【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】マンションの集会室に防犯カメラは必要か

2つのマンションで、たまたま同じようなテーマで議論が起こっているので書いてみることにしました。それは複数の住民が集まる場所に、防犯カメラを設置するか否かという議論です。防犯カメラは不審者の侵入や犯罪行為を撮影するためのものなので、住民が集まる場所には不要という意見があります。なぜ議論になったのでしょうか。

1つのマンションは集会室に防犯カメラを設置しようとしていて、議論になっています。このマンションは200戸以上の大型マンションで、さらに仲良しグループが多く、カルチャースクールやイベントが多く開催されています。クリスマスや七夕には管理組合主催のイベントがあり、それ以外にも細々したイベントが不定期に開催されているようです。また住民にヨガの先生がいるらしく、ヨガ教室が月に1度のペースで行われ、さらにコーラスの練習も別の住民が主導して開かれているようです。

こういうアクティブな人が多いことに加え、毎月の理事会も集会室で開催されていますし、修繕委員会も開催されています。その結果、ほとんどの日曜日には何らかしらの利用がなされていて、集会室の利用率が高いマンションになっています。そしてこの集会室の天井に、部屋全体を見渡せるカメラを設置しようという議論が起こっています。

もう1つのマンションは、共用棟の1階にあるサロンに防犯カメラの設置が検討されています。この共用棟は2階に集会室や運動をするためのスペースがあり、1階はソファなどが並べられて談笑するスペースになっています。サロン内部に喫煙室があるためか利用する人が多く、有料で使えるコーヒーマシン、緑茶、紅茶、烏龍茶が飲める給茶機が設置してあります。土日の午前はソファが全て埋まることもあり、追加でソファを購入することも検討されています。

こちらも天井に防犯カメラを設置して、部屋全体を撮影するように考えています。部屋の形がやや歪なので3台のカメラを設置する予定になっていて、その設置場所も照明機器との兼ね合いから意見がまとまっていません。

サロンの場合、3台も防犯カメラを設置すると物々しく、常に監視されているようになるため、現在のようなリラックスする雰囲気がなくなると反対されています。

集会室の場合は1台ですが、やはり監視されているような気分になるのが嫌だという意見が反対派の中では主流です。誰かが常にカメラの映像を見ているわけではなくとも、常に撮影されているというのはストレスになると感じる人がいるのは納得できます。

また、防犯カメラは不審者を撮影するものなので、住民を不審者扱いしているとか、住民が犯罪を行う前提で話が進められていると憤っている人もいます。さらにサロンにいる時や、集会所でのイベントに参加している時はプライベートな時間であり、それを記録されるのはプライバシーの侵害ではないかという意見もありました。

 

 

このような反対を抑えてもマンション理事会が防犯カメラを導入しようとしているのは、この2つのマンションで同じようなトラブルが頻発しているからです。住民同士がトラブルになっていて、理事会はトラブル回避のために防犯カメラの導入を検討しているのです。主に起こっているの盗難トラブルで、住民間でギクシャクし始めています。

ケース1 ソファのレジ袋
日曜日に散歩に出かけた住民(男性)が、途中でコンビニに寄ってスポーツ新聞、タバコ、のど飴などを買いました。レジ袋にそれらを入れてサロンに寄り、ソファでコーヒーを飲みながらスポーツ新聞を読んでいました。レジ袋はソファの横に置いていたそうです。そして左側のソファに仲の良い住民が座ったため、ゴルフや競馬の話で盛り上がり、一服しようとレジ袋に手を伸ばすと袋が消えていました。

右側に座っていた男性はいつの間にかいなくなっていたため、その男性が盗んだと思い、周囲の人に何号室の住人かを尋ねて、部屋に突撃しました。しかし身に覚えがないと反論にあい、玄関先で揉めて、管理会社に連絡が行くことになります。他の部屋からも住民が出てきて、ちょっとした騒ぎになったようです。

ケース2 裁縫教室での盗難
集会室で裁縫教室が無事終了し、解散することになって1人の女性が騒ぎ始めました。裁縫道具を入れたバッグの他に、財布や携帯電話などを入れた小さなバッグを持ってきていたのに、それが無くなったというのです。財布も入っていたため全員が心配し、部屋中を探しました。しかし出てきません。

そこでリーダー的な奥様が全員に提案します。このままだと誰かが盗んだという疑惑が残るため、全員でバッグの中身を出して確認しようとなりました。嫌がる人もいましたが、泥棒の疑いをかけられるならと渋々全員がバッグの中身を全て出しましたが、消えた小バッグは見つかりませんでした。もうこれは警察に届けた方が良いという話になったのですが、その方の自宅の玄関で小バッグが見つかりました。玄関に置いたまま、集会室に来ていたのです。

ケース3 突き飛ばされた男性
サロンのコーヒーマシンで熱いコーヒーを入れた男性が、空いているソファを探してサロン内を歩いていました。すると突然後ろから強く押され、熱いコーヒーが指にかかって思わずコーヒーカップを落としてしまいました。この男性のズボンにコーヒーがかかってシミになり、指も火傷してしまいました。怒ったこの男性は、後ろを歩いていた男性を呼び止めましたが、自分ではないと言います。周囲の人達は、スマホか新聞を見ていたため押された瞬間を見ておらず、やったやらないの押し問答に発展し、この両者にしこりを残すことになりました。

集会室の方では、小さな子供が持っていたおもちゃが無くなったり、ハサミが無くなったとか、子供が転倒したのは誰かがふざけて押しからだとか、イベントが多いだけに細かなトラブルがちょくちょく起こっていました。トラブル自体は大したことなくても、周囲の対応によっては話が大きくなることもあります。

サロンの方でも、ソファの前のテーブルにタバコを置いていたら持っていかれたとか、いつも読み終わった新聞をそのままにして帰る人がいるとか、細かなクレームは絶えないようです。これら小さなトラブルがちょくちょく起こるため、防犯カメラを設置することで誤解を生まないようにしようと理事会は考えたのです。

 

 

防犯カメラを設置すると、プライバシーを侵害されるのでは?と不安になるのは当然のことです。そのため防犯カメラ運用細則を作り、それに基づいた防犯カメラの運用を行うことが重要です。記録した映像はどのような場合に見るのか、その判断は誰がするのか、そして誰が見るのかなどを決めておくのです。例えば理事しか見られないように決めていたり、盗難の場合は当事者に加えて理事の立ち会いがあれば見られるようにするなど、マンションによってさまざまなルールが決められています。

重要なのはルールをしっかり決めておき、いつでも誰でも映像を見られるわけではなく、ましてや映像を勝手に複製をしたり内容を吹聴するようなことができないようにしておくことです。このようなルールを決めて、それをしっかり運用することで不安を和らげることが可能になります。

防犯カメラの設置は不安を覚える住民もいるので、設置の目的を十分に説明しないといけません。上記の例では集会室を利用していない住民から、集会室を利用して起こる問題解決のためなら、利用している人達でお金を出し合って設置するべきという意見も出ていました。さまざまな意見が出るので、十分な話し合いを行って賛同を集めるようにしましょう。

また防犯カメラが設置されることで、トラブルの抑止効果も期待できます。監視されているという不快感にもつながりますが、出来心で誰かのものを持っていってしまうようなトラブルは、誰かが見ていると意識させることが防ぐことができます。そのため防犯カメラが悪用されるかもしれないという不安を抱く人が出てくるのは当たり前で、十分な話し合いが必要になるのです。

防犯カメラは不審者を牽制したり証拠を集めたりするだけでなく、住民間のトラブル防止にも役立ちます。そのため多数の住民が集まる場所に設置するのは有効だと思います。しかしプライバシーを侵害されると嫌がる人も多いので、導入には十分な話し合いが必要になります。住民間のトラブルの多くは、発端は小さなことからはじまるケースがほとんどです。トラブルを回避するという観点から、防犯カメラの導入を検討するのは良いことだと思います。

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