“都会のマンション”に異変!あなたはどうする?<第2部>
都内で建設されるタワーマンションは780棟、その一方で都内のマンションでは異変が。
空室が増えている、その数70万戸。
管理費滞納…危険な老朽化__。
やっとのことで空室の持ち主を探し出しても__。
さらに建設ラッシュの裏側では、修繕積立金が不足するマンションが続出。
あるタワマンでは住民が自ら解決に向けて模索。わたしたちの身近でひそかに進むマンションの異変にどう向き合えばいいのだろうか…?
当校先生、深山州がコメンテーターを務めました。非常に興味深くタメになる番組でしたので、第1部に引き続き、内容をおさらいします。
マンションの老朽化はすすむ
2017年に200万戸に満たなかった築30年超のマンション戸数。20年後の2037年、その数は500万戸を超えると予測される。そして、その中にはタワーマンションも含まれる。
東京台東区に築50年以上のマンションを所有している白井さん。外壁コンクリートはところどころ剥げ落ち、今にも通行人に当たりかねない危険な状況。さらには、漏水の放置でエントランスは水浸し。管理組合がないため修繕積立金がないという。
白井さんは修繕をあきらめ、所有者の5分の4の同意を得て建替えを目論む。しかしながら、登記簿に記された所有者のひとりの住所は上海。所有者の行方はわからない…。
それでも白井さんは気丈にも明るく話した。
「いつの日か、ぼくが生きてるうちに綺麗なマンションになってもらいたい、というのが本音です」
修繕の問題はタワマンでも
建設ラッシュから10年以上がたち、タワーマンションも修繕の時期を迎えている。都内タワマンに住む元理事長の男性。その手には自身の住むタワマンの深刻な状況を示すひとつの資料があった。
2回目の大規模修繕工事を4年後に控え、修繕積立金が工事費を下回ることが判明。その原因は修繕費の積立方式にあった。
それは___『段階増額積立方式』
多くのマンションで入居当初は修繕積立金が低く設定されている。しかしながら、その後、修繕計画を実行するためには、修繕積立金を段階的に引き上げていかなければならない。値上げするためには原則、『そのたびに所有者の合意』が必要となる。しかしこのマンションでは1度も値上げできない。理事会で反対されたからである。
所有者の高齢化が進むなか、一刻も早く修繕積立金を引き上げないと、マンションが維持できなくなる。
元理事長は静かに語った。
「マンションを維持するためには、やらなきゃいけないことをやっていかなきゃいけない」
修繕積立金不足、解決のヒントは
マンション管理組合活動の成功事例を多く持つ、都内屈指のタワマンの代表理事である應田さん。
このマンションでは7年前に修繕積立金の値上げを実現させた。1年の間に何度も説明会を開き、値上げの必要性を訴えることで住民の合意を得ることができたのだ。しかしながら、新たな事態に直面してしまう__。
2年後に迫った大規模修繕工事に向けて詳細な見積もりをとったところ、当初の見積もりより6千万円も高くなっていることがわかったのだ。こういった事態は、実はタワマンでは珍しくない。法律で高層階の足場が組めないため、ゴンドラなど特殊な機材が必要だからだ。マンションの形状によっては特注が必要となったり、ゴンドラを増設したりするため、タワマンは足場の組めるマンションと違い費用が高くなりがち。
マンション修繕施工会社の川島氏は次のように述べる。
「マンションによっては、仮設費は全体の5割近くの比率になってしまう。タワマンは仮設費が非常に噴騰してしまうというかたちです」
應田さんのマンションの提案は、大規模修繕工事計画の変更。
建物調査で状態が良いことが分かったので、工事の時期を3年後にずらし、その間に不足する6千万を積み立てようと考えたのだ。理事会活動のツボを知り尽くした應田さんもこう話す。
「値上げというのは、ものすごくハードルが高いです」
どうする修繕積立金
映像はスタジオに戻り、「住人の合意をとるにはどうしたらいいのか」と、司会がコメンテーターのひとりである深山氏に尋ねる。
その質問に、深山氏は即座に答える。
「そもそも分譲マンションというのは、(住人が)その立地で、その部屋が気に入って集まって買っているものなので、共通の目指すべきところがなにもない状態で住んでいる。シニアになってお金がないから値上げをしたくないとか、投資目的だから長く住まないので値上げをしたくないとか、様々な価値観の人がいるので、一つにまとめるのがいちばん大変です。『自分たちのマンションはどこに向かいたいんだ』『こういうマンションを目指したいよね』『だから、積立金が必要なんだよ』と、大きな目的を示さないと人は動きません」
段階増額積立方式と均等積立方式
【段階増額積立方式】
当初の負担少ないが値上げのたびに合意必要(実にマンションの7割がこちら)
【均等積立方式】
当初から修繕積立金は割高、毎月の額は変わらない
国は“均等”式を推奨しているが、なぜ7割ものマンションが“段階”式なのか___。
コメンテーターのひとり、経済ジャーナリスト萩原さんは次のように話す。
「(段階増額積立方式は)売るときに売りやすい、買い手も出費が一番多い時に抑えられる、というメリットがあるから。でも、今は給料があがらないし、職も不安定ですよね。段階的にあげるといっても必ずしも住人の同意がとれるとは限りません」
取材を担当したNHK社会部の藤島記者は提言する。
「所有者に管理責任があるのは当然だが、所有者だけで解決できないケースがあるのも事実。例えば公的な機関が老朽化状態をチェックし、マンション管理組合に助言、あるいは、住民の合意形成を支援する、という動きも必要なのではないか」
タワマン建設に「待った」
タワマンの価格は70平方メートル換算で6000万を優に超え、バブル後最高値となっている。その原因の一役を担った『海外からの投資マネー』、数年前から市場の流れが変わり、買いが減っただけでなく売りが増えてきたのが現状である。今、タワマン建設を支えているのは、年収の高い共働きカップルの存在、それが、『パワーカップル』。
タワマンの林立という事態の原因をつくったのは『自治体』である。都内タワマンの3分の1は、区が1102億円の補助金を投じて建てられた。さらに後押しをしたのは『容積率(敷地面積に対してどのくらい床面積をつくれのかを定めた基準)の緩和』である。50階建てのマンション建設も可能になった。
この結果、中央区では20年余りで人口が倍増。駅のホームは人であふれ、保育所も間に合わない。このままでは暮らしへの影響が深刻になりかねないと判断した中央区は、人口増の歯止めをかけるべく『容積率緩和の廃止』を決定した。
コメンテーターのひとり、不動産コンサルタントの長嶋氏は厳しい表情のまま話した。
「世界の中での都市間競争があるなか、(日本は)全体としてのビジョンがない。住宅総量コントロールを、自治体も国も行っていない状況…先進国で日本だけです」
番組の終わりに
経済ジャーナリスト萩原さん
- マンションは運命共同体
自分一人ができることは少ない。これからは、マンションの皆で助けあっていかなくてはならない、ということを再認識すべき。__老朽化をどう防ぐかを。
マンション管理士、当校コラムニスト深山氏
- ビジョンとチームワークでヴィンテージを目指せ!!
住んでいるマンションの資産価値を上げたいのであれば、マンション住人が仲間となって、『こういったビジョンをもって逆算してやっていこうよ』という、チームワークと継続性が必要。継続することによって、年数が経っても古いマンションではなく、シブいヴィンテージのようなマンションにしていくんだ、という発想が大事である。
不動産コンサルタント長嶋氏
- 管理力で資産格差
修繕積立金が一方は潤沢、一方はマイナスのマンションがあった場合、持続可能性、将来の資産価値が同じはずがない。ここを評価する仕組みを、国、あるいは金融評価としてどういうふうにもっていくかが今後の課題。
NHK社会部藤島記者
老朽化したマンションをどう長生きさせるのか、どう最終的に終わりをつけていくのかという問題に目を背けていては将来に大きなツケを押し付ける。性能のいい新たなマンションができることは歓迎すべきこと。だが、同時に、『こうした課題について皆が考えていく時期』になっている。