妻によると、翌日も、W氏からの連絡はなかったそうだ。
業を煮やした妻は、翌々日、再々度の電話を入れ、ようやくW氏と連絡が取れたらしい。
「はい~。Wですぅ~。」
先日のH林氏とは異なり、W氏は、妻が要件を告げても、その調子の良い口調を崩さなかったという。
「失礼ですがぁ、理事会での役職をお聞かせいただけますかぁ?なぜ理事長のK山さんからのお電話ではないんでしょうかぁ?」
妻の話では、W氏はなかなか手ごわそうな相手だったようだ。
「丁寧は丁寧なんだけど、なんていうのかな、あくまで自分のペースで進めようって、マッチョな感じがあるねんわ。」
明るく丁寧な、しかしねっちりした口調は崩さないまま、W氏は何度も確認してきたという。
「K山理事長はぁ、この電話のことをご存じなんでしょうかぁ?」
対して、
「この件については、私が交渉を一任されておりますので。」
と、妻。
今期の理事5名(幹事のT村さんには、議事投票権はない)のうち、K山さんとY上さんを除く3名…つまり過半数の支持を得ての行動なので、妻は、「『一任されている』と言ってよし…」と判断したらしい。ただ実際のところ、この時点では、K山理事長とC技研とのかかわりは分かっておらず、ブラフでの返答ではあったという。
それを知ってか知らずか、W氏は、次のように返答してきたそうだ。
「未提出の図面についてはぁ、K山理事長と『タイルの保証』で話がついていると聞いていいますぅ。」
「その話は、B建築設計から持ち掛けられはしましたが、理事会としてはお断りしています。」
「それならぁ、K山理事長と直接お話ししてぇ、確認させていただけますかぁ?」
ここでK山理事長に出てこられたのでは、図面の提出はおぼつかない。しかも「交渉を一任されている」と伝えているのに、「理事長を出せ」と言われるのも気に食わない。
「その必要はありません。理事会として、図面の提出をお願いします。」
妻は、きっぱりと申し渡したそうだ。
W氏も引き下がらない。
「でもねぇ、データーはもう残ってないんですよぉ。どうやって提出しろっていうんですぅ?」
「それは存じません。ただ、契約上、必ず提出していただくことになっている書類です!」
N川さんの事務所でのやり取りを思い出した妻は、次のように付け加えたという。
「データーが残ってないっていうのなら、足場を掛け直してでも作り直したらどうですかっ!?」
繰り返すが、足場の設置には1000万円程度の費用が必要になる。妻の発言に、W氏の口調は、急に改まったのものになったらしい。
「そんな無茶な…分かりました。今後のお話ですが、弁護士を介してのものにさせていただきます。」
直接決着をつけるつもりでいた妻としては、不本意極まりない回答だったようだ。しかも、この時点では妻たちはまだ、弁護士をみつける目途さえつけていなかったのだから、先に「弁護士」の話を出されてしまったことについては、少々腰が引けてしまうところもあったらしい。しかしW氏は、以後は「弁護士」の一点張りで、それ以上に話を進めさせることは、できなかったという。とにかくC技研としては、図面を作り直すつもりは、一切ない…というよりも、彼らとしては、これは既に終わった話と認識していたようだ。こちらから問いただすことがなければ、補償の文書を取り交わすことさえなく、やり過ごすつもりでいたのだろう。
「次回の理事会への出席要請への回答も含め、一週間を目途に、弁護士から書面を届けさせますので。」
W氏とのやりとりはそこまでだった。
「タイルの図面は、契約上出してもらう権利がある」で押し通せると思っていただけに、この結果には、さすがの妻も、少ししょげていた様子があった。だが、しばらく考えた結果、
「相手方の弁護士を引っ張り出してやった。」
と、気持ちを立て直すことにしたらしい。その前提で、I子さん、Y子さんとも、さらに話し合いを重ねていく。わが妻ながら、つくづくめげないヤツではある。
なお、「一週間を目途に」と告げられたC技研からの書面だが、期限を過ぎても届かず、かわりにW氏から、管理会社のK青年に連絡があったそうだ。
「申し訳ありませんがぁ、こちらからの書面は、期限までにお届けできそうにありません。書面作成のために確認したいことがあるのでぇ、理事会に出席させていただきたいと存じますぅ。」
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