【ゼネコン、デベロッパー経由、マンションのかかりつけ医 井上毅 渾身のコラム】どうなる?廃墟マンション(その2)

廃墟と化したマンション。
公営のマンションなら行政が介入するでしょう。

しかし、分譲マンションは私的な財産なので、行政が何かをしてくれることは期待できません。修繕も解体も、持ち主達が自分達の費用で行わなければならないのです。戸建で考えると、自分の家の修繕費や解体費を持ち主が負担するのは当然だと考える人がほとんどでしょう。マンションだからといって、行政が助けてくれることはないのです。

しかし、住民が解体費を捻出できず、崩れかけているマンションが存在するのは地域の人を危険に晒されることになります。そこで行政が公費で解体して更地にし、その土地を売却して解体費を回収すれば良いと考える人もいます。もちろん回収できるなら、この手法が用いられる可能性はあります。しかし現実的には難しいのです。

そもそもマンションの解体費は高額になります。それに加えて、近年では産業廃棄物の処理費用も高騰しています。また古いマンションでは、アスベストが使われていることもあります。コストが上がる要因の方が多く、大抵の場合は高額になりがちです。そのため土地を売却しても解体費に全く足りないことが多いのです。

そもそもそれほど高額で土地が売れるなら、廃墟になろうが転売が可能で、売れないから放置されて廃墟になっているのです。

築50年を超えたマンションでも、都心の一等地に建っているマンションはヴィンテージマンションとして高額で取引されています。問題になるマンションの多くが、売却価値がなくて所有者もお金がないマンションですから、更地にして売却しても解体費が捻出できないのは当然なのです。

マンションが廃墟になると、ある程度のお金がある人は他に移り住むでしょう。先に挙げた滋賀の廃墟マンションのように、雨漏りが止まらない状態では住むに住めません。そして身寄りのある人は、その人を頼って出ていくでしょう。こうして滋賀のマンションは無人の廃墟になりました。しかし、規模が大きなマンションでは、廃墟になっても出るに出られずに住み続ける人もいると思われます。

住人が出ていこうが住み続けようが、区分所有者が亡くなれば相続されます。子供がいれば子供に、子供がいなければ兄弟に相続されます。

相続された側は売ることもできない廃墟を持て余すことになり、管理費や修繕積立金の支払い義務だけが残ります。そして解体費用を出せと迫られることになるのです。

自分が住んでいるマンションを廃墟にすることは、自分の死後にも血縁者に迷惑をかけることになります。

 

 

では、修繕費もなく解体費用もないまま廃墟になったマンションはどうなるのでしょうか。

__それは、そのまま放置されることになります。

放置されると風化が早まり、さらに建物の劣化が進みます。やがて外壁の一部が剥落したり、建物全体の倒壊の危険が出てくるでしょう。

外壁の剥落や倒壊により怪我人や死人が出た場合、その責任はマンションの所有者が負います。2020年2月に神奈川県逗子市のマンションで敷地の崩落が発生し、通学中の女子高校生が巻き込まれて死亡する事件が発生しました。

この事件で遺族は住民と管理会社の代表を訴えています。これは廃墟マンションの例ではありませんが、マンションの所有者が適正な管理をしておかなければ、とんでもない災害を招くと同時に、刑事責任を問われて高額の賠償金を負担する可能性があることを示す典型的な例です。

マンションを廃墟から守るのは、マンションの所有者にしかできません。

「管理会社に任せてあるから大丈夫」と言う人が多くいますが、管理会社の目的はマンションの資産性を守ることではなく自社の利益確保です。

管理会社を有効に使うのは、マンション管理にとって重要なポイントですが、管理会社に言われるがままにやっていては取り返しのつかない事態に陥ることもあります。こうした事態になる前に、まずは自分たちのマンションをどう管理していくかを考えなくてはなりません。

これからの時代は理事会の役員になるのを辞退したり、総会に欠席したりするのではなく、積極的に参加する住民が多いマンションが優位になっていきます。

自分の資産を他人任せにするのではなく、自分の資産は自分で守るという意思がなければ何も始まらないからです。とは言っても理事会の皆さんは不動産や建築に詳しいわけでもないので、私たちのような専門家がマンションの相談に乗っているのです。

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