【デベロッパー・管理会社経由、北関東のマンション管理士 白寄和彦のコラム】特別の影響に怯むな!その2

(前回:高圧一括受電に向けた理事会と専門委員会、特別決議で管理規約の改正も整う。しかしながら住人2人の同意が得られず導入は断念か…)

一括受電導入のために管理組合の先頭に立って奔走してきた専門委員会のメンバーが、この区分所有者二人のために安く電力供給を受ける利益を侵害されたとして、導入予定日から訴訟提起時点までの5か月分の電気料金との差額9.100円の支払いを求めて札幌地裁に提訴したのです。

そして、昨年5月札幌地裁は原告の訴えを容認し、その後の控訴審でも被告の訴えは棄却され請求額の支払いを命じられたのでした。原告=専門委員会メンバーの完勝でした。

札幌地裁の判決要旨はこうです。

①  共用部分の変更及び管理に関して集会決議で決めた以上、たとえ反対であっても区分所有者は決議に従うのが当然である。

② 区分所有者が同意書を提出しなかったために高圧一括受電を導入できず低廉な電気料金の利益を享受できなかったのだから、居住者の利益を侵害したものとして不法行為が成立する。区分所有者は原告に対して不法行為に基づく損害賠償をすべきである。

特別の影響については、

③ 停電による不便、不利益は被告に限って生じる事態ではない。全区分所有者に及ぶ問題なのだから特別の影響には当たらず、被告の承諾は必要ない。

 

 

私は、これをマンション(区分建物)で生活する区分所有者が果たすべき責任を改めて気付かせるような、かつ、誰もが納得できる明確で胸のすくような一刀両断の判決だと思いました。

区分建物で生活する以上、多数決による総会決議を尊重し従え!

居住者が利益を逸した責任は、決議に従わず同意書を提出しなかった被告にある!

被告に特別の影響は及ばない!

実は、札幌のような高圧一括受電導入に因る裁判が全国で頻発しているのです。

横浜地裁の訴訟でも、一人の区分所有者が札幌と同じく「特別の影響」を盾に同意書の提出を拒否しましたが、裁判所は区分所有者の行為を区分所有法第6条に規定する「共同利益背反行為」に該当すると大方の予想を超える厳しい判決を下しました。

共同の利益に反する行為とは、①建物を不当に毀損する行為②建物に危険物を運び込むような建物を不当に使用する行為③平穏な住環境を破壊するニューサンスなど、財産的側面と共同生活に関する側面から見て、区分所有者の利益を侵害する行為をいいます。

判決は、マンションの居住者全員が安価な電気料金を受けるチャンスを逸したことによる財産侵害と判断したのでしょう。

このような妨害行為というか、違反行為に対して、管理組合又は各区分所有者はその違反行為を差し止め、損害賠償を請求することができます。また、管理組合は総会決議を経て専有部分の競売請求、いわゆる区分所有者をマンションから追放することも可能になるのです。

区分所有者は以前から組合活動に対して継続的に非協力的で過去に度々トラブルを起こしていた経緯もあって、管理組合はこの区分所有者に対して損害賠償と併せて専有部分の競売請求も求めました。判決は「特別の影響」をむろん認めず、同意書の提出拒否を共同利益背反行為及び不法行為と認定し、管理組合が得られたであろう電気料金の減額相当分150万円の支払いを命じました。競売請求までは及びませんでしたが。

そもそも特別の影響の「特別」とはマンションの生活の中でどの程度のことを指すのか曖昧で判断が難しく、また感覚的で個人差もあることから意見が分かれ、戸惑うばかりです。こちらに何の準備もなく、相手方に声高にこれを主張されてしまうとすぐに反論できず、最初の分の悪さを後々まで引きずってしまうことが多々あります。

共通の認識として、特別の影響とは「マンションの共用部分や敷地の変更の必要性、有用性と区分所有者が受ける不利益とを比較衡量して、受忍すべき範囲を超える程度の不利益をいう」とされ、その程度に至らない軽微な影響に過ぎないときは、承諾を得る必要がないとされているはずです。

要は、マンション居住者の幸福度が増すことは確実で、今こそ解決しなければならない喫緊の課題で、かつ、法にも規約にも沿った大多数の人が納得できる計画と、それにより我慢を強いられる人の程度を秤にかけてどちらが重いのかということでしょう。

自説を譲らず、最後は役員が平身低頭し情理をもってお願いしても、頑なに話を聞き入れてくれない区分所有者はどのマンションにも少なからずいます。又は、決して意地悪ではなく、暴走気味の若い役員が自分たちの任期中に改革を実現したいと急いでいる姿を見て不安に思い、彼らに慎重を促すことが真意であるのに誤解されてしまう年配者もマンションには住んでいます。

役員の方々は、「仮に総会で議案が可決されたところで、我ら特別の影響を受ける区分所有者の承諾がなければ決議は無効ですよ」などと気を吐く区分所有者に対しては、専門家や役員の英知を集めた苦労の末の自分たちの改善計画にもっと自信と誇りを持って、怯まず、正々堂々と勝負してもらいたものです。

何なら、一連の高圧一括受電導入に係る判例を持ち出して、「理事会は決議の通り議案を執行させて頂きます。あくまでも特別の影響を主張されるのでしたら訴訟を提起してください。裁判所の審判を仰いで決着を付けましょう。」くらい言ってもいいのではないでしょうか。

積水ハウス株式会社 宇都宮支店長・水戸支店長・札幌支店長を経て、関西第二営業本部長。その後、積和不動産株式会社に移籍し、分譲マンションの管理事業とめぐりあう。東京・神奈川に展開する「グランドメゾン」シリーズを手がける。積和不動産株式会社役員・顧問を経て、2017年に事務所を開業する。栃木県小山市出身/家族は妻と二女

2 thoughts to “【デベロッパー・管理会社経由、北関東のマンション管理士 白寄和彦のコラム】特別の影響に怯むな!その2”

  1. 最高裁で判決が覆ってますよね。
    マンション電力契約変更、544分の2の「抵抗」は適法  :日本経済新聞
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42235220Y9A300C1CC0000/
    —————
    組合元理事が2人を相手に「方式を変更していれば電気代が割安になった」として差額分の約9100円の損害賠償を求めて提訴。一、二審判決は賠償を命じたが、最高裁は5日、「管理組合の決議の効力は専有部分には及ばない。既存契約を解約する義務はない」とし、請求を退ける逆転判決を言い渡した。

  2.  失礼を承知で申し上げますが、掲示板に掲載された意見等を見ると、ボタンの掛け違いが原因です。 何か新しいことをするためには、みんなの歩み寄りが必要です。
     全員同意が問題で、全員同意を得るには、経験上、情報公開と、意見聴取が欠かせません。
     一部の甘い蜜を見せ、苦い蜜は隠してしまう、又は教えないなど、マンション管理運営ではしてはいけないことです。
     一般社会や会社でも、情報の隠蔽、データのねつ造が絶えません。
     このようなことを許すと、社会も崩壊しますし、マンションも管理不全に陥ります。
     民主主義は単純多数決ではありません。
     少数意見の尊重、異論の検討、他の方法の検討等を重ね、全員同意を目指すべきです。

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