【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】増えつつあるマンション相続人不在の困難

ここ数年、マンションの管理費や修繕積立金の滞納が増えているようです。コロナ禍により失職したり、商売の収入が減っているため滞納している例もあります。しかし所有者が死亡し、相続人がわからないため修繕積立金と管理費の請求先がわからないので滞納になってしまっている例が増えているのです。私がお邪魔しているマンションでも、確実に増えています。なぜこのようなことになるのか、そしてどうしたら良いのかを考えてみたいと思います。

マンションの相続人が不在になるのは、いくつかのパターンがあります。主に4つのパターンがあるので、それを挙げていきます。ここでは相続人と被相続人という言葉が出てきますが、相続人は相続を受ける人です。相続財産をもらう人のことを指しています。被相続人は、財産を持っている人です。被相続人が亡くなると、被相続人の財産が相続人に相続されます。

①相続排除
被相続人が相続人から虐待などを受けていて、肉体的・精神的苦痛が与えられる場合に、被相続人の意思に基づいて相続権を喪失させた場合です。子供達から虐待を受けていたために、誰にも相続させたくないと被相続人が求めた場合、家庭裁判所が認めると相続排除が成立します。

②相続欠格
サスペンスドラマのように、相続人が財産欲しさに被相続人を殺害した場合などは、相続欠格となります。また相続人が被相続人を脅迫したり、詐欺行為で遺言書を書かせた場合なども、相続欠格になります。遺言書を偽装したり勝手に書き換えたことがわかった場合も同様です。

③相続放棄
相続人が相続財産を放棄した場合です。被相続人に財産の他に借金がある場合、相続してしまうと相続人が借金を負ってしまうことがあります。そういった場合、相続人が相続を放棄することがあります。

④相続人が不明
マンションで孤独死が発生した場合、家族の連絡先がわからないので相続人が誰だかわからなくなってしまったケースです。相続人はいるのですが、本人が相続しているという意識がなく、マンション管理組合も相続人がわからないので、修繕積立金や管理費の請求ができないままになっています。このケースが今、増えているのです。

 

 

国土交通省の資料「死因別統計データ」には、2003年から2018年までの東京都区部での孤独死の数がまとめられています。この資料を見ると、東京都の区分だけで2018年には5518人もの方が孤独死という最期を迎えているのがわかります。

当然ながら孤独死は東京だけの問題ではなく、全国的に増えつつあると考えられます。マンションで一人暮らしをしている高齢者が、ある日突然亡くなると、ご遺族に連絡をしたくてもできないケースがあります。多少の近所付き合い程度では、家族の連絡先を聞くこともありませんし、そもそも家族が存命なのかすら知らないこともあります。そのため修繕積立金と管理費の滞納が、長く続くことになってしまうのです。

相続人がわからない場合は、相続人調査を行う必要があります。これは戸籍謄本を正しく読み取る知識が必要なので、誰でもできることではありません。多くの場合、弁護士などの専門家に依頼することになります。

調査を始めても簡単に見つからない場合もあり、時間がかかることもあります。遺産分割協議が済んでいない場合もあるので、相続人が複数いる場合もあります。調査の目的は管理費や修繕積立金の滞納分の支払いと、今後の支払いをしてもらうことですが、調査をしても簡単に解決しない場合もあります。しかし調査をしないと何も始まらないのですが、調査をしても簡単に解決しないこともあるのです。

相続人が増えると、修繕積立金や管理費の未収が増えていきます。未収が増えると他の住民の負担額が増えていき、やがて管理組合の金銭的な破綻を迎えます。しかも破綻は突然ある日、劇的にやってくるわけではありません。ゆっくりと少しずつ破綻していく、緩やかな死に向かうのです。そのため相続人不在は早めに解消しなくてはなりませんし、弁護士などの専門家に相談するのも躊躇うべきではありません。管理会社に相談しても話が前進しない時は、早めに弁護士相談を検討しましょう。

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