【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】理事会も気をつけるべきカスハラ(その2)

大手の管理会社は他の業種と同じく、社内のパワハラにも手を焼いていました。そして今はカスハラ(カスタマーハラスメントの略=消費者がサービスや商品を提供している企業に対してハラスメントを行う行為)に手を焼いています。

理事会で激しく怒られる、キツく詰められるといったことだけでなく、昼夜関係なく理事から電話が入ってくる、連日のようにメールがやってきて対応に追われるといったことが管理会社のフロントを苦しめています。パワハラやカスハラで社員が業務に支障が出た場合、会社はその社員を守らなくてはなりません。管理会社のフロントは激務に加えてこれらのハラスメントに苦しみ、フロント業務ができなくなり配置転換になっています。

こうした状況のため、本社経費がどんどん上がっている管理会社があります。現場勤務ができなくなった社員を本社の管理部門に入れるため、管理部門の経費が上昇するのです。マンション管理組合から見ると、サービスの質が下がっているのに値上げを要求されることに繋がり、不満は高まってしまいます。

パワハラであれカスハラであれ、企業によって対応方法が異なります。そのため勤めている会社によって基準が違うこともしばしばです。管理会社からカスハラがあったと言われた理事は、自分が勤める会社では当たり前のことと思ったりします。言いがかりをつけられているのではないかと思ったり、別の理由があるのではないかと考えたりします。

管理会社のフロントに土下座をさせた、殺すぞなど脅し文句を言ったというのは誰が聞いてもカスハラですが、微妙なラインのものも多く、管理会社がカスハラを受けたと感じていても理事会側には全く身に覚えがないという場合もあります。最近はカスハラを理由に管理会社が理事会に要望を出すこともありますが、話が平行線になることも少なくありません。

 

 

カスハラの事例をお伝えします。私がお邪魔するようになって3ヶ月も経っていない、首都圏某所のマンションです。総戸数は400戸を超える大規模マンションで、管理会社はマンションデベロッパーの傘下にある大手です。ある時、理事会から相談があると連絡を受けて伺ったところ、管理会社から要望書を手渡されたと言います。その内容は多岐に渡り、管理委託契約外の業務の強要や一部の理事からの高圧的な対応、連日のメール連絡や電話による要望の多さなどの改善が記されていました。これらが改善されなければ、契約の更新を行わないというのです。

確かに理事の中には声が大きい人がいます。管理会社のミスがあり、その理事が少々大きな声で詰問したこともありました。しかしミスの是正を求めただけで、脅しがあったわけではありません。

契約外の業務というのも話し合いの中で管理会社が行うと決めたものでした。それに短い付き合いではありますが、管理会社と理事会の関係はさほど悪い状態には見えなかったので、私も驚きました。そこで管理会社のフロントに連絡してみると以下のような説明がありました。

  1. フロントが業務に耐えられず、何度も交代している
  2. 何年も前から契約外の業務を依頼されていた
  3. 契約外の業務はできないと何度も訴えたが、最終的には押し切られていた
  4. 依頼されたことに関して週に何度もメールがあり、その度に進捗状況の説明を求められた
  5. 一部の理事からの揚げ足取りが多く、詰問が続くことがある
  6. 状況が改善しなければ契約を更新しないのは本社の決定

中には「この程度で?」と言いたくなる項目もありますが、管理会社としては真剣に事態を受け止めています。実は採算が取れなくなったので契約を切る方便にカスハラを言っているのかとも思いましたが、それは強く否定されました。

曰く「400戸以上あるマンションで、採算が取れないような見積もりを我が社がするわけがありません」ということで、これには説得力があると思いました。管理会社はカスハラで真剣に悩んでいるようでした。

カスハラは社会問題化していて、厚労省も動いています。カスハラによって管理会社が契約を更新しない事態も出てきていますので、管理組合にとって今後は大きな問題になる可能性もあります。管理会社が採算性を追求するようになったという話を書いたことがありますが、それ以外にも大手は社員を守らなくてはなりません。管理会社のフロントと理事会の付き合い方を、改めて考える時期に来ているのかもしれませんね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


アーカイブ