マンションの管理費と修繕費
先日、あるマンション住まいの方と話していたら、私の仕事を聞くと「ウチのマンションは管理がしっかりしてるんですよ」と仰っていました。なんとそのマンションに住み始めてから20年近く経つのに、管理費が全く値上げしていないというのです。そのため「値上げがないのは管理会社がしっかりしているから」とおっしゃっていました。こういう勘違いは多いと思いますので、今回は管理費や修繕積立金の値上げについて書いてみたいと思います。
マンションに住んでいる方は、管理費と修繕積立金を合わせて支払っています。一括で銀行引き落としになっていることがほとんどなので、この両方を合わせて管理費だと思っている方が多くいます。ですが用途や目的が全く違うものなので、それぞれをいくら払っているか知る必要があります。
①管理費
マンションの共用部分の維持管理費使われるお金で、代表的なものは管理人さんの人件費です。また共用廊下の照明の電気代や、植栽に撒いている水道代なども含まれます。さらに管理会社の管理費用、共用部の火災保険料、日常的な修繕費用も含まれます。このように毎月使って消えていくのが管理費で、マンションの維持管理には欠かせない費用になります。
②修繕積立金
十数年に一度行われる大規模修繕工事のために積み立てられているお金です。劣化した共用部分の修繕や、資産価値を高めるための改修工事のために使います。大規模修繕工事は長期修繕計画に基づいて行われるため、修繕積立金は長期修繕計画に基づいて積み立てられます。また長期修繕計画に記載されていないバリアフリー対応工事を行なったり、突発的な事故で破損した部位の修繕工事を行った場合にも修繕積立金から支払われます。
なぜ管理費を値上げをしないといけないのか
最初に書いた方は、20年以上も管理費の値上げはないと言っていました。実際には管理費と修繕積立金なのですが、そのどちらも値上がりしていないというのは、普通では考えにくいことです。まず20年前は消費税が5%でしたが、現在は10%です。単純に消費税が2倍になっています。何もしなくてもさまざまな費用が値上がりするはずで、その分の値上がりが必要になるはずです。管理費も修繕積立金も値上がりになっているはずです。
また最低賃金もこの20年で大きく推移しています。東京の最低賃金は2002年は663円でしたが、20年経った現在は1072円です。管理人も清掃員も給料が大幅に上がっているので、この分も管理人さんの人件費などは値上がりが必要なはずです。また物価も上がっています。この20年で消費者物価指数を見ても、かなりの値上がりになったことがわかります。これは大規模修繕の材料も例外ではありません。さらに修繕工事で働く人の人件費も高騰しました。そのため修繕積立金もその分は値上がりしないといけないはずです。
この人件費の値上がりは深刻な問題になっていて、首都圏では管理費の値上げラッシュが起こっています。これは管理会社の悩みの種になっていて、管理会社が使っている清掃会社などが問答無用で値上げを要求してくるので、最終的に管理組合に値上げをお願いすることになるのです。
20年も値上がりしていないというのは、にわかに信じられない話なのですが、いくつかの可能性が考えられます。その可能性を見て生きましょう。
①最初の値段が高すぎる
販売時の管理費や修繕積立金の設定が高すぎたため、その後の物価上昇にも耐えられていることが考えられます。しかし実際に、このようなことはないでしょう。なぜならマンションを販売するデベロッパーは、販売しやすくするために管理費や修繕積立金を過剰に低く設定することがほとんどだからです。最初の値段設定が低すぎるという話はあっても、高すぎるという話は聞いたことがありません。
また今回話をしてくれた方は、築10年ちょっとで中古購入しているので、管理組合がそれ以前に値上げをした可能性もあります。その値上げが高すぎたため、20年も値上げせずに済んだのかもしれません。しかし総会で値上げを議題にすると、揉めることがほとんどです。そのため過剰な値上げを行ったというのは、ちょっと考えにくいと思います。そもそも管理費を値上げするには管理会社から見積書を出してもらって、値上げが必要な根拠を示します。そんな中で過剰な値上げなど到底無理でしょう。ですから当初から値段が高すぎた可能性は考えにくいのです。
②管理の質が低下している
管理費が値上がりしていない代わりに、管理の内容が変わっている可能性があります。例えば管理人が毎日来ていたのに、週に3日しか来なくなっていたり、清掃範囲が狭くなったり清掃の頻度が減っているなどです。管理費の抑制によく行われる方法で、私の知る築34年の総戸数6戸のマンションでは、清掃を全て住民が行うことにして管理費を削減しています。わずか6戸で住民同士が家族ぐるみの付き合いをしているため、奥様方が集まって清掃をすることになったわけです。お子さんも手伝っていて、終わったらお茶会や食事会をするなどイベント化しているようです。
この例は極端ですが、管理の内容を変更することで管理費を抑えることが可能になります。管理費が長い間値上がりしていないなら、管理の質を下げなければ管理会社は利益を確保できないのです。
③管理会社を変更している
上記の②とも関係しているのですが、管理会社が変わった際に管理の内容が変わっていることがあります。価格を低めに設定するために、以前よりサービスを少なくしているのです。また管理会社を大手から中小企業に変えた場合、経費が違うので大手よりも安く管理することが可能になります。これは全国展開の大手の場合は本社経費と支店経費が必要になりますが、地元の小さな会社の場合は本社も支店もないので事務所経費だけで済むからです。また大手の場合は都心の一等地に事務所を構えていたりするので、そこの家賃だけでも高額になります。管理会社を変更した場合、以前より安くなっていることから途中で多少値上げしても、変更以前と大して変わらないため値上げしていないと錯覚する可能性があります。
④値上がりしていないと錯覚している
案外、これが最も多いのではないかと思います。実は値上げが行われているにも関わらず、それに気づいていないケースです。私はセミナーなどで「今、管理費はいくらですか?」と質問することがありますが、正確に答えられる人は少数です。多くの場合は修繕積立金と一緒にして「3万円ぐらい」と答えたり、「引き落としにしているので覚えていない」と答えたり、かなり曖昧です。中には駐車場代を含めて話す人もいて、「管理費は○○円、修繕積立金は○○円」と正確に答えられる人は珍しいくらいです。
毎月毎月、何年も支払っているのにいくらか把握していない人が多いことに驚かされますが、管理費の認識というのはかなり曖昧なのです。そして管理費を覚えていても「1万5000円くらい」とアバウトに答える人は、毎月500円程度の値上がりをしても気づかないでしょう。私が伺っているマンションでも、劇的な値上げを要求されるから話題になるわけで、わずかな値上げはなかなか話題になりません。管理費の値上げは、なんらかの形で住民に知らされています。しかしマンション理事会のお知らせや、管理会社からの手紙をろくに読まない人も多く、値上げしていても全く気づかないというケースは珍しくないように思います。
管理費を把握しよう
頑張って働いて稼いだお金の中から、ローン代や駐車場代に加えて管理費や修繕積立金が支払われています。管理費が1万5000円/月だとしても1年で18万円、10年で180万円を支払っています。これをわずかなお金と思う人は良いのですが、私などは決して小さな額だとは思えません。同じく小さな額だと思えないならば、毎月支払っている管理費や修繕積立金の金額は把握しておくべきでしょう。
管理費の値上げは辛いことですが、大抵の管理会社は値上げの理由をきちんと説明してくれます。その理由に妥当性があるかどうかを判断するのに、自分が払っている管理費がいくらで、いつから値上げしていないかを知っておくのは重要です。最初に書いた方のように本当に20年近く管理費の値上げがないならば、管理会社が管理費の値上げを言ってきても当然だと思えます。しかし2年前に値上げしたのにまた値上げするなら、この2年間で何が変わったのかを細かく質問する必要があります。これは理事会任せにするのではなく、住民の皆さんが意識しておくべきだと思います。
最悪なのは値上げを無下に断ること
もし本当に20年近く値上げをしていないマンションがあれば、それはこれまで書いてきた事情により管理会社が値上げを要求してきても、理事会が無下に断ってきた可能性があります。管理会社の事情はわかるが、値上げなんて認めないと無理を言う理事会の話はちょくちょく耳にすることがあります。そうなると管理会社の利益は減り続けており、やがて管理を続けることが不可能になります。
近年、こういう管理組合に対して、管理会社は最終手段を取ることが増えてきています。管理費の値上げを要求し、それが認められないと管理契約の更新をしないと宣言するのです。これは最終通告に近く、これまで無理して安く設定してきたので、大幅な値上げを要求することが多いようです。そして理事会が拒否したり、総会で値上げが否決されると管理会社は契約を更新しないで管理業務を終えるのです。こうなってしまうと、管理組合は新たな管理会社を探すことになりますが、以前よりも管理費がかなり高くなってしまうため、なかなか管理会社を決められないことになりがちです。こうして管理会社が決められずに自主管理に移行する管理組合が多くありますが、管理業務は多岐に渡るので住民だけでは難しく、なんら管理されないマンションになっていくこともあります。こうなると資産価値が下がるので、売却する際にも不利になってしまいます。
宅地建物取引士。中堅ゼネコン勤務を経て大手マンションデベロッパーで品質管理、アフターサービス部門を15年間勤務。その経験を元にマンションで起こるさまざまな問題を解決したく、建築系の知識経験に加えマンション管理経験を蓄えるべく株式会社メルすみごこち事務所へ参画。自身でもコラムサイト『マンションに住む人のためのブログ』を運営し、ポッドキャスト配信にも意欲的に取り組んでいる。