管理費の支払を拒絶している区分所有者がいる場合、当該行為が共同利益違反に該当することを理由に、当該区分所有者の氏名を公表しても問題は生じないでしょうか。
また、当該区分所有者に対する管理費等請求の訴えの提起についての検討内容を議事録に記載する場合、当該区分所有者の氏名を議事録に記載してもよいものでしょうか。今回はこちらについて考えてみたいと思います(3回連続)。
問題の所在
管理費等の管理組合収入は、マンションの適正な維持・管理のために欠かせないものです。また、区分所有者による管理費等の滞納自体が事実であれば、その事実の公表自体は決して当該区分所有者に対する誹謗中傷にはあたらないとも思えます。さらに、管理組合としては、管理費収入の収納状況を各組合員に対して適宜報告する義務もあるため、積極的な情報開示の必要性もまた考えられるところです。
それにも関わらず、滞納区分所有者の所有部屋番号や氏名といった事実の公表について管理組合側に名誉毀損が成立し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うようなことがあるのでしょうか。
「名誉毀損」とは
「名誉」って?
名誉毀損における名誉とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価をいい、人が自身の人格的価値について有する主観的評価である名誉感情はこれに含まれまれないとされています(最高裁大法廷判決)。
「名誉毀損」の要件
名誉毀損による損害賠償責任は、1.被告が原告の社会的評価を低下させる事実を流布したこと、2.それにより原告の社会的評価が低下したこと、3.被告の故意・過失、4.損害の発生・額の各要件を充たす必要があります。
また、①公共の利害に関する事実に関するもので、②専ら、公益を図る目的であり、かつ、③摘示された事実が真実であるとの証明がなされたか、または、その事実を真実と信じるについて相当の理由がある場合には、違法性が阻却されますので、当該請求は認められません。
なお、マンションの適正な管理を目的として行われる情報の公開については、前記①及び②の要件については、比較的肯定されやすいと考えられます。残るは③の要件ですが、こちらは主に事案ごとの事実認定が問題になります。
「名誉毀損」の効果
名誉毀損行為が行われた場合、その被害者は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法710条)又は、名誉回復のための処分(民法723条)を求めることができます。
それに加えて、判例上は「人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる」ものと考えられています(最高裁判所判決)。すなわち、名誉を毀損された被害者は、加害者に対して損害賠償請求できるのみならず、名誉毀損の行為を直ちに止めるよう請求できるということです。
名誉毀損に関する基本的な事項を確認したところで、次回は、マンション管理に関連して問題となった名誉毀損をめぐる裁判例について見てみたいと思います。
マンション管理に関する事件は既に10年近く、管理費滞納の問題や駐車場の問題、管理費等の値上げや公平性の問題、共用部分の利用方法の問題、(大規模)修繕の問題、総会決議の瑕疵の問題など様々な問題を扱ってまいりました。川崎で法律事務所を代表として経営しています。https://www.kawasakiphos-law.com/
なぜ支払いを拒絶しているかの事情により、氏名公表は最終手段で「あり」だと思います。
共同の利益に反する行為で訴訟を起こした段階で、周知の事実になることが考えられ、氏名公表と同様のことになります。
支払いを拒絶している理由に、何らかの合理的理由がある場合は、とにかく話しあいで、氏名公表はすべきではありません。
何事も「問答無用」では、片付きません。