今回のテーマは、総会において修正動議が提出された際に、委任状や議決権行使書をどのように取り扱えばよいのかについてです。
委任状は代理人によって議決権を行使する場合に代理権を証明する書面であり、総会に出席した代理人が議決権を行使します。委任状は「総会に関する一切の件」について代理人に白紙委任するものがほとんどで、修正動議の採決に際しても議案と同様に、代理人がその場の自己の判断で議決権を行使することができます。
大部分の組合では代理人の資格を「組合員の配偶者、一親等以内の親族、その組合員の住戸に同居する親族等」に限定しています。それは組合員自らが代理人を探すことが困難であること、代理人が組合員の意思通りに議決権を行使するとは限らないことから、配偶者や親族であれば、出席できない組合員の意思を総会に遠からず一定程度反映しうると考えているが理由です。
問題は、総会へのリアルな出席者が少ない場合、議案や修正動議に対する賛否が議長あての委任状により総会前に決まってしまうことです。
というのも、本来委任状は誰に委任するかを記載して提出するはずですが、実際は代理人の記載のない「白紙委任状」がほとんどで、多くのマンションでは代理人の記載のない委任は「議長(理事長)に委任することとする」と取り決めているからです。
今回このコラムを書くにあたり、改めて懇意にしている5つのマンションの委任状提出状況を調べてみました。結果は、総会に実際に出席した組合員さんが19%、議決権行使書提出18%、白紙委任状提出63%が平均値でした。他よりも総会への出席者が比較的に多いと評価されてきた杉並のマンションであっても、委任状の状況は59%とあまり他と変わるものではありませんでした。
議長は理事長として議案を提出する側の代表ですから、自分への委任状を行使して議案に反対することは一般的にはありませんし、修正動議に賛成することもありません。要するに、議長への白紙委任状の数が議案や修正動議の賛否の鍵を握ってしまうということです。
議決権行使書は、組合が総会の招集通知する際に組合員に交付される書面で、組合員はこれを組合に提出することにより議決権を行使します。議決権行使書が委任状の場合と決定的に異なるのは、組合員自身が書面で議決権を行使するという制度ですから、各議案に対して賛成・反対が明らかです。
例えば、管理費増額の件について10パーセントの値上げの議案が総会に上程されていたところ、更に5%アップの修正動議が提出されたと想定してみましょう。原則的には、修正動議が提出されたからといって議決権行使書を勝手に変えることはできません。
原案議案に対して「賛成」の議決権行使書が提出されている場合は、その組合員の議決権は修正動議については「反対」したものとして取扱うことになります。
原案議案に対して「反対」の議決権行使書が提出されている場合、提出者が10パーセント増額の原案議案に対しては反対だが10%以下の増額ならば賛成なのか、それとも増額そのものが小さすぎる、さらに5%は必要と判断して反対なのか、提出者の真意を議決権行使書上から判別することはできません。
判別できない場合は修正動議に対して「棄権」扱いとなり、棄権は賛成にカウントしませんから、実際には修正動議に「反対」と同じ結果となります。
議決権行使書に賛成と記されていれば動議には反対として扱い、反対と記載されていても動議には棄権扱いになるということで、議決権行使書はどっちみち修正動議の賛成側にカウントされるはありません。
また、提出された議決権行使書に議案に対する賛否の記載がない場合があります。
大規模のマンションではそれなりに相当数でてくるので、その際は原案議案に「賛成」として取り扱う旨をあらかじめ定めておくことができます。実務上もそのように対応する組合が増えてきています。ただし、その定めがないときは議決権の行使自体が無効となり、原案議案及び動議双方に「棄権」として取り扱うことになるのは当然です。
それに、管理会社ではフロント社員を対象に「原案可決」という名の研修があるそうです。
文字通り総会に上程された原案議案をいかに波乱なくスムースに総会の予定時間内に可決承認いただくかのスキルを磨く授業です。
まず議長をはじめ組合役員の方々への「落とし込み」が重要であるとレクチャーします。
緊急に修正動議の提出があっても慌てず動揺を見せずに動議に臨むこと。質疑には誠意をもって対応するにしても、通常総会では原案可決がルールであることを出席者に訴えること。
次に修正動議の内容に関しては次期理事会で引き続き審議していくことを約束して、とりあえず原案議案の可決承認を優先してもらう。管理会社として意見を求められれば、フロント社員は他のマンションでも同様の措置がとられていることを紹介し、総会の円満な運営を強調する。こんなふうに研修が模擬総会を設定してロールプレイング形式で行われているようです。
以上、委任状及び議決権行使書の取り扱いについて述べてきましたが、お気付きのとおり、議長への白紙委任状が60%を超えているようでは、管理会社の総会に対する見識が変らなければ一般的に修正動議が総会で討議され可決される可能性はゼロでしょう。
しかし、総会を予定調のシャンシャン議案追認機関とはしたくない、組合の最高意思決定機関としての実在感を少しでも発揮したいという考えをお持ちの方々は確実におられるようです。以前はそうした思いが雑談の中で発せられることがありましたが、最近は真剣に真顔で下記のような相談が増えてきました。
「制度上白紙委任状でも出席扱いになることを知っているので、実際に出席する組合員は減っていく一方です。
ロビーで総会を開催している傍らを欠席者が何人も悠然と私語を交わしながら横切っていくのを見るにつけ、釈然としないものを感じる。
かわり映えしない総会(儀式)に対する彼等のアンチテーゼと捉えるべきなのでしょうか?
組合員を引き付ける総会の活性剤のようなものはないでしょうか?」