【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】どうなる?廃墟マンション(その1)

今後、多くのマンションが廃墟になる大きな理由は、マンションの老朽化と住民の高齢化が同時進行で起こるからです。

マンションは古くなるほど維持費が高額になりますが、住民の多くが高齢者の場合は修繕積立金の値上げや特別徴収が難しくなります。

平成30年のマンション総合調査を見ると、世帯主の年齢も急速に上がっているのがわかります。平成11年度の時点で、60歳代と70歳以上の世帯主は25.7%でした。しかし平成30年の調査では49.2%になっています。今や世帯主の約半数が60歳以上ということになるのです。

さらには、そもそも修繕積立金が足りないマンションが多いという問題もあります。修繕積立金の設定が安すぎるため必要な額が集まらないというのもありますし、管理会社に言われるがまま修繕を行っているため、余計な支出が増えているというのもあります。

集めるお金が少なく、余計な支出が多く、多くのお金が必要な時期には住民のほとんどが高齢者で修繕積立金の値上げもできない状態になってしまうのです。

 

 

廃墟化したマンションが、社会問題化するのは確実と思われていました。

2020年に滋賀県野洲市にあるマンション、美和コーポB棟が行政代執行にうより解体されました。以前から廃墟マンションとして有名で、所有者に対して解体するか修繕するように行政から指導が入っていました。しかしいつまで経っても改善されず、2018年の台風24号の直撃で外壁が落下するなど事態が悪化し、行政代執行による取り壊しが行われました。

野洲市は1世帯あたり約1300万円の支払いを求めていて、一部の住民は支払っていますが全員が支払う目処が立っていません。そのため野洲市議会でも大きな問題になっているようです。さらに隣にある美和コーポのA棟も同じく廃墟化しているようで、こちらもどうするかが問題になっています。廃墟化したマンションを行政が解体し、その費用を区分所有者が負担しなくてよくなれば、深刻なモラルハザードが起こる可能性もあります。

上記の美和コーポの場合、雨漏れが酷くなって住めなくなったため、2010年頃から次々と住民が引っ越していったそうです。1972年の竣工なので、40年も経たないで廃墟化になったことになります。雨漏れが酷いなら修理をすれば良いのですが、修繕積立金が足りなかったとか、そもそも積み立てていなかったという噂もあります。とにかくお金がないから修繕ができなかったのです。積み立てが不足し、高齢者ばかりなので一時金の徴収もできなかったのでしょう。

このような状態ですから、解体費を払えと言っても払えるはずがありません。さらに当時の区分所有者は亡くなっている人も多く、現在の区分所有者は自分が所有していることすら自覚がなかったようです。突然、自分が購入した覚えのないマンションの解体費を払えと言われたら困惑するのは当然で、さらに1300万円ものお金をいきなり払える人は少数でしょう。

お金がないからマンションは廃墟になるのであり、廃墟になったから解体費を払えと言っても払えるはずがないのです。では、なぜ現在の区分所有者達は、自分が美和コーポB棟を所有していると知らなかったのでしょうか。そのほとんどは相続によって所有していたからです。

親が住んでいたマンションが廃墟になっている場合、相続放棄をすることは可能です。ただし相続放棄をすれば、他の財産も相続ができなくなるので注意が必要です。

しかも相続の開始から3ヶ月以内に、手続きを行わなくてはなりません。そのため親が亡くなってから何年も経って、管理費と修繕積立金の督促が届いて自分がマンションの所有者になっていることを知ったというケースもあり得るのです。

では、相続放棄をしてしまえば、全て解決するかというと、そんなことはありません。民法第940条には、以下のことが書かれています。

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」

つまり、相続財産管理人(相続人がいなくなった財産の精算を行い、その財産を国庫に納める人)が管理を開始するまでは、空き家の管理義務が残ると考えられるのです。そのため、管理費や修繕積立金の支払いが必要になります。

相続放棄したのに管理費を払うのは理不尽な気もしますが、法律がそうなっているので仕方ありません。また、その空き家を巡ってトラブルが起こった際などは、その責任を負うことになる可能性があります。相続放棄をしたマンションの外壁が崩れそうだと言われたら、その修理費用を払わなくてはならないかもしれないのです。

このように、何事もなく相続放棄したマンションが国庫に帰属すれば良いのですが、その間にトラブルが起これば責任を負わなくてはならない場合が出てきます。

(その2)へつづく。

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