【図面を取り戻せ!~大規模修繕後の戦い】27.臨時理事会(2019年2月24日 晩)

そして夜8時。エントランスホールには、既にかなりの人数が集まっている。
ひときわ目を引くのは4階に住むNさんだ。妻たちが中心になって、そして女たちの口コミで集められただけに、参加者のほとんどは女性ばかり…というか、はっきり言って男性はNさんと僕のふたりだけ。上背があり、ワイルドなひげ面のNさんは、それでなくても目立つ風貌の人物だが、この集まりの中では、はっきりと異彩を放っている。Nさん自身も少々居心地が悪いのか、所在無げに僕に近づき、話しかけてきた。
「実は、さっきK山さんのお宅に行って、尋ねてきたんですよ。」

途端に、皆が耳をそばだてる。
「なんでK山さんが理事長印を押そうとしないのか、僕には理解できへんのです。先日の理事会であそこまで詰めたんやったら、早く進めた方がいいじゃないですか。」

皆がうなずく中、妻だけは、少々気まずげな表情を浮かべている。
「K山さんは、『押印しないと言ってるわけやありません。理事会で決定後に押します。』って。意味が解らない。」

「あたしたちの進め方も、少し乱暴やったのかもしれません。でも、少しでも早く進められるように、今日は皆さんにお集まりいただきました。あたしたちとしては、K山理事長に理事長印を押してもらった上で、C技研にこの文書を送りたい。」
副理事長の妻が話を引き取り、住まい情報センターで新たに仕入れた情報と現在の状況を、簡単に説明する。
「そういうことなので、理事5名のうち、3名の出席で、この会は理事会として成立すると考えられます。この席上で可決すれば、理事長が押印しない理由がなくなります。もちろんあたしたち理事だけでも進められることではありますが、皆さんの後押しがあった方が、K山理事長へのプレッシャーにもなると思うので、ご協力いただきたいんです。」

参加の女性たちは、一様に賛成の表情を浮かべている。しかしNさんだけは、少し納得がいかない様子だ。
「言うてはることはよくわかるし、僕も基本的には賛成なんですよ。でもね、一番大事なのは、皆が一致して進めることとちゃいますか。あんまり無理強いしたら、K山さんも立場がなくなってしまう。」
まっとうな意見ではある。

「理事長の気持ちより、マンションの利益を優先させて欲しいですけどね。」

声を上げたのはS井さん。
はっきりと意志の強そうな顔立ちの女性である。最初のころから妻たちと連絡をとり、「草の根」の活動に協力してくれている。かといって、K山理事長に反感を持って妻たちのサイドに立つでもなく、自分が正しいと思うことを、自分の意志で淡々と進めるタイプと思われる。
「でも、もめごとを大きくする必要も感じません。今日の集まりは、あえて『臨時理事会』とはせず、集まった皆からの『お願い』というかたちで、理事長に、再度押印をうながすということで、どうでしょう。」
なるほど、それならK山理事長の顔もつぶさずに済む。

「それでも理事長印を押さないということであれば、次回の理事会で、理由をはっきりさせてもらいましょう。」

解決案が出され、皆もほっとした様子だ。

「誰がお願いの文を書くんですか?あたしはイヤですよ。」
妻がむくれた声をあげる。いつまでも子供じみたことを言うヤツだ。
「それはS井さんにお願いできますか?」
と、僕。
「理事以外の誰かが書いた方が、それだけ関心が高まってるってことを伝えられる。」

「…ということで、集まった皆が、C技研に文書を送ることに賛成しています。つきましては、同封の文書にK山理事長の署名と理事長印の押印の上、C技研宛に、至急発送していただくようお願いいたします。S井M代」

「『でないと、次の理事会で問題にしますよ』って付け足したらどう?」などとの妻の口出しは無視して、S井さんは、しごくまっとうな「お願い文」を作成してくれた。そこに、集まった全員が署名し、C技研への文書も添えて、理事長宅のポストに投かんしておく。

翌日はK山さんからは連絡がなかった。
そしてさらにその翌日の火曜日の朝、我が家の郵便ポストを開けると、朝刊と共に、K山理事長の署名・押印入りの文書が入っていた。

株式会社C技研様           2019.2.24.

                  Sマンション管理組合
                     理事長K山S一 

貴社におかれましてはますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

さて、昨年度に行われました当マンションの第一回大規模修繕において、躯体補修工事のプロット図面のうち、タイル補修の図面が提出されておりません。先日の理事会において、図面の提出を求めることで出席者の意見が一致いたしましたので、その旨ご連絡させていただくと同時に、図面の提出を求めたいと存じます。よろしくお願いいたします。

なお、1月24日の貴社のWさんと当管理組合副理事長の電話会談において、Wさんから「以後の交渉は弁護士による書面を通じて行いたい」、また「書面は一週間を目途にお届けする」旨のお話がありました。この提出期限は守られず、さらに2週間以上経過した現時点においても、書面は届けられておりません。3月3日の次回理事会までに間に合うよう、よろしくご対応お願いいたします。

(photo by photoAC)

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