増える外国人と減る日本人
令和2年の国勢調査を見ると、日本における外国人居住者は1975年から比べると4倍以上、2015年から比較しても83 万5千⼈の増加、43.6%増になっています。その一方で⽇本⼈⼈⼝は 178 万3千⼈減少(1.4%減)になっているため、日本の総人口に占める外国人の割合は2015 年の 1.5%から 2.2%に上昇しています。日本人が減って外国人が増えているのが近年の日本の現状で、そのためマンション住民も外国人が増えるのは当然なのです。
日本に居住している外国人を国籍別で見ると、「中国」 が 66万7千⼈、「韓国,朝鮮」が 37万5千⼈、「ベトナム」が 32万1千⼈の順位になります。現在、急上昇しているのは「ベトナム」で、2015年からが 5.0%から 13.4%に上昇しています。その一方で、「中国」「韓国,朝鮮」は減少傾向にあります。外国人の居住の目的は、永住者、定住者、技能実習⽣、留学⽣、就労など様々ですが、「ベトナム」は技能実習⽣や就労のため⼀定期間在留する人が大きく増加しているようです。
またこの外国人が居住する地域を都道府県別に見ると、「中国」は東京都、埼⽟県、千葉県、神奈川県などでの居住率が⾼く、「韓国, 朝鮮」は京都府、⼤阪府、兵庫県などで⾼くなっています。⼀⽅で「ベトナ ム」の居住率は、幅広く多くの地域で⾼くなっています。ベトナムの方は全国に分布しているため全国のマンションに居住する可能性はありますが、技能実習などが多いので分譲マンションに区分所有者として住む人は少ないように思います。一方「中国」の方は、私のところに来る相談メールにも増えていて、定住ないしは投資で購入している人が増えているようです。
お買い得な日本のマンション
日本のマンションは海外の主要都市の集合住宅に比べると、お買い得と言われています。日本に住んでいると東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を越えたなどのニュースを耳にするので、日本のマンションの高騰化が気になりますが、海外の住宅事情と比較すると割安なのだそうです。日本不動産研究所が、各国の不動産を比較するために国際不動産価格賃料指数というのを出していまが、日本のマンションの割安さが見えてきます。
本指数では、東京より安いのはシンガポールとホーチミン(ベトナム)しかありません。ニューヨークやロンドンと比較するだけでなく、アジアの主要都市と比較しても東京のマンションは割安になります。また投資として考えても利回りは高いそうで、安く買えて利益を得やすいのが東京のマンションなのだそうです。
日本では東京23区内の新築マンションの平均価格が1億円を越えたと騒いでいた時期に、ニューヨークのマンハッタンではマンションの平均販売価格(中古を含む)が200万ドル(2億9000万円)を突破したというニュースが出ていたのですから、日本のマンションの安さが際立っているように思います。こうした割安感も伴い、日本に住む外国人だけでなく海外投資家も日本のマンションを購入しているようです。
そのため区分所有者は外国人で、住んでいるのは賃借人の日本人というマンションも徐々に増えてきています。
トラブル事例
私が頂いたメールなど、外国人居住者をめぐるトラブルの事例をいくつか紹介したいと思います。もちろんこれ以外の事例も多いはずで、ネットや雑誌などでも度々取り上げられています。
①管理費・修繕積立金が払われない
区分所有者は外国人で、海外に居住しています。管理費・修繕積立金は区分所有者から支払われるのですが、購入時から全く支払われていないそうです。販売した不動産会社の協力を得て海外の区分所有者に連絡をしますが、支払いは無視され続けているそうです。本人とも連絡が取れず、支払いは行われないため手詰まりになっていて、差し押さえも検討しているそうです。
これは海外とマンション管理の仕組みが違うことから起こる問題と言う人もいます。販売時にきちんと説明しておかなければならないのですが、通訳を介しての説明で、どれだけ正確に伝わるのか疑問も残ります。それは通訳の技量によって左右されるからです。
②総会で委任状や議決権行使書が集まらない
マンション管理組合の意思決定機関は管理総会になります。区分所有者全員が出席すれば問題ないのですが、普段の生活や仕事の都合などで出席できない人がいます。そのため委任状や議決権行使書を提出することで、出席の代わりにしているのです。そして総会での議決は内容によって、区分所有者の半数や3/4、内容によっては4/5の賛成が必要です。出席者が少なく委任状や議決権行使書が集まらなければ、総会で議決ができなくなります。
総会の議案書は事前に配布されますが、それは日本語で記載されています。そのため外国人は読むことができず、委任状や議決権行使書を提出しなくてはならないことも理解できていないケースもあるはずです。外国語で議案書などを作成するには翻訳の費用もかかりますし、何ヶ国語で作成しなくてはならないかはマンションによっても変わります。そのため複数の言語で議案書を作成している管理組合は、ほとんどないのが現状です。
③議事録が外国語
理事会の理事長や理事が外国人になったマンションで、理事会議事録や総会議案書が外国語で配布されてしまった例があります。これでは大多数の日本人の区分所有者には意味がわからないので抗議をしたようですが、是正されることなく外国語の議事録が回って来ているそうです。総会は議案内容が日本人の区分所有者にはわからないので、管理会社の契約更新の部分は管理会社の契約更新の部分だけは管理会社が日本語に翻訳したそうで、その部分だけは可決されたそうです。
理事になった外国人以外にも区分所有者の外国人が複数いるため、このまま理事会が外国人だらけになってしまうのではないか、外国人にマンションが乗っ取られるのではないか、そういった不安の声まで出ているようです。このマンションでは、理事長が作成していた議事録は管理会社が作成して理事長には翻訳して渡すことにしたそうですが、翻訳されたものが正確なのかわからないので押印できないと理事長と揉めているそうです。
管理規約の変更である程度は対応可能
上記の③の事例ですが、議事録や総会議案書は日本語で記載すると管理規約に盛り込めば、このようなトラブルを避けることは可能です。
管理規約の変更には総会決議が必要なので、早い段階で総会に上程するようにしましょう。特に都市部のマンションでは、外国人が区分所有者になる可能性が高いので検討する価値があると思います。その一方で、外国人区分所有者が多いマンションでは、総会に出席する必要があること、出席できない場合は委任状や議決権行使書の提出をしなくてはならないことを外国人区分所有者に説明する必要があるでしょう。文書配布だけで済ませるのか説明会を開くのか、理事会で検討しましょう。
宅地建物取引士。中堅ゼネコン勤務を経て大手マンションデベロッパーで品質管理、アフターサービス部門を15年間勤務。その経験を元にマンションで起こるさまざまな問題を解決したく、建築系の知識経験に加えマンション管理経験を蓄えるべく株式会社メルすみごこち事務所へ参画。自身でもコラムサイト『マンションに住む人のためのブログ』を運営し、ポッドキャスト配信にも意欲的に取り組んでいる。