とある、100世帯規模のマンション理事長から相談を受けました。
「大規模修繕工事の時期を迎え、修繕積立金が足りないと管理会社から通告された。この窮地においても、住人は無関心。理事会に参加する役員も一人もいない」
マンション管理士を中心に大規模修繕工事の内容を見直すと、不要な工事の存在や、マンション管理会社のマージンと思われる見積もりが露呈。もはや「信用できない」と判断した理事長の強い意向で、住民説明会を経て管理会社の変更を決議。
その後、立体駐車場の有効活用や理事会協力金制度(理事の役回りを回避する代わりに協力金を納める制度)をつくるなど、マンション管理組合活動の改革を断行した結果、あれあだけ「足りない」と脅されていた修繕積立金に余裕が生まれ、閑散としていた理事会スペースも賑わうようになりました。
たったひとりの勇気が、何百人もの資産を守ったのです。
___そういえば、あの時も、ひとりの勇気からでした。
後輩が結婚するということになり、その二次会の余興を依頼されました。その後輩が、とんでもないことを口走ります。
「大学時代の友人も余興をします。僕は、100人から構成されるお笑いサークルの代表だったので強敵ですよ」
__私の中で何かが弾けました。そして、隣にいた友人に静かに伝えたのです。
「これは、二次会の余興なんかじゃない。お笑いの頂点を極める場、お笑いオリンピックだ」
私には、華やかな宴に相応しい、あるアイデアがありました。それは、新入社員Mが宴会の自己紹介の際に決行した、「尻に割りばしを挿す」という荒芸からヒントを得た、「人間活け花」。人間花瓶に美しい花を活け、宴を彩るのです。
しかしながら、そのアイデア実現の前には、常人が超えられない大きな壁が存在しました。
『はたしてMは、披露宴の二次会という、完全なる公の場で、挿すのか』
Mの勇気無くして、お笑いオリンピックの金メダルはあり得ません。意を決した私も勇気をふり絞り、Mに切り出しました。
「M、今度の披露宴の二次会あるじゃん。悪いんだけど、人間活け花やってくんね?」
1秒もかからなかったと思います。衝撃のMの回答は、こうでした。
「オレ、そんなに楽していいんすか?顔出さなくていいんですよね?」
__当日。
花瓶に見たてた純白のクロスでぐるぐる巻きにされたMが台車に載せられ登場すると、これから何が始まろうとしているのか皆目見当もつかぬ不穏な空気で、会場がざわつきました。
次の瞬間、「踊る大捜査線」の華麗なミュージックとともに登場した、「爆笑流、活け花師範」の演者が、大げさなステップでリズムに乗り、右手に掲げた真紅のバラを「そこ」に活けました。
Mの足がブルブルっと痙攣。
「イデデデデデデ!!!!!!」
純白のクロス越しにMの絶叫があがると、100人を超える列席者で埋め尽くされた会場が、一瞬にして爆笑の渦に包まれました。
お笑いの頂点を極める世紀の決戦で、金メダルが確定した瞬間だったのです。