【図面を取り戻せ!~大規模修繕後の戦い】29.弁護士無料相談(I田弁護士 2019年3月2日)(その2)

そして当日、妻はY子さんと待ち合わせて、弁護士会館に出かけていく。Nさんとは別に、終了後に事後会議を行う予定らしい。

指定されたブースにあらわれたI田弁護士は、妻たちの説明にひととおり耳を傾けた後、まずはにこやかにこう言ったそうだ。
「この手の事件、私は嫌いではありません。」
ほっと息をつく妻たちに、続いて告げる。
「この図面ですが、契約書、仕様書にも書かれていますし、お話をうかがう限りでは、提出されていないのはおかしいと感じます。それにおっしゃるように、この図面がないと、工事の様子も金額の根拠もわからない。代金の水増しなど、なんらかの不正を疑ってしまいますね。」
そうなんですよ!と妻たちは勢い付いたそうだ。

「ただ、裁判にするとなれば、『請求代金の根拠がわからない』『どのタイルを直したのかわからないので、今後のメンテナンスがうけられない』など、図面が無いことの不利益を前面にもってくる必要があります。単に『図面を提出せよ』との申し立てはできないんですよ。」

なるほど。C技研がK山理事長に「総タイルの保証」での手打ち話を持ちかけてきたのは、「図面が無いことの不利益」をつぶす目的もあったのだろう。
「でも…、」と、Y子さんと妻は顔を見合わせる。
「今のところは裁判まで考えているわけではないんです。いえ、最終的にはそうしなければいけないかもしれないですけど、まずは、裁判までの出来うる手続きを教えていただきたくて。」
一足飛びに裁判というのでは、あまりにもハードルが高すぎる。住民感情としても、なかなか受け入れてはもらえないだろう。
「なるほど、わかりました。」
少し考えて、I田弁護士は、手続きについての説明を始める。
「そうですね…まず調停という手続きがあります。簡単に言えば、裁判所に話し合いの場を提供してもらう手続きです。あくまで話し合いが基本になるので、相手方が話し合いに応じないなら進みませんけどね。」

そして資料を示しながら、言葉を続ける。
「他に、建設紛争審査会を利用するという方法があります。これは建築関係の紛争をあつかうものです。国交省のHPに詳しい内容が書かれているはずです。」
それでも少しハードルは高そうだ。
「弁護士さんにお願いして、相手方と交渉してもらうのはムリでしょうか?」
「もちろんできます。ただ、申し入れの書面を書くくらいのことなら、お金を使うのはもったいない。まずは10万円程度の着手金が必要になりますからね。それくらいなら、ご自分たちでもおできになれると思いますよ。」
使う必要のない費用について忠告してくれるのは、ありがたい。
「図面を提出してもらう手段ですが、少し調べてみたいので、お時間をいただいてもよろしいでしょうか。この図面のはっきりした名称や位置づけなども、建築士の友人に確認してみたい。」
「ということは、お返事は、今日の相談ではいただけないということでしょうか?」
「この相談の時間外になりますが、それについては無料で構いません。」
この言葉に、妻たちは、あからさまに安心した表情を浮かべたらしい。なにせ現時点では、弁護士費用の予算は計上されていないのだ。
I田弁護士は、話を続ける。
「今日のところは資料を預からせていただいて、詳しいご回答については、後ほどご連絡させていただきます。」

弁護士会館近くの洋食屋でランチを取りながら、Y子さんと妻は、Nさんが相談した内容にも耳を傾けたそうだ。
「弁護士の費用についてですが、着手金と成功報酬でだいたい40万円くらい。成功しなかった場合でも着手金の支払いはやむを得ない様ですね。」
Nさん自身は、初めての弁護士との接触に少々興奮しているようで、勢い込んで話しを続ける。

「先方の出方によっては裁判に発展する可能性もあります。その場合、管理組合がどうするのか、考えておかなければいけないですね。で、裁判になった場合勝てるかどうかですが。」

Nさんは、スプーンにすくったグラタンを口の中に放り込む。
「どのような契約内容を交わしているか、詳しく教えてもらわないと判断できないとのことでした。これは僕の現状把握不足もあり、申し訳ありません。」
いいんですよ、Nさん。あなたはそこまで期待されていたわけではない。
「あたしたちがI田弁護士にうかがった感触では、こっちのほうが有利って感じでしたよね。」
妻はY子さんに確認する。
「そうですね。契約書に書かれてるってのが大きいようです。」
「とにかく、明日の理事会では、弁護士さんのお話について報告できますね。弁護士費用を計上することについても提案してみましょう。」

(photo by photoAC)

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