【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】マンション建て替えを阻むお金の問題

古くなったマンションでは建て替えが議論されることがありますが、多くの場合は建て替えが決定することがありません。

多くの場合はお金が問題になっていて、区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成が得られないからです。今回はマンション建て替えを阻むお金の問題と題して、あるマンションの住民からお聞きした話しを元に書いていきたいと思います。

そのマンションは、関東にある80戸ほどのマンションで、1970年代に建設されました。築40年を超えています。当時はモダンなマンションとして人気で、多くの若い夫婦が購入して子供たちの元気な声が毎日聞こえていました。現在も新築時に購入した人達の多くが住み続けていて、マンションに愛着を持っている人も多いそうです。

大規模な改修の議論が始まったのは、東日本大震災の後。外壁のあちこちにひび割れが入り、補修工事を行うことになりました。

東北の悲惨な現状をテレビなどで目の当たりにした住民の多くは、壁などに入るひび割れを見て不安になっていました。補修工事を可決するために臨時総会を開きますが、総会は数10年ぶりの高い出席率となり、その際に耐震改修を行った方が良いのではないか?という意見が出されました。

その後、耐震改修が高額になることがわかると実施するか意見が分かれ、さらにどうせ耐震改修を行うならエレベーターを設置して欲しいという要望がアンケートで複数届きました。このマンションは4階建てでエレベーターがないのですが、高齢の方が増えてきたので、エレベーターがないことを不便に思っている人が多かったのです。

しかし、耐震改修とエレベーター設置工事を行うと、莫大な金額になってしまいます。莫大なお金をかけて改修するなら、建て替えが方が良いのではないかという意見が出るようになりました。

建て替えの話が出た当初から、賛成と反対の声が入り混じっていたため、そもそも建て替えができるのか検討するために建て替え委員会を設立することになりました。管理会社にも協力してもらい検証を始めると、好条件が揃っていることがわかりました。容積率が余っているため、現在よりも大きなマンションが建設できるのです。

現在はマンションを建てる際には、容積率をギリギリまで使うのが当然のように言われていますが、かつては市場調査をして「この場所なら2000万円で売って、せいぜい50戸ぐらいしか売れないだろう」となれば、80戸を建設できる土地でも50戸しか建設しないので、容積率が余っていたのです。

 

 

このマンションは約80戸ですが、容積率が余っているため110戸ほどのマンションが建設できることがわかりました。約30戸多く建設できるということは、その30戸を新規に売り出すことができるのです。

販売費用は建て替えの費用に使えるため、住民の負担が軽くなるのです。住民の費用負担が軽くなるということは、建て替えの可能性が広がるということで、大きなアドバンテージになります。

建て替えの可能性が現実的になってきたことから住民説明会を開催しますが、一部の人から強い反対がありました。このマンションには愛着があるので、まだまだ建て替える必要はない、というのです。その方々は、金額の問題ではなく建て替えそのものを否定しました。

また、建て替え費用が数百万円まで下がっても、高齢者が多いマンションではその費用が払えない人が多いのも事実です。年金と退職金を切り崩しながら生活している人にとっては、数百万円の負担というのは小さくありません。

しかし、お金がないから反対と言う人は少数です。お金がないとは言わず、別の理由を立てて反対するのです。そのためこの手の反対者が言っている理由に反論しても説得しても、反対することには変わらないのです。

もちろんお金がなければ、売却するという手段も残っています。しかしお金がないと言い出せない人が、売却のことを相談するのは難しくなります。なぜなら売却したいと言い出せば、お金がないことが相手に伝わってしまうからです。

こうしたメンツが、とにかく何がなんでも反対という姿勢を生み出してしまいます。こうなると、話し合いを行うことすら難しくなり協議は難航してしまいます。

このマンションでは、建て替え賛成派と反対派に大きな溝ができてしまい、今では話し合うことすら困難な状況だそうです。

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