唐突に、嫁から告げられました。
「保育園の運動会、今年からおとうさんリレーが追加されるんだけど、出るでしょ?」
…あほかと。
20代や30代じゃないんだぞと。
本気で走るの、タイで野良犬に追いかけられた以来だぞと。
それも、10年以上前だぞと。
「絶対転ぶからやだ」
すると嫁。
「いや、みんなそれ期待してるから」
運動会で、なぜお父さんが転ぶのか‥
前脛骨筋。
すねの筋肉の衰え。
継続した激しい動きに筋肉が適応できず、つま先が上がらなくなり地面に接触。
その結果、つまずく、という現象が起きるのである。
■■運動会当日■■
ママさんグループがニヤつきながら近寄り、
私には、ひたいの「ころべ」という文字がはっきりと見えました。
あか組、第2走者のお父さんが必死の形相で走ってきます。
子供の運動会なのに、よりによってメイン種目の「おとうさんリレー」
子供たちとママさん、めんこい先生たちの黄色い声援が飛び交います。
このような地獄のプレッシャーは、受験の時ですら感じたことはありません。
(…ちゃんと転べるか?)
3馬身差で受け取ったバトン。
2位の好位置からスタートした私の前には、先生チーム、女性の小さな背中が見えました。
その瞬間
そいつは、バトンの空洞からスルりと抜け出し、私の目の前に現れました。
リトルおさらぎ
よく見たら、イケメン気取りの精悍な顔立ちをした10代の私。
そいつが叫びました。
「抜かしたらカッコいいぞ!」
最後のカーブを軽快にまわりはじめたころ、前を走る先生の小さな背中を、私は完全に捕えていました。
次の瞬間
医学的にも証明された、前脛骨筋の疲労が限界を迎え、つま先が地面に接触。
目の前に、こげ茶色の大地と、真っ白なラインが迫りました。
ここからの記憶が、なぜかスローモーション…
前方に放り出された身体。
素早く頭をたたんだ上半身は、猫のような俊敏さで丸くなり、くるっと一回転。
そのまま何事もなかったように走り出す、という奇跡を起こしました。
会場から沸き起こる笑い。
激ウケの子供たち。
次の走者にビリでバトンを渡そうとした、その時。
私は、”あの声” をはっきりと聞きました。
「グッジョブ!」
リトルおさらぎ
バトンの上に、そいつの姿がありました。
それは、様々な経験を乗り越え、蓄えた年輪を刻んだ40代の完全なるおっさんの笑顔でした。
【マンション管理組合の学校 事務局 マンション管理士おさらぎ】
※おさらぎ個人のブログより、懐かしい思い出を加筆修正して投稿