さてその24日の午後、Y子さんと妻は、連れだって「住まい情報センター」に出かけて行った。
大阪市の天神橋商店街の北の出口にあるこの建物には、大阪市マンション管理支援機構との団体が入っている。HPによると、「さまざまな情報提供を通して、マンション管理組合をサポート」してくれる機関らしい。法律関係や建築関係、それにマンション管理組合の運営についてなど、探してみると、こういった相談機関がいくつか存在しているようで、素人が専門家相手に戦うに当たって、心強い味方になってくれる。
大阪市のマンション管理支援機構については、毎週日曜日、建築士による相談窓口が設けられることを、Y子さんが調べて出していた。もともとは、N川建築士にも相談した内容を確認するつもりだったらしいが、折よく…と言ってはなんだが、「臨時理事会」の問題が持ち上がったところ。その正当性についても、妻たちは相談するつもりでいるらしい。
指定された時間に訪れたところ、窓口の前には、既に2組の先客が待機していたそうだ。Y子さんの説明によると、当日の受付で、相談を受ける順番の抽選があるとのこと。くじ引きで順番が最後になってしまった妻たちは、近くのコーヒーショップで作戦会議がてら、時間をつぶすことにしたらしい。
「結局、K山理事長の悪口になってしまったんやけどね。ほんとは晩の臨時理事会の相談をするつもりやってんけど。」
そんな話を2時間以上も続けられるのか。まったくヤツらの執念深さときたら…。
そして予約した時間になったことを確認して、妻たちは相談窓口に向かう。
大阪府建築士会に所属するという担当の建築士は、事前に提出していた相談内容に目を通し、開口一番、次のように語ったそうだ。
「管理会社が連れてきたコンサルって時点で怪しいですね。悪徳コンサルの疑いが濃厚です。コンサル自体よりも、管理会社がリベートを取っているケースが多いようです。」
このところ、焦点は「タイルの図面未提出」問題に絞られつつあるが、裏にはやはり、悪徳コンサル問題が控えている可能性が高そうだ。また、初めから疑っていたこととは言え、マンションの建築当初に施工不良があり、建設会社や管理会社が絡んでいるのであれば、今後の交渉は、さらにやっかいなことになるのかもしれない。
「それに、最終的に13%以上ものタイルを修理することになったのに、見積もりの時点で5%とは、これはあまりにも低すぎる。見積もり時点での検査の場所を確かめておいた方がいいですね。最初の金額を安めに設定するために、あえて劣化が少なそうな場所、例えば北面などで見積もり検査をした可能性もあります。その場合、非常に悪質なケースと言えます。」
担当にあたってくれたのは、妻たちから見て「お兄さん」としか言いようがない、まだ若手の(しかも妻に言わせると「ぱっと見は、遊び人でちょっとちゃらい様子の」)建築士だったそうだが、はっきりとわかりやすく、問題点を指摘してくれたらしい。
「補修後完了後のタイルの図面は、とても大切な物です。これがないと、次回の修繕時、どこがどのように修理されているのか、確認できないことになる。」
提出されていない「タイルの図面」については、このお兄さんもN川建築士と同じ見解だった。
「それにこの図面が無いと、補修されたタイルの量も確認できませんし、工事代金の算出の根拠も分かりません。」
そして「補修完了後の図面」に加えて、
「実は、補修前にタイルの検査をした時点での図面も大事なものなんですよ。これは、どのタイルをどのように補修するかの計画図面なんですが、振動、日差し、雨水など、補修が必要とされたタイルが、どういった原因で、どのような状態になっていたのか、確認しておけば、今後の補修計画に役立ちます。」
劣化の要因については、たしか、前期から今期の理事への引き継ぎの席で、B技研のY口氏から「マンションの西面が大きな道路に面しているため、振動や西日が原因で、タイルの浮きが予想以上に多かった」と説明されていたはずだった。タイルの追加工事と、それにともなう費用の増加を追及されての話だったが、マンションの施工当初の不良の可能性も含め、最初の時点で誠実に伝えてくれていたら、B技研の印象もかなり違っていたかもしれない。
とはいえ、B技研を連れてきたのが管理会社のS社である以上、実際に施工不良があったとしても、それを告発するなんてことが、彼らにできたはずがない。僕らのマンションを建てたS建設は、S社の親会社なのだ。妻たちはむしろ、S建設の指示で、当初の不良の痕跡が隠ぺいされ、大規模修繕で(僕たちの費用で)補修させるように仕組まれたのではないかと疑っている。
(photo by photoAC)