都内マンションの理事会において、1階に住む理事から、「裏庭の植え込みが原因で虫が発生する。誰かが見るようなところに植栽があるわけじゃないし、そもそも枯れているので処分してほしい」との訴えがありました。
その際に管理会社のフロント担当から、「緑化率の問題から処分は難しい」との説明がなされ、結局のところ植木が元気になるような処置を施し、虫は自己防衛してくれ、との内容に落ち着きました。
緑化率とは、「マンションの敷地面積に対する緑化施設の割合」をいっており、緑化地域においては緑化率の最低限度が定められています。この緑化地域の制度とは、緑が不足している市街地などの建築物において、一定割合以上の緑化義務を市町村が計画決定するもので、建築確認の要件となります。
「植栽がみっともない」という事態は、多くの管理組合で取り上げられる問題です。そもそもマンション設計者に植栽の専門家が少ないため、西日が苦手な植栽を西側に埋めたりするケースは間々あることです。
要するに、マンションを販売する際に、10数年後の植栽の環境、強いては資産価値の向上まで考えてつくられていないのでしょう。
SEO(検索エンジン最適化)対策のために、マンションに関わるワードを調査したところ「植栽」が圧倒的に多く驚いたことを思い出しました。資産価値と直結する植栽問題はそれだけ関心の高い問題、ともいえそうです。
‥‥「邪魔だから植栽伐採」が叶わぬ理事の話をしましたが、同様に ”思惑の違い” が生んだ、友人Kの悲劇の物語をお伝えします。
友人Kが長年勤めた会社を退職するという一大決心をし、記念にサーフボードを購入することにしました。長さや厚み、デザインに至るまでカスタムオーダーができるサーフボードブランドで購入を決めたKは、
「何色がいいかなぁ…白かなぁ…緑かなぁ…」
と、嬉しそうに話し、もはや、初デート前日のワンピを選ぶ女子中学生と化していましたが、
「やっぱ、俺たちのクラシカルなサーフシーンを飾るのは、シブいピンクだよな」
などと、訳のわからないことをのたまい、かつて後輩が乗っていたクラシックボード、暗いサーモンピンクのイメージで決めたようでした。
__オーダー当日。
スラム街を彷彿させる薄暗いファクトリーの一角で、防塵マスクをかけたシェーパーが黙々とサーフボードを削っています。まずをもってビジネス街で見ることのない風貌ですが、腕は確かです。
「シングルフィン、スクエアテールで動きやすい板、ボトム(裏側)のデザインはオリーブ色のアブストラクトで…」
営業のプロであるKは、巧みな話術でシェーパーにイメージを伝えますが、
「オッケー、オッケー、ばっちり。かっこいいのつくるからさぁ」
とても軽い対応のシェーパー。20万円の注文だというのに、特にメモを取るわけでもなく一抹の不安がよぎりますが、Kは諦めずに続け、
「で、肝心のデッキ(表側)は、シブいピンクで…」
「オッケー、オッケー、シブいね、オッケー」
かぶせ気味に出たオッケーで、本当に分かっているのか不安になりましたが、それはKも同じだったようで、去り際にもう一度シェーパーに振り返り、
「ボトムの色はシ…」
「オッケー、オッケー、かっこいいのつくるからさぁ」
ドン被りのオッケーに「暖簾に腕押し」とはこういうことかと思いましたが、以前作ってもらったサーフボードが完璧な仕上がりだったことから、「本物のアーティストって、みんな、あんな感じだよね」と、訳の分からない理論で、Kが無理やり不安を解消させていました。
サーフボードが仕上がったとの連絡を受け、待ちに待った受け渡しの瞬間がやってきました。
車中、「どんな感じかなぁ」と終始ハイテンションのKは、まるで生まれた赤子と初めて対面するお父さんのようです。
シブいピンクのニューボード、仕上がりは、目にもまぶしい、
ショッキングピンク
(「シ」しかあっていない)