【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その74】奇跡の自主管理―西京極大門ハイツに学ぶ(その5)

■理事なりたくても立候補できない組合運営組織

今回は西京極大門ハイツの組織と役員の選出について取り上げます。
以下、『 』は佐藤理事長の配布資料からの引用です。

『管理組合の組織として「評議員会」が設置されている。耳慣れない名称ではあるが、評議員は「住戸番号順に10戸ずつ区分し、区分ごとに毎年度、通常総会終了後から次の通常総会終了までの1年間を任期として順に組合員1名(外部区分所有者を含む。)」を割り当て19名が選出されている。評議員会は、

①理事長から事業の進捗状況及び収支の状況、並びに総会提出議案について説明を受け、必要に応じ意見を述べること。

②理事長の委嘱を受け理事及び監事候補者の推薦を行うこと。

の2点が役割となっている。

評議員会は、上半期が終了した10月に召集され、理事会は半年分の事業の取り組み状況や収支の状況を報告し、評議員の意見を求める。一年が経過し総会議案がまとまった段階で2回目が招集され、総会提出議案について説明を受けて意見交換するとともに、総会以降1年間の理事・監事候補者の推薦を行う。

管理組合の役員で輪番選出されているのは評議員だけであるが、評議員会は理事・監事候補者の推薦権を持ち、理事会の業務執行状況について意見を言う場となっている。招集は年2回、会合時間もおおむね1時間程度で理事会の「ご意見番」的な役割とも云える。

理事会は、3~5名の可変定数で監事は2名。理事・監事は評議員会の推薦で総会提案され、その下で管理組合は運営され、任期はどちらも1年間で重任が可能。

この他、総会で選出されるのは、環境整備特別会計での隣接地等の買収案件が生じた際に召集される用地棟取得審査会委員があるが、総会への委員の推薦は理事会となっている。

また、コミュニティ委員や防災委員、子供文庫運営委員は理事長委嘱となっている。

このように輪番選出はご意見番的役割を担っている評議員会のみで、その他の役員は強制割り当てでない形で選出され、8割程度が毎年重任して継続性を保ちながら5~8名程度で入れ替わって行く。それぞれの状態・状況に合わせて管理組合運営の一端に参加する人数は世帯数の4割を超えており、こうした重層的なグループの中での活動・経験を通じて役割のスキルアップができ、理事の補充が行われる。管理組合を代表する理事長も2~3年程度で交代していく。』 

西京極大門ハイツでは、マンションを新たに取得した組合員が、いきなり立候補して理事になることはできません。このように評議員会が目を光らせて役員候補の選定を行うのですから、分譲マンションを次々購入しては理事長や修繕委員長にいきなり立候補して就任し、管理会社を変更したり、大規模修繕工事を発注したりして業者からリベートを受け取ることを生業とする所謂管理組合ゴロの餌食になることもありません。我田引水型の強引な理事長の出現もないでしょう。

私は、数々の先進的な施策を実行する管理組合には、長期政権を確立した剛腕理事長がいてこそ為しうるものと思っていたのですが、西京極大門ハイツでは、評議員会がそのような理事の出現を許しません。佐藤理事長ご自身も、今回7回目の理事就任だとお聞きしますが、「理事長なんて2年も続けてやればたくさんです。」とおっしゃいます。剛腕とは程遠いお人柄です。

もう少し配布資料を引用します。

『こういった役員選出・運営方法は最初からだった訳ではない。2年任期の半数交代という時期もあった。管理規約の改正項目で一番頻度が高いのは、役員の選出ルールに関する改正であった。このことは、停滞を脱するため他のマンションを参考に選出方法を改正しても、数年もたたずに機能しなくなってしまう。そういったことを繰り返す中で、マンションの実態に気づいたことが契機になって今のような方法が生まれた。

それは、戸建て住宅には必ず特定の所有者がいて、その住宅の補修や将来について責任を負っている。賃貸住宅でもオーナーがいて、全ての責任を負っている。分譲マンションには区分所有者がいて、管理組合を組織し所有者に代わる役割を担う仕組みになっているが、元々、室内造作だけを区分所有しているだけであるため、建物全体に対する所有概念は希薄だ。

こうした区分所有者が集まっても、意識・認識が所有者目線に昇華してゆきにくい。そこでの最大公約数は「現状」が共通の認識であり「現状維持」から転化し、時代状況に合わせたグレードアップに進みにくい。こうした状況にある事を認識した上で管理組合は、所有者目線を持てるような取り組みができる役員選出方法が必要になる。

役員の輪番制は、公平に区分所有者が管理組合運営に関わる方法として多くの管理組合で行われている。輪番制で全員が役員を務めることによって、構成員全員の管理に対する理解・認識が深まることも期待されているが、足の引っ張り合いになってしまうところもある。内実は、公平の名の下に、「嫌がるものに強制するための仕組み」になっているのではないだろうか。輪番制の継続からは将来が見えてこない。問題の拡大再生産の一途。輪番制の継続が所有者目線の運営を阻んでいる。将来を見据えた運営をするためには輪番制からの脱却が必要になる。

輪番制の下では、全員が公平に役員を務めるのだから、役員報酬を出さず無償うボランティアでするのが当たり前になっている。継続した取り組みをするには、無償ボランティアでは困難で、無償ボランティアは無責任と紙一重。

将来のことは、管理会社や専門家に任せたらよいという意見も幅を利かせているが、住んでいるマンションの将来を構想する経営的視点は、管理会社やマンション管理士の専門家、業者にはできない。区分所有者だけにできるもの、区分所有者が取り組まなければならないものである。』

将来を見据えた運営をするためには、所有者目線の運営を阻む輪番制からの脱却が重要。

マンションの将来を構想する経営的視点は、管理会社やマンション管理士などの業者任せにせず、区分所有者が自ら取り組まなければならない。

佐藤理事長の言葉が、なんとすがすがしく心に響くことでしょうか。

輪番制を推奨し、組合の自発的・継続的な運営の芽を摘み、いつまでも素人を手玉に取るような愚民政策を続けることで利益をあげようとする管理会社や不適切コンサルタントは、このような管理組合運営には入り込む余地がありません。真理を極めた奇跡の運営ですね。

次回は最後に、西京極大門ハイツ管理組合法人の長期ビジョンに基づく組合運営を紹介したいと思います。

 

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