【図面を取り戻せ!~大規模修繕後の戦い】6.「いつから知っていたのか」問題

大規模修繕後にマンション側に提出されるべき「タイルの図面」が、実は提出されていなかったことについて、施工にあたったC技研から「すべてのタイル5年間保証」での「手打ち話」をもちかけられた今期の役員たちだったが、この時点での関心は、むしろ「マンション建設当初の施工不良疑惑」に向けられていた。
副理事長を務める妻曰く、
「大規模修繕でのタイルの補修が多かったのは、マンションを建てたときに手を抜いてたからちゃうか?って疑いが、もともとあったわけやんか。それで、調べてみたら『タイルの図面がない』ってわかったんやけど、まずは『手抜き問題』から片づけたいねん。」

図面の問題に手を付ける前に、妻たちはひとまず、マンション建築会社であるS建設(管理会社S社の親会社だ)と大規模修繕の監理にあたったB建築設計に質問状を送付し、「施工不良疑惑」について問うてみることにしたようだ。

「昨年度に行われました当マンションの第一回大規模修繕において、当マンションの外壁タイルの浮きが13%以上だったことがわかりました。当マンションの建設当初の施工に不良があったと考えられますが、貴社のお考えをうかがいたいと思います…云々」

これに対して、マンション建設の当事者であるS建設は、「図面がないと確認できない」との理由で回答をスルーしてきた。問題に直面させるべき材料がそろっていないのだから、これは当然と言えば当然の対応だが、馬鹿正直に回答をよこしてきたのがB建築設計だった。

「施工不良についての判断は、当社の契約内容には含まれていません。なお大規模修繕時の引き渡し書類中、一部プロット図面が欠けているが、これについては当時の理事会に報告・了承済みです。」(2018年10月28日)

なんだって?
「当時の理事会(大規模修繕時の前期の理事会)に報告していた」ということは、つまり工事完了の時点(2018年3月)で、B建築設計もC技研もそして前期の役員たちも、皆、「図面の紛失」を知っていたことになる。
妻によると、そんな話は全く聞いていないし、議事録などの記録にも残っていないそう。
「大体にして、K山理事長も、こないだまで『タイルの図面がない』なんて知らはらへんかったし、C技研のH林さんかって、『図面についての問い合わせを受けて初めてわかった』って言ってはったんやし。」
確かに、B建築設計とC技研の間で話が食い違っている。

「それに、精算の時点で図面がないってわかってたんやったら、C技研は、なんでその時、補償の話をせえへんかったんやろ。」

後から思えば、妻たちの関心を再び「大規模修繕問題」に向かわせたのは、B建築設計がこのとんちんかんな回答書をよこしたことだった。

B建築設計のもともとの「悪徳コンサル疑惑」については、その可能性は濃厚ながら、攻める材料に欠く状態で、ほっておけば、このまま立ち消えざるを得ないものだった。「タイルの図面が提出されていなかった」ことだって、C技研がうまく立ち回ってさえいれば「単なるミス」として、補償話で片が付いていたのかもしれない。事実この時点では、彼女らはC技研にはたいした悪感情は持っていなかったし、「図面が揃っていなかったこと」をB建築設計と結びつけて考えてはいなかった。しかし、B建築設計のこの「図面については、自分たちには責任ないもんね~」的回答は、妻たちの怒りを一気にヒートアップさせた。

実際のところ、妻は非常に陰険かつ執念深い性格である。「悪徳コンサル水増し」疑惑に関して、ひきつぎの席でY口氏に反論できなかったことだって、ねちねちと腹の底で怒りを育てていたに決まっている。
「B建築設計もC技研も、精算のときは図面のことを誤魔化しといて、こっちが気ぃつかへんかったら、このまま知らん顔で済ませる気でいたんちゃうか。」
勝手に推理を進め、さらなる情報収集に乗り出したようだ。

「面倒なご近所づきあいはきらい!」と言い放つ妻だが、そとづらだけは妙によく、実のところ、けっこうに顔が広い。前期の幹事を務めていたA美さんとは、以前から飼い犬の散歩を通じて「挨拶を交わす仲」だったそうで、彼女が散歩に出かけそうな時間を見計らって、さっそく近所の公園で待ち伏せたのだとか。

スレンダーな美女ながら、なかなか短気なA美さん、妻がB建築設計の言い分を告げたところ、
「図面が揃ってなかったなんて、そんな話、聞いてへん。B建築設計もC技研も、私ら前期役員に責任をかぶせる気ぃなんかっ!」
と、えらくお怒りだったようだ。

前期の役員のなかでも、もともとこのA美さんは大規模修繕の金額や内容にかなり不満を持っていたそうで、そこも含め、妻とはあらためて情報をやり取りした様子。
「追加の工事のことも、高すぎると思って反対してんけど、押し切られた!」
聞いてみると、A美さんの怒りも根が深そうだ。

前期で会計を担当していたY崎さん(妻は彼女にも、待ち伏せ作戦を行使したようだ)からも、控えめながらきっぱりと、
「図面のことについては、何も聞いていません」との証言が得られた。

しかし考えてみると、B建築設計が使った「前期の理事に報告・了承済みですから」というのは、こちらが文句をつけにくい、相手方にとって非常に都合の良い決めゼリフだ。

 

交流の希薄な都心のマンションではありがちなことだが、I子さんと妻のような特殊なケースを除けば、理事会の役員同士でも、普段顔を合わせることはほぼないし、「腹を割った話し合い」なんて、まず無理だ。前期の役員との情報交換といったら、さらに難しいわけで、「前期の理事」がOKしちゃった件については、異議は唱えられずに引き継がれていくのが常。そして住民側のそういった状況に付け込んで、管理会社が自社に都合の良いように物事を進めてきていた様子は、今までも薄々は感じられていた。

僕たちのマンションにおいてラッキーだったのは、たまたま今期の役員同士、互いにコミュニケーションがとれる関係をつくれていたこと。そして、前期の副理事長だったK山さんが今期は理事長に居残っていたことだった。

実はこの頃、K山理事長とヤツらとの関係は、微妙に悪化しつつあったのだが、彼とて「前期の理事が了承済み」なんて言われると、黙っているわけにはいかなったのだろう。前期役員のA美さん、Y崎さんとも、少なくとも「顔が見える」関係であり、とりあえずは確認をしてみることが可能だった。

「前期理事は、タイルの図面の未提出については報告を受けていないし、従って了承もしていない」ことは、ほどなく明らかになり、そして「図面が提出されていないこと」「それが前理事には伝えられていなかったこと」について、B建築設計とC技研を追及する必要があるのではないかとの認識が、少しずつではあるが、マンション内で共有されるようになっていった。

(photo by photoAC)

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