シャンシャン総会を想定していたにもかかわらず、区分所有者から動議が提出され、困惑する議長(理事長)はひな壇横に居並ぶ役員や管理会社の社員に「どうしようか」とアイコンタクトを試みますが、彼らも一緒に戸惑っているばかり。もちろん、動議提出が総会の審議の混乱や遅延を目的にしていることが明白な場合は、議長の広範な権限の下に対処できることは議長も知っています。しかし、提出された動議は議案の修正動議で、かつ内容は建設的で説得力のあるものであり、出席者から賛同が得られるかもしれないが、やはり原案議案の方が優れていると判断した場合、議長は動議をどのように取り扱えば良いのでしょうか。
会場は2時間しか抑えておらず、かつ採決を要する他の議案は未だ残っていて、議長は制限された時間とも戦うハメとなる。理事会メンバーにも徐々に緊迫感が増してくる。皆さんもこのような冷や汗ものの経験がおありかと推察いたします。
都下にはマンション管理のプロと呼ばれるコンサルタントが数多おられますが、彼らがこのようなシチュエーションで鮮やかなマネージメント能力を発揮し、出席者が「なるほど!」と納得できるような方向へ総会を導く場面に私は未だ遭遇したことがありません。
これは皮肉ではありません。
私が出席した株主総会もマンションの総会もシャンシャン総会と呼ぶものが多く、私も任務を果たす自信も実力もありませんから。
前回分にも書きましたが、マンションの新時代突入を実感できるほど、新しい形のトラブルが多く発生しています。それに伴い、安住のシャンシャン総会は減退し、一筋縄ではいかない総会を運営せざるを得ないのではないかという予想は、皆さんと共通でしょう。
マンション管理のプロでもあまり得意としていない「総会当日の運営」を勉強というか、改めて確認してみようというのが、今回のコラムの主題です。
コラム上の講師は私が在籍していた会社のH顧問弁護士です。
相談に対して「簡潔・わかりやすさ」を常に心掛けているのがわかる回答、豊富な知識・経験に裏打ちされた言葉の重みやハギレの良さ、アドバイスの中身は常に超リアル等々、私は面談のたびに何かしらの感銘を覚えるというか、そんな先生です。
ちなみに、H弁護士は総会当日の運営についても確かな見識を持っておられ、過去に理事会や管理会社が自信喪失ギリギリに陥った再開発物件のタワーマンションの総会において我々は大いに助言を頂きました。特に彼が準備してくれた想定問答は総会で効果を発揮し、総会での議論の応酬や議案の論点をあたかも予見しているかのようでした。
区分所有法34条3項は総会招集手続きについて、「集会の招集の通知は、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない」と定めています。事項とは一般に○○期事業計画とか、○○期新役員選任の件とか総会で話し合い決定すべき議題のことです。しかし、実際の総会招集通知には議題だけを示すということはなく、理事会で検討し結論に至った具体的な内容が盛り込まれた「議案」も併せて示すことが通例です。
予算書や決算書、修繕工事であればすべて数字が入っていて、役員選任の件であれば実際の氏名と部屋番号、規約改正であれば条文の具体的な文言が議案として示されます。
総会招集通知に議案が示される理由は、委任状及び議決権行使書の提出者への配慮があります。議題のみで議案の内容を区分所有者が知ることができなければ、出席しようか、委任状によって議長に一任しようか、議決権行使書を行使して賛成を投じようか、判断のしようがなくなってしまいます。実際の総会出席者もその意味では同様です。総会当日において賛否の意思を決定する際にも、事前に議案の内容を知ることは不可欠です。
普通決議を要する場合、総会当日の議案の修正は、動議や出席者の当日の討議によって「議題」の範囲内であれば可能であるというのが、H弁護士の見解です。
例えば、管理費増額の件について10パーセントの値上げの議案が総会に上程されていたとしても、当日に30パーセントの値上げに修正することは望ましいとは思いませんが、議題の範囲内なので法的には可能です。また、役員選任の件について、議案ではABCさんを選任することになっていても、総会当日にCさんが急に辞退を申し出た場合、Cさんの代わりにDさんを選任することも可能です。
これに対して、「議案の要領」まで含めて決議の対象となる特別決議を要する議案は、総会当日に修正提案することはできません。討議により修正することに至った場合は、理事会で議案を練り直し、再度総会を招集することになります。
では、委任状や議決権行使書の取扱いはどうしたらよいでしょう。
結論から言えば、議案が議題の範囲内であっても、総会当日の修正議案は議決権行使書提出者が予見(想定)しうる範囲なのかどうかを判断基準として考えるべきだと、H弁護士は話されます。
上記の例でいえば、議決権行使書提出者のうち賛成を投じた区分所有者は10%の値上げ案に賛成したわけで、提出者が総会当日における修正で30%の値上げを予見(想定)していたとはとても思えませんし、これでは騙し討ちのようなものです。一般人の感覚で言えば、5%前後の増額調整にとどまるならば予見可能の範囲内として許容されるにしても、30%では賛成としてカウントすることは無理でしょう。
理事候補者の1人に辞退者が出て急に別の区分所有者を理事に選任する場合はどうでしょう。
役員を辞退したいという人の出現は決してあり得ない話ではなく、一般的に予見(想定)の範囲内であり、役員選任議案に賛成と書いてあれば賛成にカウントしても良いと思います。
委任状の場合は受任者がいますから、受任者の判断・裁量で賛成又は反対が行使されることになります。
区分所有法は、「マンションの区分所有者が管理組合を結成し、自分たちがマンションを維持管理する当事者となって、区分所有者間のコミュニティを形成・維持しつつ、話し合いながらこれを進めていく」ことを本旨・理想としています。理想は程遠く、実際の総会では出席者は年々少なくなり、委任状や議決権行使書が大半です。
なかには、出席者同士の議論や質疑はほとんどなく、管理会社の社員が仕切り支配している総会も少なからずあって、私が「あなたは少し黙って静かにしていなさい」と注意することもよくあります。
マンションの総会では「話し合うこと」が基本とされているからこそ、重要懸案となる特別決議を除いて、話し合いの中で議案の内容が変わることはある程度においてやむを得ないのです。ですから、議長は諸事情があるにしろ、総会において動議を正しく取り扱うべきです。
確かに動議の提出は、何ら動議に対する準備を怠っていたとき総会に多少のパニックを生じさせるかもしれませんが、シャンシャン総会が長年続くような状況があるならば、総会の本来の意味を取り戻すチャンスとなるかもしれません。
議案の要領を示す必要のない議案に対してまで、動議を認めて修正するのは問題と思います。
予め想定できる幅は明示してこそ有効だと思います。
議題だけを示して細部については動議があればそれを認め、現出席者の討議により現出席者の意見の多数に従うことを含めて議案を上程する、または一定の決定の幅を持たせるとすれば有効と思います。
例)修繕積立金の値上げ改定を現行の10%以内で行う件。
但し値上げ幅については総会に現に出席した組合員の多数により決定するものとする。
望ましいことではないと思いますが、普通決議は議題だけ示して議案の要領を明示しない場合は動議を認め柔軟な運営をする総会も法的には有効だと思います。
例)役員改選の件