【デベロッパー・管理会社経由、北関東のマンション管理士 白寄和彦のコラム】マンション管理組合 役員が負う2つの義務 その2

マンションの新時代突入を実感できるほど、新しい形のトラブルが多く発生しています。シェアハウスや民泊といった新しい住宅の利用形態に関するトラブル、高齢化に伴う認知症組合員をめぐるトラブル、組合員の多国籍化に伴う、生活様式の差から生じたトラブル等が確実に増えています。

これらの新しいトラブルにつき、法令の整備が後手後手になっているのが現状で、トラブル解消の協力要請が日々組合に持ち込まれてきます。また、災害時の共助等を目的に、居住者間のコミュニティ形成のために各種イベントを開催などソフトの充実に努めることも組合に求められています。

こうした組合業務の執行部たる理事会には、審議し企画し決定し執行して処理しなければならない(しかも短期間に)、そんな議事が山積しています。本当は、理事会でじっくりと活発な討議が行われることが組合運営の大切な要素であるはずなのに__。

月1回の開催で理事会を回していくために、半日以上の時間をかけ、それでも業務が滞る状況にあって、「規約改正や細則制定を前提としなければ自分たちで合意した理事会ルールを運用できない」と言われるのは非現実的だと感じ、やる気に水を差されたようで、理事さんたちはそこが不満なのでしょう。

規約には、理事会に関する絶対的事項のみを定めていればよく、理事会運営の実務に関しては効率を優先して、融通無碍のルールである「申し合わせ」を運用していけばよいのではないか、という主張も気持ち的には理解できます。

しかし、理事会のモチベーションが旺盛なだけに、ここで何らかの歯止めがかからないと、「申し合わせ」ルールは独り歩きを強めて行くことが予想できます。

例えば、貴組合でも苦労している問題の一つに「理事会の出席率の確保」があると監事さんから伺いました。それをクリアするために、2つの有効な手法があり、これをスタートさせる組合が最近増えてきました。

まず、理事の代理出席で、同居する配偶者や一親等以内の親族に限定して代理出席を認めることです。次に、欠席を申し出た理事に対して、予め理事会議案を示したうえで、事前に意見書や書面による議決権行使書を提出してもらう方法です。

これらが「申し合わせ」ルールとして機能していけば、確かに理事会の定足数を心配することはなくなり、理事会の成立に大いに資するでしょうが、本来これらも規約に定めを置かない限り運用することは認められません。すでに導入した組合では当然に規約改正を待って運用させています。

万が一にも将来組合員間で何らかの対立が生じ訴訟等の争いになれば、一方の組合員から理事会決議、ひいては総会決議の無効確認訴訟が提起される恐れがあります。ちなみに、これが最近のマンションに係る訴訟で最も多い類型になっていて、決議無効判決の事例が増えています。

私が心配するのは、訴訟という最悪の事態にまでは発展せずとも、理事さんたちが組合員から2つの義務違反を問われて両者の信頼関係を損なうリスクが否定できないことです。

役員は、規約37条によって役員が職務を遂行するにあたって誠実に職務を遂行しなければならない「役員の誠実義務」と、組合と委任ないし準委任の関係にあるため、民法644条に定める「善管注意義務」を組合員に対して負っています。

いかに理事会業務の効率化が図れたとしても、監事から指摘を受けているにも拘わらず長期に規約改正を怠り、規約との相反を知りながら「申し合わせ」ルールの限度を超える運用を行う行為は、将来的に組合に少なからず損害を与える可能性があるわけで、2つの義務に違反しているとして是正を求められても仕方がないように思います。

 

 

そういえば、他の組合で善管注意義務違反を問われた身近な事例に管理費等の滞納問題があります。

管理費等を長期に滞納する組合員から遅延損害金や元本の一部を免除してほしいという要望が出された際に、スピード解決を最善と考えた理事会が独自の判断で免除を決定したのです。そこで一部の組合員から反対の声が起こりました。

管理費等の支払いは組合員の最低限の義務であり、組合に損害が生じるわけですから、一部であっても組合員が不公平を感じ反発するのは当然です。

そのため、実務上は総会の決議(多数決)を経て免除等を行うことをおすすめしました。

この場合、やむを得ない措置として、十分かつ慎重な審議を行ったうえでの理事会の判断であることを説明して、組合員の理解を得て善管注意義務違反のリスクを回避することが重要です。

監事の職務である業務監査の対象の大部分は理事会です。

業務監査とは、理事会業務が法令・規約及び事業計画に従い適正に行われているか監査することです。

この度監事さんは、組合員の付託に応えようとする理事会の姿勢は評価しつつも、理事会の不作為、つまり理事会として規約改正等の手続きを怠っている事実を指摘していますが、それと同時に、理事会が拠り所としている「申し合わせ」は、あくまでも理事会の裁量が認められる範囲内でのルールとして一般的に許容されているわけで、公の規約や細則とは明確に区別し運用すべきであることも指摘しています。

今般の標準管理規約の改定内容に表れているように、組合活動における監事の役割には大いに期待が寄せられています。しかし、その割には監事の意識改革はあまり進んでおらず、力が発揮されているようには思えません。

知識の習得に励み、敢えて嫌われ役に徹し、理事会に対して是々非々で直言する貴組合の監事さんは得難く、ありがたい存在だと感じます。

「和して同ぜず」、私は理事会と監事さんの適温な緊張関係を羨ましく思います。他のマンションではなかなか見られない景色です。

この両者の関係が将来にわたって継続されんことを願っています。

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