【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その84】管理規約の落とし穴(その3 規約変更の失敗例)

3棟の住宅と1棟の管理棟から構成される「団地式マンションの管理規約」を見る機会がありました。

管理費は団地管理費だけで棟別の管理費は設定されていません。
管理費を団地管理費だけで管理するのか、団地管理費と各棟管理費に分離して設定するのか、これは規約で自由に定めることが可能です。

こちらの管理組合のように3棟の建物が同様の規模と設備内容であり、管理も管理棟で一体的に行われているなら、管理費を団地管理費一つの勘定で管理することに問題はありません。

団地内の建物用途が異なる場合は、各棟管理費の設定が望ましい場合があります。商業用途や事務所用途の棟では来客用の共用トイレや給湯室など特別な管理コストが発生する棟別共用部分やエスカレーターなど特別な設備が存在する場合が多いからです。これらをどのように管理運営し、どのように管理費用を負担するかは棟別に意思決定したいとのニーズがあるからです。

住宅用途の建物ばかりの団地でも、高層棟とエレベーターの設置が無い低層棟が混在する場合には、同じ管理費をみんなで負担すると問題が生じます。この場合も各棟管理費の設定が望まれます。

一方こちらのマンションでは、修繕積立金は「団地修繕積立金」と「棟別修繕積立金」に分別した勘定が設定されていました。
修繕積立金を団地修繕積立金だけとするのか、団地修繕積立金と各棟修繕積立金に分離して設定するのか、これも規約で自由に定めることが可能です。

団地内の建物が同時に完成し(団地内の建物の完成時期が数年ずれているようなケースもあります)、全ての棟の建物の構造、設備の概要、建物の外装仕様が同じであれば、建物の劣化も各棟同様に進行し、大規模修繕工事の時期も同時です。運命共同体と割り切って、団地修繕積立金のみの勘定で管理するのに一定の合理性が認められます。

棟別の会計勘定を設定すると会計処理は複雑になり、勘定ごとに予算、決算をまとめ、総会もそれぞれの勘定ごとに行うこととなります。管理会社にとっては棟別の会計勘定があると煩わしい限りですし、組合員にとっても団地総会と棟別総会の二つをこなさなければなりません。しかしながら、棟別勘定を持つことは、将来予期せぬ様々な局面で、円滑な合意形成のために有効な手立てなのです。

たとえば地震被害が発生し、特定の建物だけが被災した場合を考えてください。運命共同体と割り切って団地修繕積立金勘定しか設定していない団地管理組合では、全棟の皆さんが拠出し積み立てた資金を、特定の被災棟のために支出することとなるのです。復旧に多額の資金が必要で一時金を拠出する場合でも、被害の無かった棟の皆さんも等しく負担に応じることになります。想定外の局面で、この合意は相当ハードルが高いと思われます。

私はこのマンションの管理規約を読み進んで奇妙なことに気づきました。団地修繕積立金と各棟修繕積立金を設定している管理規約でありながら、各棟修繕積立金の予算、決算に関する規定が全く欠落しているのです。棟別総会の規定はあるものの、これは特別の事態において臨時に召集されるものと位置付けられています。区分所有法で棟別に決することが定められている事項(強行規定と言って、規約で別段の定めをしても無効となります。)に限って棟別総会の議決事項となっているのです。各棟の総会で決めるよう管理規約で定め、かつ法律が棟別の決定事項と指定していることは以下の通りです。

①棟固有の管理規約の設定・変更
②棟の義務違反者に対する措置(追い出しや、使用禁止の訴えの提起)
③棟の共用部分が滅失した場合の復旧
④棟別の建替え及び団地建物一体での建て替え

棟別総会で棟別の修繕積立金の予算と決算(取り崩しや積立金額の変更)を決する規定がなく、棟別総会自体が上記①~④の事態が生じた場合の臨時総会と位置付けられていますから、団地総会で議論するしかありません。事実、団地総会で棟別積立金の予算や決算を審議しているようなのです。不思議なことに管理規約では、団地総会の決議事項の中にも、棟別積立金の予算、決算ははっきりとは記されていないのです。団地総会の議決事項には「収支決算案、事業報告案、収支予算、事業計画案」と勘定を指定しないあいまいな記述があるだけです。管理組合はこれを拠り所として運営しているようです。

権利と義務は表裏一体であるべきなのに、棟別修繕積立金の予算や決算を、当該棟を所有せず、当該棟の修繕積立金を負担していない組合員を含む団地建物所有者全員が審議し、議決するという奇妙な事態です。(例えば特定の棟のエレベーターが落雷で破損し、棟別積立金を取り崩す場合に、団地総会を招集し団地建物の所有者全員で意思決定するのです。)

このマンションは、かつて原始規約を改定した経緯があるようで、調べてみると当初の管理規約では修繕積立金が団地修繕積立金と棟別修繕積立金に分別されており、年1回の定例棟総会で、棟毎に棟別修繕積立金の予算・決算審議を行っていたことがわかりました。

管理会社が紹介したマンション管理のNPO法人のマンション管理士がアドバイザーとなり、組合員で構成する専門委員会と共に管理規約の改定案を作成し、総会で規約を変更した経緯があるのでした。ついでながら気になったのですが、それまで定例総会を従来団地総会と各棟別総会の合計年4回開催していたものが、団地総会だけに簡素化されたのですから、マンション管理会社の事務手数料の減額も検討頂いたのでしょうか。勘ぐれば管理会社が蜜月関係のNPO法人をうまく活用し、規約を変更させたのではと心配になります。

私は長期修繕計画も拝見しましたが、こちらも問題をはらんでいました。同じNPO法人が業務受託し、一級建築士が長期修繕計画を作成したのだそうですが、専有部分の給排水管を共用部分の給排水管の交換と同時に一斉交換する計画となっているのです。当然修繕費用は高額となります。くだんの設計士から説明を受けた組合員の皆さんの認識は、「共用部分と専有部分の配管は一斉交換すると経済的で効率も良い。」「先行して専有部分のリフォーム等ですでに専有部分の配管を更新した住戸があれば修繕積立金から、相当額を返金すればいい。」といったものでした。修繕費用が高額となる長期修繕計画もまた管理会社にとって歓迎すべきことですので、先の疑念がよぎります。

なんともいい加減な提案です。同じNPO法人が提案した管理規約では、修繕積立金の使途は共用部分に限定しており、専有部分の配管の修繕のために修繕積立金を支出することも、何らかの理由で特定の組合員に修繕積立金を返金することも予定はされていないからです。
大手デベロッパー系列の管理会社もこの問題を指摘しなかったようです。管理規約の知識不足、経験不足による自称専門家の誤ったアドバイスや安易な提案は、管理組合を大変な混乱に陥れます。皆さんのマンションに於かれましても、管理規約の改定はくれぐれも慎重に進めていただきたいと思います。

マンション管理会社の役員という立場を離れてこの業界を眺めると、大企業の系列管理会社であっても決して管理組合にあからさまに語ることのできない、裏の一面を各社隠し持っていることがわかります。

匿名だからこそ本音で、時にはきわどい発言も続けてゆき、マンション管理組合の運営がより実りあるものにできたらと思います。

4 thoughts to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その84】管理規約の落とし穴(その3 規約変更の失敗例)”

  1.  単棟型か団地型かは、販売会社が吟味して、原始管理規約で対応すべき問題で、区分所有者は原始管理規約に関与できる機会はありません。 当マンションは建て替えマンションのため、原始管理規約の段階で、原始管理規約(案)を見る機会があり、建て替え前の自主管理の反省も含め、理事長の独走を防ぐため、一部標準管理規約を手直しし、原始管理規約にしました。
     どこのNPO法人か知りませんが、マンションの違いを熟知していれば、そのマンションに応じた管理規約に改正するのは当然ですが、線引き屋の言うことなんか、当てになりません。
     マンション管理士に限らず、専門的知識者の劣化は激しく、管理会社の名刺では、「マンション管理士資格隠し」が横行しています。 なぜでしょう?

    1. 原始規約を組合員主体に整備されたことは非常に珍しいマンションですね。
      理事長の暴走を抑止する条文の工夫について具体的にはどういう手立てを講じられたのでしょうか。
      是非ともお聞きしたいと思います。
      管理会社の社員がマンション管理士の資格を取得しても名刺にはそれを表示しないことが広まっているのですか?管理士としての見識や経験が不足しており、取得資格を明記すると期待値が上がりすぎ、かつその期待にはこたえられない社員が多いため、かえって会社や担当社員の評価を下げてしまうとでも考えているのでしょうかね。

  2.  地震被害による建て替えマンションで、旧区分所有者には販売前に原始管理規約(案)を見る機会がありました。
     普通、引き渡し時に原始管理規約が渡されますから、事前に管理規約を見る機会はなく、お仕着せの管理規約の横行を許しています。 検討なしに管理規約が定められるのは、法案審議なしに法律が決まるのと一緒で、民主主義に反します。 幸い、区分所有者の多くは順法精神が高く、管理規約による説明をすれば、多くの方は「おかしい」と思いながらでも従ってくれます。
     開発時の遵守事項も原始管理規約集にあり、自治会(当地では「町会」と言います)加入が条件となっていますから、管理規約改正の際、削除となったコミュニティ条項も実質的には削除されません。

  3.  いくつかの管理会社の方とお会いする機会があり話しを聞くと、社員にはマンション管理士の資格取得を奨励するようです。 社員も資格取得をすると、手当等が付くと思うようです。 しかし、マンション管理士資格は「第三者的立場」から考えると、管理会社社員が取得すると利益相反は避けられず、手当がつかないなら、管理会社社員にとって、マンション管理士の資格などむしろ邪魔です。 しかも、個人資格ですから、名刺に書かなくても問題は生じません。
     かくして「マンション管理士隠し」が横行します。

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