授業のポイント
- 長期修繕計画は、長期修繕「積立金」計画
- 修繕積立金の値上げは容易ではない
- 12年に1度の大規模修繕工事は、必ず、ではない
授業を受け持つ赤橋まおこです。
マンションを購入すると「管理費」「修繕積立金」を管理組合に納めなければなりません。このうち修繕積立金は、将来において劣化する建物や設備の改修や更新を想定して貯蓄するもので、マンションを長く適切に維持するためのお大切な資源といえます。
では、修繕積立金は一体いくら貯めればいいのでしょうか?
その答えは、「長期修繕計画」にあります。
長期修繕計画とは、向こう30年が一般的ですが、何年目に建物や設備のどの部分を改修し、おおよそいくらの支出になるのかを検討し、個々の所有者が月々いくら修繕積立金を納めれば足りるかを把握するための計画です。長期修繕計画というと、「修繕工事をどう正確に計画するか」と勘違いされますが、大切なことは、「長期的にみて概ね修繕積立金が足りるか」をつかむことであり、長期修繕『積立金』計画と覚えるといいでしょう。
近年、修繕積立金不足に陥るマンションの増加が問題視され、そのようなマンションは全体の3割以上にものぼる、という記事も新聞に掲載されました。
修繕積立金には、新規販売時に購入者から徴収する「一時金」と、毎月納入する「積立金」の2種類があります。一時金は数十万円程度と高額に、月額は数千円程度と低めに設定されるシステムが今でも多くのマンションで採用されています。これは、マンション本体価格に比べたら低額となる一時金と、負担の軽い積立金を組み合わせることで、住宅ローン以外にかかる固定費を安くして物件を売りやすくしたものです。
このため、長期修繕積立と実際のキャッシュフローにギャップが生まれ、修繕積立金から大規模修繕工事の予算が捻出できなくなるマンションが続出しています。そもそも積立金を引き上げる前提でのプランになっている、と言えるでしょう。
修繕積立金を途中で引き上げるといっても、その都度所有者の合意形成が必要となります。定年を迎えて収入が少なくなっている世帯や、そもそも投資目的で購入していた人は、固定費が高いと売りづらくなる等の理由から値上げが難しくなりますので、そのハードルはとても高いのが現実と言えそうです。
街を歩くとマンションの周囲に金属の骨組みを這わせて、黒っぽいシートで目隠しをしている光景を見かけると思います。これは、大規模修繕工事を施工しているという証明です。長期修繕計画には、修繕積立金の算出ベースとなる、「建物や設備の改修・更新工事の想定時期や想定金額」が網羅されていますが、この中で最も高い支出となるのがこの外装工事です。
国土交通省の例示するガイドラインには「概ね12年に1回程度」の大規模修繕工事を推奨しており、デベロッパーや管理会社が提案する長期修繕計画も、このガイドラインにしたがって、12年ごとに1回、数千万から規模によっては数億円の工事費を計画しています。ただし、すべての設備が12年サイクルで大丈夫ということではなく、エレベーターや機械式駐車場、給排水管などの諸設備も、一定年ごとに改修時期と工事費を定める必要があります。
大規模修繕工事は、業者からリベートを得ている管理会社や設計コンサルタントにとって「おいしい存在」なので、12年単位の実施を推奨してくると思いますが、建物の設備の劣化速度はマンションによって誤差がありますし、工事の方法や材料の選定によってはローコストや長寿命化が可能となるため、しっかりと見定めたいところです。
大規模修繕工事の前に第三者的立場にある会社に建物診断の依頼をしたり、発注の際に複数の施工会社から見積もりをとって比較するなど、長期修繕計画に盛り込まれている工事の内容をアップデートし、修繕積立金の必要額を定期的にチェックすることが重要です。
今やマンションの寿命は100年以上と言われています。ただし、実際にマンションを100年もたせるには、建物の設備を定期的にメンテナンスし続けなければなりません。管理組合の継続的な取組みの先にしかゴールは見えないのです。