【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その119】総会で理事長が議案に反対したらどうなる?

総会で理事長が議案に反対できるかどうかについては、下記の弁護士の回答をご参考になさってください。
https://www.wendy-net.com/faq/qa_kanri/03/03_12.html#q5

標準管理規約には、理事会の決議を誠実に遂行する義務を規定しており、これに準拠した規約の下では、総会で反対票を投じることはできないと考えるべきとの見解です。

ありえない事ですが、実際にこのような事態となった管理組合を承知しています。

誠に不合理極まりないことですが、総会の議長を理事長が務め、議案に反対する自説を主張し、これに同調する反対意見を持つ組合員を中心に指名して発言を許し、あまたの議長委任の議決権を自身の議決権と併せて全て議案に反対として行使したとしても、議長が裁決を行い、議事録が作成されてしまえば、この総会決議を直ちに無効とする事はできないと思います。

理事会として総会の議案を審議し、総会を招集した理事長が、自ら議案に反対することは重大な信義則違反です。

議長に委任した組合員も、議案を上程した理事長自らが反対することは、想定外の事態です。本来であれば、理事長が議長を務め、自らの議決権を反対に投じたいなら、理事を辞任し、一般の組合員として総会に臨むべきでしょう。

困った事態ですが、国会でも造反議員の投じた議決を無効とすることが出来ないように、信義則に反する行為と、議決の有効性は別物と言わざるを得ません。

考えられる対応策は以下の通りです。

①理事会として上程した議案を理事長=議長が反対する事態は、常軌を逸しており、理事長に議長の資格を到底認めることが出来ない。

規約に規定する「理事長に事故あるとき」として、副理事長が理事長の職務を行うべき緊急事態であると宣言して、議長を副理事長に交代する。(この場合、委任状の受任者が理事長の個人名であれば理事長がこの委任者の議決権も行使することとなります。委任状に理事長又は議長といった役名であれば、副理事長が理事長を代行して議長を務めるため、副理事長が議決権を行使できると思います。)

②理事長が決議を強行し、理事長への委任も併せて反対に投じた場合でも、議事録署名人と議長が議決権の取り扱いを如何にすべきか協議する。

可能性のある選択肢は以下の通りです。

  1. 議長の議案に反対の議決権行使を認める。(議場で直ちに理事長を解任すべき措置を執らなかった理事会、議長を直ちに解任すべき措置を執らなかった総会出席者に不作為があるとの理由から)議長への委任状も議案に反対の議決権を行使したと認める。
  2. 議長の議案に反対の議決権行使を認める。議長への委任状は、議長が議案に賛成の意思表示を行う前提として提出されたと判断し、委任者の意思を尊重し副理事長が復代理人として賛成票を投じたとする。
  3. 議長の議案に反対の議決権行使を認める。議長への委任状は無効(棄権)とする。(委任者は理事長が賛成に議決権を行使することを信託して委任したと推定できる。委任者の信託を裏切りこれらの議決権まで議長が行使することは認められない。)
  4. 議長を務める理事長に規約に規定する信義則違反又は団体法理の原則に背く行為があったため、議長の議決権行使は無効(棄権)とする。議長への委任状は、議長の議決権行使が無効(棄権)となることに準じた扱いとして、同様に無効(棄権)とする。
  5. 議長の議決権行使は無効(棄権)とする。委任状は議案に賛成の意思表示を議長が行う前提として提出されたと判断し、委任者の意思を尊重し副理事長が復代理人として賛成票を投じたとする。

 

 

いずれの判断を議事録において選択しても、一義的に有効だと思います。民間の当事者が合意したことは、利害関係者から訴えを提起され裁判で覆らない限り有効です。議長と議事録署名人の合意が得られないならば、事態の経緯を議事録に記載し、記録にとどめておくべきと思います。

私の意見は、議長の議決権の扱は議事録署名人との協議の結果に委ねるとして、「議長が議案に賛成すると信託して委任した委任者の議決権は、副理事長が復代理人として議案に賛成票を投じたとし、経緯を議事録に明記する。」です。

望まれる処理としては、委任者に個別にヒアリングを行い、上記の認識のもとに委任したという確認を行うことが出来れば尚良いと思います。

理事長の考えの変節を含め、あらゆる事態を想定した上で理事長の臨機応変な判断に一任する趣旨で委任した組合員がいたとすれば、委任者の意志はあくまで尊重されるべきです。

上記の事例とは異なりますが、議案審議の中で、理事会の議案審議の段階で予想もしていなかった事実や重要な指摘がなされ、それらを考慮すれば議案を承認すべきでないと、出席者の大多数が認識する事態となった場合はどうでしょう。

あまたの議決権行使書は既に賛成と意思表示されています。議長への委任状も多数です。信義則に基づけば議長は委任状も含めて賛成の意思表示をしなくてはならないのでしょうか。

いえいえ、この場合は、議長の権限で、議案の採決を留保し、再度理事会にて審議することが穏当と思います。

既に総会が終了し、議事録の作成も完了している場合は、理事長の誠実義務違反を理由に、監事による総会の招集、理事長を理事会で解任した上で新理事長による総会の招集、組合員又は議決権の5分の1以上の多数による総会の招集により、総会で同一の議案につき再審議を行い、治癒を行うこととなります。

今後のことを考えると管理規約を改定し、再発を防止することが肝要です。

最後に、団体法理の原則について触れます。法律、管理規約に明記されていなくても、民主主的な運営する団体が執るべき行動規範をこう呼ぶと以前ある弁護士にお聞きした事があります。

例えば多くの議決権を持つ組合員が、総会において、自ら犯す規約違反行為の禁止や滞納金への遅延損害金の課金に関する総会議案に反対したことで、これらの議案が否決されたとします。

このような場合、特別利害関係者である当該組合員の議決権の行使を無効とする判断は認められるべきではないでしょうか。このような民主主義のルールに照らして是認されるべきことは正しいとするのが団体法理の原則だそうです。

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