カスタマーハラスメントは、消費者がサービスや商品を提供している企業に対してハラスメントを行う行為です。2020年に施行されたパワーハラスメント防止法(改正労働施策総合推進法)には、カスタマーハラスメントという言葉は書かれていませんが、顧客からの著しい迷惑行為に関する記載があります。コンビニ店員を土下座させてSNSで拡散するといった行為が急増したことから、カスハラは近年注目されています。厚生労働省も動いていて、カスタマーハラスメントのマニュアルを作る予定だそうです。
マンションでカスハラという言葉を聞くようになったのは、ここ数年です。理事会や総会などで管理会社のフロントが罵声を浴びせられたり、机を叩いて恫喝されることに対して管理会社が危機感を募られるようになりました。管理会社のフロントの中には、それが原因で出社を拒否するようになったりうつ病の原因になるケースもあります。
こうした事態に、特に大手の管理会社は社員を守るためにフロントを交代させたり、理事会に上司が同行したりするなどの対策をとっています。また怒鳴ったり服を掴むような行為があった場合は、理事会などの最中であっても速やかに退出するように勧めている管理会社もあります。
私がデベロッパーのアフターサービス部門に勤めていた時に、部下が理事会に軟禁されるという騒動がありました。この時に私は上司から、殴られたり服を掴まれたり、脅迫的な言動があった場合にはすぐに退出させるように言われました。会社としてはお客様の利益を守る義務と同時に社員の安全を守る義務があるため、身の危険を感じる場合には話の途中であっても逃げるようにというわけです。
私も顧客に胸ぐらを掴まれたことはありますし、延々と罵声を浴びせられたことがあります。しかしこの指示が出てからは「話し合いができないので、今日は失礼します」と、さっさと帰っていました。その態度の激昂して腕を掴まれたりしたことがありますが「暴力を使うなら警察に連絡します」と言っていました。それで収まるはずもなく喚き散らす人もいますし、会社にクレームの電話を入れる人もいるのですが、社員の安全を優先する対策をとっていました。
かつてマンション販売会社は「マンションは楽ですよ。何せ管理会社が全部やってくれますから」と言って、マンションの利便性を売り文句にしていました。実際にかつての管理会社は御用聞きの側面があり、住民が無理難題を言ってもなんだかんだで手を焼いてくれるケースが多くありました。これは管理会社と管理組合の管理委託契約の内容には含まれないものもあり、例えば「上の階の住民の騒音で寝られない」といった専有部の問題にも対応していたのです。
しかし時代が変わり、管理会社は物件あたりの利益率にシビアになっていきます。この10年ほどで管理会社は管理委託契約に含まれないことは断るようになっていて、先に挙げた上階の騒音問題などはキッパリ断る管理会社が増えています。
以前の管理会社は住民が困れば、契約外のことでも「入居者さんが困ってるんだから仕方ない」と手を貸していたのに、近年になって急に「契約外なのでできません」と言うようになったのです。これには住民も困惑しますし、腹を立てる人も出てきます。特にリプレースで新しい管理会社を選んだ管理組合などは、5年前と言っていることが違うと腹を立てたりもします。
その一方で、管理会社も新築物件の減少に加えて人件費の高騰などがあり、採算性に苦しんでいます。ネットでは管理業界がブラックだという噂も根強く、新しい社員の獲得にも苦労しています。こうした中で慢性的な人手不足、採算性の低下などがあり、さらに管理費の値上げは拒否されることが多く苦しんでいます。
こういったことから管理組合と管理会社に温度差が生まれ、仕事のミスなどがあると管理会社を責める理事が結構います。そのため管理会社はカスハラの問題に敏感になりつつあります。
(その2へ続く)
宅地建物取引士。中堅ゼネコン勤務を経て大手マンションデベロッパーで品質管理、アフターサービス部門を15年間勤務。その経験を元にマンションで起こるさまざまな問題を解決したく、建築系の知識経験に加えマンション管理経験を蓄えるべく株式会社メルすみごこち事務所へ参画。自身でもコラムサイト『マンションに住む人のためのブログ』を運営し、ポッドキャスト配信にも意欲的に取り組んでいる。