マンションで、十数年おきに外壁や屋上の修繕工事を行う大規模修繕工事。一般的な管理組合の場合は、たいてい管理会社から、「そろそろ大規模修繕工事について計画を進めましょう」、と提案があり、そのまま「計画」~「施工業者選定」~「工事実施」へとほぼ自動的に進んでいきます。いわゆる管理会社主導というやつです。
多くの管理組合の方々は、この進め方をはじめのうちは疑うことはありません。普通は「管理会社主導で進めるんだろうなあ」と疑うこともせず進めていきます。しかし、管理会社はビジネスとして大規模修繕工事を考えています。管理会社にお任せ状態の管理組合は、大規模修繕工事で利益を得たいと考えている管理会社にとって都合がよいことはわかりますね。業界関係者によると、分譲マンションの年間工事のうち、約6割が管理会社主導で進めていると言われます。
一方で、上記の進め方に違和感を感じ、管理会社に関係なく、外部の設計監理会社(一級建築士事務所や設計団体)に相談したりして、管理会社以外の専門家と大規模修繕工事を進める管理組合の工事が約4割あるのです。管理組合の皆さんは、どう思いますか?
以下には、管理会社ではなく、優良な一級建築士事務所や施工業者と取り組む大規模修繕の方法やメリット・デメリットについて記載しています。
設計監理方式
施工業者ではなく、第三者である設計監理会社(一級建築士事務所、管理会社含む)に、(1)調査診断、(2)修繕設計、(3)施工業者選定サポート、(4)資金計画、(5)工事現場監理など、を委託する方式です。
メリット
(1)管理組合の負担軽減と安心感
設計と施工を分離して、設計監理会社に、調査診断、修繕設計、施工業者選定サポート、資金計画、工事現場監理などを依頼することで、管理組合側に立った専門家が味方となるため、管理組合の専門知識がなくても比較的進めやすく、また管理組合の労力などの負担軽減となります。設計監理会社に対し、管理組合の意向も取り入れてもらいながら進めることができます。
(2)無駄な工事内容を削りコスト削減に
設計監理方式は責任施工方式と比べ、設計監理料が余計にかかりコストUPではないか、という意見があります。設計監理方式と責任施工方式では、トータルコストは変わらない、または設計監理方式のほうが低くなるというのが、私の考えです。(但し、あくまでも設計監理会社が適正な設計監理業務を行った場合の話しですが・・・)
設計監理会社による調査診断により、今回やるべき工事と、数年先又は次回の大規模修繕工事に先送りできる工事を区分けできます。(無駄な工事内容を削る)また、工事の仕様や材料についても、比較的低廉な価格で一定品質のものを選定してもらえます。施工業者の選定についても、設計監理会社が公平に各社を比較審査したり、見積り内容を細かく精査し、施工業者と交渉してくれるため、工事価格はある程度抑えることが可能です。それらにより削減された費用から設計監理料(工事価格の5~10%)を負担することはできると思っています。
(3)一定の工事品質を確保することができる
設計監理会社は、第三者的一級建築士として、工事計画~工事現場の監理業務も担うため、施工業者が行う施工状況を厳しくチェックし、是正指摘し、最終確認を行います。これにより、一定の工事品質を確保することができます。安心ですね!
デメリット
(1)設計監理会社選びの難しさ
昨今の不適切コンサル問題により、管理組合を最優先に考えてくれる、誠実かつレベルの高い設計監理会社を選ぶことが難しいです。しかし、業界の多くの設計監理会社は真面目に仕事をする専門家たちです。一部の不適切コンサルにより、悪いイメージが先行してしまっています。
(2)バックマージン問題
前項に続き、不適切コンサル(一級建築士事務所、管理会社など)に業務を発注してしまった場合は、管理組合の大切なお金から、バックマージン分のお金がかすみ取られてしまい、損失が発生してしまいます。
責任施工方式
管理組合が、施工業者(管理会社含む)に【(1)調査診断、(2)修繕設計、(3)施工業者選定サポート、(4)資金計画、(5)実際の工事、(6)工事現場監理など】全てを一任する方式です。この場合の施工業者は、一級建築士を有し、設計や施工、監理部門などを持つ専門業者、管理会社等となります。管理組合は信頼のおける数社や、競争入札で選定した数社の施工業者に、調査診断や修繕計画、工事見積りの提出を求め、一社を選定します。
メリット
(1)一気通貫で効率的に進められる
計画の早い段階から施工業者が参加する場合は、設計監理会社が行う業務も全て施工業者が担うため、ワンストップで進めることができ、効率性が高いです。(但し、あくまでも管理組合目線で、誠実かつレベルが高い施工業者の場合ですが・・・)
(2)コストメリットの可能性
前項同様に信頼できる施工業者に限っては、計画段階から設計監理会社と同じ考えで、今回やるべき工事に絞り、かつ低コストで質の高い仕様、材料を検討しながら進めることで、コストや品質を意識した工事計画~実施とすることができます。
(3)責任は施工業者
万が一、トラブル(事故や瑕疵等)が発生した場合、全て施工業者の責任とシンプルに整理することができ、早期に適正な対応を求めることができます。しかし、設計監理方式の場合は、設計監理会社と施工業者の責任区分けが難しくなる可能性があります。
デメリット
(1)施工業者選びが大変
上記メリットのためには、いかに優良な施工業者を選ぶことができるかがカギを握っています。当然、管理組合の負担は増大します。工事中に倒産したらどうしよう、万が一、住民にケガを負わせるような事故を起こしたらどうしよう、工事完了後に瑕疵・欠陥が発生したらどうしよう・・・、管理組合の一番大変な作業かもしれません。
(2)施工業者の参加タイミング
早い段階から施工業者を参加させるには、選定も早めなければならず、競争入札を行うには、条件設定や選定作業の難しさがあり、管理組合の負担が大きいです。かといって、ほぼ計画が決まり、工事をするだけの段階で施工業者選定をするのであれば、様々なメリットは無くなってしまいます。
(3)施工業者の質・工事金額・品質の問題
施工業者の選定を誤ってしまうと、全てが取り返しのつかないことになってしまう可能性があります。さらに、責任施工方式は、管理組合と施工業者で進めるため、どうしても専門知識が豊富な施工業者が優位に進めていくため、割高な工事金額になりがちです。また、工事品質を管理組合がチェックするため、適正なチェックは難しく、工事品質低下の可能性もあります。(一般的には、上記メリットとなる優良な施工業者を探しすことは非常に難しいです。)
大規模修繕工事には、二つの代表的な進め方があり、それぞれにメリット・デメリットもあります。管理組合の皆さんはどちらを選択すればよいか、混乱してしまうでしょう。「二つの進め方」を言い換えると、「設計監理会社に依頼する進め方」と「施工業者に依頼する進め方」となります。そしてポイントは、設計監理会社にしても施工業者にしても「管理組合目線で、誠実かつレベルが高い優良な会社か否か」です。
私は、「設計監理方式」をお薦めしたいと思います!
優良な設計監理会社を見つけ、大規模修繕工事を計画から進めるのと、優良な施工業者を見つけ進めるのを比べます。設計監理会社には、不適切コンサルのリスクはありますが、修繕業界には誠実な設計監理会社のほうが多くいます。ですから、誠実な設計監理会社を探し、設計監理方式で進めましょう。
また、「バックマージン対策として、施工業者選定は管理組合だけで進める」というやり方もできると思います。設計監理会社が施工業者選定に影響力を持たなければ、施工業者は設計監理会社に見返りとしてバックマージンを払うことはありません。
簡単なことではありませんが、管理組合の大切なお金を守るためにも、できることは何でもやって、管理組合ファーストの大規模修繕工事を実現しましょう!