【デベロッパー・管理会社経由、北関東のマンション管理士 白寄和彦のコラム】マンションでパワハラ その1

__そのマンションの最上階に住むご婦人Aが管理事務室を訪れたのは、午後1時を過ぎた頃でした。

この中央区T町の億ションでは3人の管理員(男性2人・女性1人)さんがローテーションを組んで重層的に業務に当たっています。この日の時間帯の担当はM管理員です。

Mさんに、Aさんが気づかない程度の緊張が走ります。

このご婦人が少々苦手です。

また、ご婦人の夫は同マンションのデベッロッパーである大手ハウスメーカーの社長(当時)ということで、M管理員はグループ子会社である管理会社の重役からマンツーマンで熱い個別指導と警戒要請を受けていました。

重役が指導と要請を行った真意は、社長夫妻が自社の販売したマンションに居住するという微妙な立場を気にしているというよりも、ご夫婦の言動によっていつ起きるかもしれない「騒動」への警戒心・恐怖心そのものであったようです。

なぜなら、ご夫婦共におっとり穏やかで人に寛容というタイプではなく、思ったことをすぐに口にしないと気が済まない性格でTPO(時間・場所・場合)に欠けることがグループ各社でも評判で、実際重役も過去にご主人(社長)との間で苦い経験があるからです。

ご婦人の用件は、リビングの椅子を処分しようと思うのだが、古いわりに椅子にはほとんど傷が無く、廃棄するのはもったいなくて忍びない。座り心地がとても良いので、管理事務室で使って頂いたらと思うので夕方取りに来てもらいたいというもので、ご婦人は満面の笑みを浮かべておっしゃるのでした。

M管理員は、はたと困惑してしまいました。

親しくなった居住者から帰省土産等を頂くことはありますが、家具の差仕入れなど経験がありません。また、管理事務室が管理組合の財産で共用部分であるのと同様に、管理事務室内の備品もまとめて共用部分であるのです。

管理組合は、委託している管理会社に管理業務を行わせるために必要な管理事務室、倉庫、器具、備品などを無償で貸し出していることになります。

いかに受付業務の利便性に資するとしても、このような性質の管理事務室内に管理組合の承認もなしに私物(椅子)が設置されるようなことはあり得ません。
それに、ただでさえ狭い管理事務室で人の動線をなるべく確保しようとしたら少しでも備品群は減らしたいのが本音です。

M管理員は、謝意を表しつつも勇気をもって、上記の原則や事情をご婦人のプライドを損なわないように丁寧に説明して申し出をお断りしました。
それに対してご婦人は話に納得し、快く申し出を引き取ってくれて、その場は何事もなかったかのような雰囲気でした。

M管理員は胸をなでおろしつつ、マニュアル通り早速担当のフロント社員を捕まえ、ご婦人とのやり取りを詳細に報告したのは言うまでもありません。
フロント社員からは、咄嗟の冷静な対応が求められるシチュエーションにも拘わらず「全く瑕疵のない」内容であったと褒められたそうです。

しかし、管理会社の重役がご婦人宅へとりあえずお詫びに駆け付け、M管理員への事情聴取が始まったのは翌日の午後からでした。

ご婦人が放ったクレームがご主人(社長)を通して瞬く間にマンションの販売部署の長や管理会社の社長を襲ったからです。

(その2へつづく)

※画像協力https://www.photo-ac.com/

One thought to “【デベロッパー・管理会社経由、北関東のマンション管理士 白寄和彦のコラム】マンションでパワハラ その1”

  1.  マンションに、社会的地位を持ち込むことは良くあります。
     専門的知識者ならなおさらです。
     過去の不正も、公認会計士の理事長が、億を超える横領を働いた件がありました。

     マンションは社会と違い「水平の関係」で、権力をもとにした「縦の関係」ではありません。
     しかし、法体系を始め、管理規約までも縦の関係ですから、厄介です。
     接点は、X軸とY軸が交わる、1点しかありません。
     それをどのようにして横の関係に変換していくのが、マンション管理士の役割です。

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