先日、とある、マンション管理組合の総会に出席しました。可決されたのは、「防火管理者の外部委託」です。
そのマンションでは、防火管理者の未選任状態が続き、所轄消防署からの指導があったのですが、防火管理者のなり手がいなかったため、外部委託を理事会で検討し、総会に議案にのせたのです。
___ここで、防火管理者制度について簡単に説明したいと思います。
そもそも、防火管理とはなんぞや、ですが、東京消防庁のホームページを見ると、『防火管理とは火災の発生を防止し、かつ、万一火災が発生した場合でも、その被害を最小限にとどめるため、必要な対策を立て、実行すること』とあります。(※1)
なるほど、2つの観点が重要とあります。
- 火災の未然防止
- 万一、発生しても、被害を最小限にとどめる
この、防火管理のために、不特定多数の人が出入りするなど、一定規模の建物やテナントは「防火管理者」を定めなくてはならないルールとなっています。例えば、飲食店など、いつ誰が来店するかわからないような店舗や、その店舗が入居する施設は、防火管理者を選任する基準はもとより、消防設備(消火器、誘導灯など)の設置基準も厳しくなっております。
一方で、テナント入居のない一般的なマンションにおいても、収容人員が50名以上であれば防火管理者が必要になります。50名って、4人以上が住める3LDKの間取りであれば、10戸強で対象となるので、世にあるほとんどのマンションに防火管理者が必要といっても良いのではないでしょうか。
防火管理者とは、まさに、防火管理のプロのことでして、防火管理に係る消防計画の作成・届出、消防訓練の実施、防火管理上必要な業務を実施するなど、重要な役割を担っています。この防火管理者は、消防法上の国家資格なんですが、マンション管理士のような厳しい試験をクリアする必要はなく、甲種という制約の少ない防火管理者資格であれば、2日間の講習を真面目に受講すれば基本的には誰でも取得できます。
しかしながら、講習内容は、人命にかかわるだけあって非常に濃く、連続した丸2日間、みっちり勉強する必要があります。「防火管理者になるんだ」という、しっかりとした意志と使命感がないと、貴重な時間を割いて受講する意味は全くありません。
さて、私、おさらぎは、夢の転職を叶え、現在は防火管理者の外務委託事業に携わっているのですが、お客様からの問い合わせで多いのは、
「消防署の査察が入って、防火管理者を選任しろと言われまして…汗」
です。
「急に言われても…」と、柳沢選手(※2)のようなことを言っても、あなたがその責任から逃れることはできません。消防署の指導を無視すると、行政からの選任命令が下り、これをさらに無視し続けると、その先には恐ろしい罰則が待っているからです。
2001年、44人の尊い命が奪われた『歌舞伎町ビル火災』以降、違反者の罰則は強化され、従来の「懲役1年以下・罰金50万円以下」から「懲役3年以下・罰金300万円以下」に。また、法人の罰則も、従来の「罰金50万円以下」から「罰金1億円以下」に引き上げられています。
ここで、私が注目したいのは、「懲役」というワードです。
防火管理者の選任義務を、ビルのオーナーや管理組合(理事長)が怠った結果、日常の防火管理が疎かになる。その結果、避難路である廊下や階段にモノが置かれるような状況となり、実際に火災が起きて人命が失われた場合、その施設の責任者は「懲役」となる可能性があります。
前述の歌舞伎町ビル火災では、ビル所有会社役員らに有罪判決が下っています。出火原因は放火ではないかと推測されてますが、いまだに不明。44名が全員一酸化炭素中毒でなくなっているため、防火扉の機能を果たさなかったことが最大の要因ともされていますが、そもそも自動火災報知器の電源を切っていたり、非常階段に可燃物を多く放置していたようで、完全なる人災といえるでしょう。
また、防火管理者を選任されている方も、単なる名義貸しになっていないでしょうか。
講習の初日、大火災で人命が失われた、あの悲惨な火災現場を忘れていないでしょうか。「懲役」は、日常の防火管理を怠った防火管理者にも無関係ではありません。
「うちは、消火器の点検もちゃんとやってるし、綺麗な管理状態にしているから大丈夫」とか、「昔、消防署に未選任を指摘されたみたいだけど、そのあと何も言ってこないから」と安心している人はいませんか?どんなにきれいな管理状態にしていても、放火リスクのない建物などない、と私は考えます。
(※1)東京消防庁 防火管理管理制度とは https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p01.html
(※2)FIFAワールドカップ・ドイツ2006 で、決定的なチャンスを外した柳沢選手のコメント「急にボールが来たので」略してQBK。