15年となると
例えば、今後のマンションの周期を長く見て修繕周期を15年と仮定します。そうすると、60年間でみると、今まで12年周期で5回大規模修繕工事を実施していたものが、15年周期にすることで4回の工事ですむのです。1回分の工事費が節減できます!
これは、とても重要な観点です。
私の感覚では、小修繕を間にいれつつ大規模修繕工事は18~20年周期にしていくことが、近い将来実現できるのではないかと考えています。
しかし、何も変えずにそのまま周期を伸ばすのは違います。以下のような進め方も参考にしてください。
1.設計事務所に調査依頼
信頼できる設計事務所を選定する(まずここで、修繕周期を伸ばせるレベルの高い修繕ができるか変わってきます。当然ですが、不適切コンサルは選ばないように)
2.建物診断
その設計事務所に建物診断をしてもらう(5年おきとか、そもそも予定していた大規模修繕工事の前とかのタイミングがベストですが、今までやったことがないというマンションであれば、いつでも良いので実施してみると良いと思います)
3.結果から何パターンかの計画案を出す
建物診断の結果から、設計事務所から劣化状況の報告を受け、修繕の必要性の有無や実施時期の想定をする(このときに4パターンくらいの修繕内容のシミュレーションを設計事務所に作ってもらい検討材料にしてください。もちろん概算修繕費用も設計事務所に積算してもらい合わせて検討しましょう)
4.建物維持管理の方針(ヴィジョン)を決める
重要なのが、前項の修繕検討です。修繕についての正解はありません。マンションごとにいろんな「進め方」があってよいのです。例えば、お金を節約するというマンションは、「安全」を最優先にして、タイル剥落の予兆のある浮きの補修やコンクリートひび割れ補修や中性化防止をして、コンクリート躯体を保全する、そして給排水管路や設備関係のメンテナンスや更新工事を行うのみとする。それ以外の軽度の劣化や多少の汚れ・美観の問題は優先度を下げて修繕を先に延ばす。お金をかけずにマンションを維持管理していくという考え方。
一方で、お金の余裕があるマンションは、修繕工事のフルコースで長期修繕計画ガイドラインにある修繕内容を全て実施して、ピッカピカのマンションにしたいという管理組合もあるでしょう。
どちらも、管理組合の方針であれば、正解です。
つまり、建物や設備など、生活するために絶対に必要な部分の保全はしっかり実施して、それ以外の項目に関してはどのように修繕や改良をするかは、住み手である管理組合の皆さんが決めることなのです。